今週末が本番ということもあって、本格的に体育祭の練習が始まった。六時間目が終わるとすぐ、体育館やグラウンドに集まって、チームごとに分かれての入場と退場、応援合戦など、全学年を対象とする練習から、ダンスや学年ごとの競技の練習も行われる。また、体育の授業も変わらずダンス練習がメイン。体育祭が終わるまでは、それ以外、何もやらないらしい。
「えー、続いては応援合戦の練習をしまーす。学年ごとに並び直してくださーい」
長ランに赤い襷、白い手袋を嵌めた、団長らしき女子が声を張る。
「はい一年生！　だらだらしないよ！」
「並んだら、指示があるまでは動かないの！」
仲間の応援団員らが口煩く注意する。抗えないために、大人しく指示に従う。
「二年生も、先輩としてしっかりして。三年生はもう並び終わってるよ！」
「一年生、足引っ張らない！　後輩なら、一番にちゃんとしなきゃだよ！」
　奇しくも、櫻楽と同じ紅チームだった。三年生女子だけで構成される応援団。一見すると盛り上げ役っぽく見える櫻楽の姿は見当たらない。
　定位置が決まらないクラスメイトの数名がふざけ合う。その横をすり抜け、背後に回った僕は、後ろで様子を見ていた担任に一声かけ、グラウンドを後にした。
　中学校から自宅まで、徒歩約十五分。これでも家から一番近いし、小学校は徒歩三十分かけて登校していたから、だいぶマシだ。
「ただいま」
　誰もいない自宅は、三階建てアパートの二階、一番北側にある。玄関の鍵を締める。リュックをソファに投げ捨て、手を洗ったついでに制服を脱ぎ、よれよれの私服に着替える。
　体育祭が近いこともあって、今週から来週にかけて課題の量は普段の二分の一。なんなら課題のない教科のほうが目立っている。
「先にアニメでも観るか」
リモコンを握り、画面を操作、録画一覧の中から最新話を選択し、ソファに背を預けて観始める。ちょうど、物語の佳境となるところだった。
　家で、こうして一人でいる時間にもだいぶ慣れてきた。今までは、毎日じゃないけど、家に帰れば、姉が僕のことを迎え入れてくれていた。
でも今年の四月、姉が初めて正社員になってからは、僕が姉を迎え入れる番になった。それまでは、パートとして食品加工会社の製造業を担当していたが、社員数名が退社するに当たり、正社員にならないかと打診があったらしい。自宅からも近く、給料もそこそこ良いためか、姉は僕に嬉しそうに報告して、速攻返事をしていたのを、今でも覚えている。
そんな姉から、昼過ぎにメールが送られてきていた。今日は帰宅してから料理を作ってくれるらしい。
十七時を告げるチャイムが鳴る。そろそろ姉が帰宅してくる頃だ。