入学式翌日からも、一応は自転車で登下校をしていた。が、四月の後半ごろになると、到着して十分ほど経たないと、階段を上れなくなっていた。途中で息が切れ、苦しくなる。階段でそういうところを見られると、色々と問題。だから、自転車置き場近くにあるトイレに籠り、息を整えてから階段を上り、教室へと向かうようにしていた。
そのことに嫌気がさして、結局、自転車での登校は入学から一か月で諦めた。姉はそのことを優しく受け止め、車で送迎するよ、と言ってくれた。
「別に、学校には病気のこと言ってあるんだし、配慮もしてくれるって言ってくれてるんだから、その辺は問題ないって」
「……うん」
「あと、人目を気にするんなら、早い時間に行けばいいの。実はね、この四月から、生産体制が変わって、朝八時から勤務の人と、朝九時から勤務の人とに、分けることになって。今は九時から働いてるけど、それを八時からにすれば、帰りも一時間早く迎えに行ける。それでどう?」
また僕は、姉に迷惑をかけている。姉の仕事先の人にも迷惑をかけている。やっぱり、僕なんか早く死ねばよかったんじゃないのか。
「辛くても、与えられた命を、生きなきゃ」
姉は、何でもお見通し。嘘を言ったら、バレる。
「自転車、嫌いになったわけじゃなくて、翌日以降も筋肉痛は残るし、何よりも、体育の授業に出席していないのに、自転車を漕いで登下校する姿がどう見られているのか、気になって仕方なかったから、なんだよね」
「うん」
「だけどさ、車で送迎となると、なんとなく説明がつくというか、大体の人は、この人は体が弱いんだ、とかって、解釈してくれるから」
「そうだね」
また、こうして人の想像力に任せた。姉はそれを優しく肯定してくれる。
僕は、高校生になっても変わらなかった。人の目を気にするあまり、自分の素性を曝け出せず、病気のことも隠し、また人からの信用を失くす。このループに嵌り、抜け出せないのだ。
アルバイトだって、やろうと思って面接は受けた。でも、五連敗。全部、病気が原因だった。まぁ、当たり前のことといえばそうなのだけど、でも、働いてもないのに決めつけるのは変だろ。
「そっか、ダメだったか」
「でもさ、新しい策、考えてるんだよね」
「どんなこと?」
「まだ、秘密。でも、中間試験終わったら話すから、待ってて」
中間テストは、ちゃらんぽらんな状態で受けた。ろくにテスト勉強もしていない。それなのに、七十点は獲れた。我ながら天才だ。
「テストの点、どうだったよ」
「全部七十点台。可もなく不可もない点」
「ノー勉でそれだろ? すげーな」
「まぁ、康平には敵わないけどね」
机の上に広げられる四人、それぞれのテスト用紙。康平は、どれも九十点以上で、数学に関しては百点で、学年トップの成績らしい。
「へへーい、俺なんか、だいたい四十から五十点。勉強したけど」
「赤点じゃないだけマシじゃん。俺も人のこと言えないけど」
「でも蓮我、最低でも六十点じゃん。親に叱られたりするのか?」
「叱ることはないけど、呆れられるかな。まぁ、俺、そもそも大学行くつもりなんてないし」
「へへーい、それは俺もだ! 因みに、これ以上進学するつもりはない。就職一本」
「デクノボウでも働ける場所があるといいね」
普通の人が、康平の発言を聞けば嫌味に捉えるだろうが、和久にはそう伝わらない。全部、俺への愛情、だと思って受け取っているらしい。ある意味、能天気もいいところだ。
この四人で、ずっといることなんて敵わない。俺は、この中で一番に死ぬ。これ以上仲良くなったって、関係は続かない。途切れる。
チャイムが鳴った。テストが終わって早々、来月末に行われる、クラス対抗のスポーツ大会についての話が行われる予定なのだが、正直、スポーツ競技しかない時点で、参加するつもりのない僕は、競技について、適当なことを用紙に書いた。楽しむ気なんて、ゼロだ。
そして、僕はその日、欠席した。家で、蓮我に借りた漫画を、読み漁っていた。
そのことに嫌気がさして、結局、自転車での登校は入学から一か月で諦めた。姉はそのことを優しく受け止め、車で送迎するよ、と言ってくれた。
「別に、学校には病気のこと言ってあるんだし、配慮もしてくれるって言ってくれてるんだから、その辺は問題ないって」
「……うん」
「あと、人目を気にするんなら、早い時間に行けばいいの。実はね、この四月から、生産体制が変わって、朝八時から勤務の人と、朝九時から勤務の人とに、分けることになって。今は九時から働いてるけど、それを八時からにすれば、帰りも一時間早く迎えに行ける。それでどう?」
また僕は、姉に迷惑をかけている。姉の仕事先の人にも迷惑をかけている。やっぱり、僕なんか早く死ねばよかったんじゃないのか。
「辛くても、与えられた命を、生きなきゃ」
姉は、何でもお見通し。嘘を言ったら、バレる。
「自転車、嫌いになったわけじゃなくて、翌日以降も筋肉痛は残るし、何よりも、体育の授業に出席していないのに、自転車を漕いで登下校する姿がどう見られているのか、気になって仕方なかったから、なんだよね」
「うん」
「だけどさ、車で送迎となると、なんとなく説明がつくというか、大体の人は、この人は体が弱いんだ、とかって、解釈してくれるから」
「そうだね」
また、こうして人の想像力に任せた。姉はそれを優しく肯定してくれる。
僕は、高校生になっても変わらなかった。人の目を気にするあまり、自分の素性を曝け出せず、病気のことも隠し、また人からの信用を失くす。このループに嵌り、抜け出せないのだ。
アルバイトだって、やろうと思って面接は受けた。でも、五連敗。全部、病気が原因だった。まぁ、当たり前のことといえばそうなのだけど、でも、働いてもないのに決めつけるのは変だろ。
「そっか、ダメだったか」
「でもさ、新しい策、考えてるんだよね」
「どんなこと?」
「まだ、秘密。でも、中間試験終わったら話すから、待ってて」
中間テストは、ちゃらんぽらんな状態で受けた。ろくにテスト勉強もしていない。それなのに、七十点は獲れた。我ながら天才だ。
「テストの点、どうだったよ」
「全部七十点台。可もなく不可もない点」
「ノー勉でそれだろ? すげーな」
「まぁ、康平には敵わないけどね」
机の上に広げられる四人、それぞれのテスト用紙。康平は、どれも九十点以上で、数学に関しては百点で、学年トップの成績らしい。
「へへーい、俺なんか、だいたい四十から五十点。勉強したけど」
「赤点じゃないだけマシじゃん。俺も人のこと言えないけど」
「でも蓮我、最低でも六十点じゃん。親に叱られたりするのか?」
「叱ることはないけど、呆れられるかな。まぁ、俺、そもそも大学行くつもりなんてないし」
「へへーい、それは俺もだ! 因みに、これ以上進学するつもりはない。就職一本」
「デクノボウでも働ける場所があるといいね」
普通の人が、康平の発言を聞けば嫌味に捉えるだろうが、和久にはそう伝わらない。全部、俺への愛情、だと思って受け取っているらしい。ある意味、能天気もいいところだ。
この四人で、ずっといることなんて敵わない。俺は、この中で一番に死ぬ。これ以上仲良くなったって、関係は続かない。途切れる。
チャイムが鳴った。テストが終わって早々、来月末に行われる、クラス対抗のスポーツ大会についての話が行われる予定なのだが、正直、スポーツ競技しかない時点で、参加するつもりのない僕は、競技について、適当なことを用紙に書いた。楽しむ気なんて、ゼロだ。
そして、僕はその日、欠席した。家で、蓮我に借りた漫画を、読み漁っていた。



