ほどなく人の気配と共にドア前のチャイムが鳴ったから、息を止めドアを開けた。

「佑斗、なんで……」
「開けてくれた! 声でわかってくれたのすんげー感動。嬉しい」

 玄関には、懐かしい姿があった。
 聞きたいことは山ほどあるのに、びっくりして胸がいっぱいになって、言葉が出ない。

「久しぶり。驚かせてごめん。言いたいこと解るから、俺から説明するわ」
「……とりあえず、入って」

「流石~すんげーいいところ住んでるんだな! 何平米? 家賃いくら?」

 家の中を見回しながら、佑斗は俺の後についてリビングへ入って来た。
 
「ここ、住処じゃないし。仕事部屋だから別に広くないよ。っていうかそんな話どうでもよくて! 何でここが解ったんだよ」
「お前の居所知ったのは……最近」
「そういう事きいてるんじゃなくて、」
「ずっと知らなかった、この十年。輝明の消息。だって誰にも言わずに上京したろ?」
「ふ、深い意味なんてないよ! そんなに仲いい友達いなかったから知らせる必要なんてないし……さっき佑斗だって解ったのも、声覚えてるとかじゃなくて、僕の事名前で呼ぶの佑斗しか居なかったから……」

 制服姿で記憶が止まっている佑斗は、今スーツ姿だけれど笑顔は変わらずで、頭の中が攪拌される感覚に陥る。

「そんな事いうなよ。みんな悲しがるよ。寂しがってる奴もいるし、それに輝明が名前で呼ばれるの嫌がってるぽいから、気を遣ってたのもあって苗字呼びしてたと思うよ」
「呼ばれるのが嫌と言うか、僕は自分の名前が嫌いだからっ」
「そうだったのか? 良い名前じゃね?」
「良すぎるんだよ⋯⋯僕は正反対で、輝いてもないし明るくもないから!」

 名前負け、という言葉で怒られついでに親に揶揄された事が何度かあった。自分達が付けたくせに、と言い返せず鬱々とした思春期。
 羞恥が襲い大きな声で謎の独白をしてしまった僕に、佑斗は少し驚いたけれど、すぐに笑顔を見せた。

「そういや昔も似たようなこと言ってたな。もし嫌な思いさせてたらごめんな。俺がガサツだからお前の気持ち考えず、呼んでた」
「別に、佑斗に呼ばれるの、嫌だった訳じゃないよ⋯⋯」
「よかった。それに正反対なんかじゃない、輝明ホント今すごいじゃん」
「え? 何が」
「音声合成ソフトPからの今や売れっ子作曲家、だよな?」

 にこにこと表情変えずに言われた言葉に、僕は血の気が引いた。
 
「ど、どうして? いつから知って⋯⋯」
「やっぱり。昔二人で一緒にいた時お前が無意識に口ずさんでたフレーズとそっくりな曲が、SNSでバズって流れてきて。その後何個も。
聞いたことがあるって偶然がそんな重なるか? と思って調べたら、絶対表に顔を出さないCloud≒darkさんて人だったから、輝明が自分の名前変えるなら付けそうー!って」