アルバイトを始めて、一年が経過した。変わらず週三日、三時間働いている。その間に、リハビリが入って、月に一度の通院日がある。症状は変わらずで、治ることはないが、進行している感じもしなかった。
 けど、ふたつの変化があった。
 一つは、携帯がスマホに進化したこと。ずっと使ってきた携帯が壊れ、新たに買い替えることに。僕は、二つ折りの携帯でもよかったのだが、「どうせならスマホにしなよ」と、姉から勧められて、型落ちのものを買ってもらった。それからは毎日、スマホでしかできない楽しみを味わっている。
 もう一つは、姉が、新たな職場で、正社員として働き始めたこと。
 元々勤めていた会社の廃業に伴い、社員らは、系列の同じ会社に入社するか、もしくは紹介した先で就職するか、選択するよう求められたらしい。系列の会社へは、社員全員が移れるほどの枠がなく、姉は早々に、別の会社への入社を決断。
面接が行われ、僕の病状により勤務時間が異なることにも了承を得て、入社。前の勤め先とはまた異なる、調理器具を扱う会社の製造部として、仕事をしている。最初は営業を進められたが、過去の経歴を話し、理解が得られたからと、姉は言っていた。その会社には、姉の友人である樹理さんも入社し、営業部として、あちこち走り回っている、という話も聞いた。僕からすれば、姉が楽しいなら、それでいい。
 母は、あの日から一度も家に帰ってきていない。姉も、現在どうしているのか知らないらしい。ただ、その話しになると、いつも、どうせどこかで男にべったりな生活をしているのだろう、という展開で幕を閉じる。後味が苦くて、僕は苦手だが。
 櫻楽に会えるまで、まだ二年半以上もある。とにかく僕は、死なないこと、を目的に、入院しなくて済むよう、毎日に気を遣って生活していた。
 そんなある日。
「皇叶、今夜、このお店に来てくれないかな」というメッセージと共に、駅近くに新しくオープンした、パスタ料理専門店の地図が送られてきた。姉に確認すると、「大事な話があるから。予約は十八時にしてあるから」と言われ、僕の胸は緊張と不安で変に痛んだ。
 約束の時間よりも、十分近く早く到着したものの、既に姉も到着していて、僕以外の誰かを待っているようだった。
「話って、なに?」
「ここじゃ言えないよ」
「もしかして、男?」
「……あ、来た」
 姉はわざとらしく前方を指して、恥ずかしそうに手を振る。視線の先、高身長、爽やかさマックスの男性が、手を振りながら歩いてきた。カッチリとしたスーツを着ていて、風が吹いても髪の毛は一切揺れない。
「ごめん、待たせたよね」
「大丈夫です。今、来たところなので」
「そう」
 男性の視線が、僕に移る。身長差、三十センチといったところか。
「もしかして、姫乃さんの弟さん?」
「え、あ……」
「ほら、挨拶して」
「あ、弟の、皇叶です。姉がいつも? お世話に、なってます……?」
 どういう関係か分からないからか、口から出る言葉は、疑問形だった。すると男性はふふふと笑って、「そんなに固くならなくていいよ」と言った。
「中、入ろうか」