深い眠りから目を覚ました白花は、白牙が自分の顔を見つめていることに気が付いて顔を赤らめた。
「恥ずかしがるな。愛しい妃の可愛い寝顔を見る権利くらい夫の俺にはあるだろう?」
「それは……そうなのですが……」
「白花、大儀であった。元気な皇子だ。おまえに似て器量よしだ」
「器量よしであるならば白牙様に似ているのです」
白牙は愛おしそうに白花の髪を撫でる。
「白花に俺がおまえを妃に選んだときのことを教えねばならないと思ってな」
「教えてほしいです!」
「白虎の皇子は自分の妃を探すのに苦労するものだ。愛する女がそう都合よく見つかるわけもない」
「白牙様も苦労されたのですか?」
「いや、俺はすぐに白花を見つけた。一目惚れに近かかったな」
「いつのことですか」
「おまえ、自分にあざがあると気が付いたのはいつだ? 俺がおまえに印を付けたのはその頃になる」
「母が病に倒れたころだと思います。母はそのまま帰らぬ人となりました。過労だったと……」
「つらいことを思い出させてしまったな……」
「いえ。ですが、そのころすでに私を見初めてくださっていたのですか? ほんの子供ですよ」
「俺だって子供だった」
「まあ、幼い白牙様は可愛らしかったでしょうね、お会いしたかったです」
「子供心におまえの美しい心に強く惹かれたものだ。もちろんその容姿にも。あの頃の俺はやんちゃで付き人をよく困らせていた。俺は幼いころから花嫁探しをしていたのだ。忍んでいろいろなところに行っていた。公務に向かう父に無理を言って付いていき、地方にも出向いていたのだ。そこでおまえを見つけた。おまえは、傷ついたリスを介抱していた」
白牙は遠い目をする。幼いころの白花の姿を思い出しているようだ。
「リスを優しくなで、その傷を癒してやっていた」
「そんなことが……」
「俺はおまえに一目惚れしたのだ。本能がおまえを求めた。優しく、美しいおまえを。妃にするならこの女がいいと。だが、白花が住んでいたのは俺の都から遠く離れた村だ。見失わないよう印をつけたのだが……」
「それが、私の体にあるあざですか?」
「俺の独占欲がおまえを傷つけた。本当にすまなかった」
「いえ、私はこのあざのことが好きでした。花のようで……。それは、白牙様が私にくださったあざだったからだと思います。義両親からは醜いと言われましたが……」
「大きな印をつけるつもりではなかったのだ。だが、俺がもつ白虎の力は思いのほか強く、うまく扱いきれずにおまえに多くの力を分け与えることになった」
「それがあざ……」
「それからおまえが持つ治癒の力にも大きく影響を及ぼしたようだ。俺が与えた力はおまえによくなじんだらしい。結果としてよかったのだ。おまえに多くの力を分けていたことでおまえは俺の力に順応していた。腹に子を宿したことで治癒の力は高まり、病も毒の影響も寄せ付けなかったのだろう。本当によかった」
「皇太妃様の堕胎薬が効かなかったのはそのおかげですね」
「そのようだ」
「ありがとうございます、私も御子も、ずっと白牙様に守られていたのですね」
「結果としてそうなったことを幸運に思うが、おまえの優しい気持ちが力を変化させた結果だ。おまえに力を分けたことで、俺自身の体調もとてもよくなったのだ。幼いころの俺は白虎の力をうまく制御できずによく高熱を出して母を困らせたらしい」
「そうなのですね……」
白花は白牙の頬に触れる。
「おまえは俺の恩人でもある」
「私たちは、互いに互いを必要とする存在だったのかもしれませんね」
「しれないではない、そうなのだ。俺にはおまえは必要だ」
「そうですね、私にも、白牙様が必要です」
「仔巴にも医者にも、まだ白花を抱いてはいけないと強く釘を刺されているのだ……愛しいおまえを前に、我慢するのは至難の業だ」
「私はこうして一緒にいられるだけで幸せです」
「俺も、そうなのだが……。そうだな、おまえの体が一番大切だ。出産は命懸けだ、母子ともに無事でいてくれて本当に嬉しい。だが、これほど自分を無力に感じたことはない。俺は、本当に何もできなかった。そして、おまえの強さを再認識した」
「手を握っていてくださいました。どれほど心強かったことか」
「そのくらいしかしてやれない自分がもどかしかった」
「いいえいいえ、私も初めてのことでしたから、心細かったのです。お忙しいのに一緒にいてくださって本当にありがとうございました」
「自分の子が生まれてくるのだ、当たり前のことだ。白花……」
「はい」
「愛している」
翡翠色の瞳が揺れる。白花はその熱に応えるように白牙を見つめ返した。
「私も、愛しております」
「これからも末永くそばにいてくれ」
「はい、私を白牙様のお側においてください」
朝日が昇ろうとしている。希望に満ちた光は、白く輝き、白牙の治世を祝福するようだと白花は思った。稀代の白虎の皇帝は、稀なる強い力を持ち、隣国とも和平を築き、西の国の発展に尽力した。その傍らには常に美しい皇妃の姿があり、仲睦まじい様子であった。多くの子宝にも恵まれ、歴代の皇帝の中でも最も幸せな王であったと、記されている。
「恥ずかしがるな。愛しい妃の可愛い寝顔を見る権利くらい夫の俺にはあるだろう?」
「それは……そうなのですが……」
「白花、大儀であった。元気な皇子だ。おまえに似て器量よしだ」
「器量よしであるならば白牙様に似ているのです」
白牙は愛おしそうに白花の髪を撫でる。
「白花に俺がおまえを妃に選んだときのことを教えねばならないと思ってな」
「教えてほしいです!」
「白虎の皇子は自分の妃を探すのに苦労するものだ。愛する女がそう都合よく見つかるわけもない」
「白牙様も苦労されたのですか?」
「いや、俺はすぐに白花を見つけた。一目惚れに近かかったな」
「いつのことですか」
「おまえ、自分にあざがあると気が付いたのはいつだ? 俺がおまえに印を付けたのはその頃になる」
「母が病に倒れたころだと思います。母はそのまま帰らぬ人となりました。過労だったと……」
「つらいことを思い出させてしまったな……」
「いえ。ですが、そのころすでに私を見初めてくださっていたのですか? ほんの子供ですよ」
「俺だって子供だった」
「まあ、幼い白牙様は可愛らしかったでしょうね、お会いしたかったです」
「子供心におまえの美しい心に強く惹かれたものだ。もちろんその容姿にも。あの頃の俺はやんちゃで付き人をよく困らせていた。俺は幼いころから花嫁探しをしていたのだ。忍んでいろいろなところに行っていた。公務に向かう父に無理を言って付いていき、地方にも出向いていたのだ。そこでおまえを見つけた。おまえは、傷ついたリスを介抱していた」
白牙は遠い目をする。幼いころの白花の姿を思い出しているようだ。
「リスを優しくなで、その傷を癒してやっていた」
「そんなことが……」
「俺はおまえに一目惚れしたのだ。本能がおまえを求めた。優しく、美しいおまえを。妃にするならこの女がいいと。だが、白花が住んでいたのは俺の都から遠く離れた村だ。見失わないよう印をつけたのだが……」
「それが、私の体にあるあざですか?」
「俺の独占欲がおまえを傷つけた。本当にすまなかった」
「いえ、私はこのあざのことが好きでした。花のようで……。それは、白牙様が私にくださったあざだったからだと思います。義両親からは醜いと言われましたが……」
「大きな印をつけるつもりではなかったのだ。だが、俺がもつ白虎の力は思いのほか強く、うまく扱いきれずにおまえに多くの力を分け与えることになった」
「それがあざ……」
「それからおまえが持つ治癒の力にも大きく影響を及ぼしたようだ。俺が与えた力はおまえによくなじんだらしい。結果としてよかったのだ。おまえに多くの力を分けていたことでおまえは俺の力に順応していた。腹に子を宿したことで治癒の力は高まり、病も毒の影響も寄せ付けなかったのだろう。本当によかった」
「皇太妃様の堕胎薬が効かなかったのはそのおかげですね」
「そのようだ」
「ありがとうございます、私も御子も、ずっと白牙様に守られていたのですね」
「結果としてそうなったことを幸運に思うが、おまえの優しい気持ちが力を変化させた結果だ。おまえに力を分けたことで、俺自身の体調もとてもよくなったのだ。幼いころの俺は白虎の力をうまく制御できずによく高熱を出して母を困らせたらしい」
「そうなのですね……」
白花は白牙の頬に触れる。
「おまえは俺の恩人でもある」
「私たちは、互いに互いを必要とする存在だったのかもしれませんね」
「しれないではない、そうなのだ。俺にはおまえは必要だ」
「そうですね、私にも、白牙様が必要です」
「仔巴にも医者にも、まだ白花を抱いてはいけないと強く釘を刺されているのだ……愛しいおまえを前に、我慢するのは至難の業だ」
「私はこうして一緒にいられるだけで幸せです」
「俺も、そうなのだが……。そうだな、おまえの体が一番大切だ。出産は命懸けだ、母子ともに無事でいてくれて本当に嬉しい。だが、これほど自分を無力に感じたことはない。俺は、本当に何もできなかった。そして、おまえの強さを再認識した」
「手を握っていてくださいました。どれほど心強かったことか」
「そのくらいしかしてやれない自分がもどかしかった」
「いいえいいえ、私も初めてのことでしたから、心細かったのです。お忙しいのに一緒にいてくださって本当にありがとうございました」
「自分の子が生まれてくるのだ、当たり前のことだ。白花……」
「はい」
「愛している」
翡翠色の瞳が揺れる。白花はその熱に応えるように白牙を見つめ返した。
「私も、愛しております」
「これからも末永くそばにいてくれ」
「はい、私を白牙様のお側においてください」
朝日が昇ろうとしている。希望に満ちた光は、白く輝き、白牙の治世を祝福するようだと白花は思った。稀代の白虎の皇帝は、稀なる強い力を持ち、隣国とも和平を築き、西の国の発展に尽力した。その傍らには常に美しい皇妃の姿があり、仲睦まじい様子であった。多くの子宝にも恵まれ、歴代の皇帝の中でも最も幸せな王であったと、記されている。



