手首の痛みは、二日ほどでなくなり、病院に行き直す必要はなさそうだった。
櫻楽が家に来るまで、残り三十分。姉は冷蔵庫を開けるなり、溜め息を漏らした。
「あー、やばい。これ使ったら肉全部終わりだ」
「え。魚は?」
「ない。昨日の夜食べたので終わり」
「……ふーん」
携帯を触る。姉の視線が注がれる。
「皇叶、今から行ってきて」
「え、今から? このあと櫻楽来るのに?」
「夕飯抜きになるけど、それでもいい?」
「ヤダ」
「じゃあ行ってきて」
「……はいはい」
小学三年生から使っている財布。一万円札一枚、あと少しの小銭と、大量のレシート。じゃらじゃらと音を鳴らすキーホルダー。
「七千六百円になります」
小銭を出すのを諦め、そのまま万札を出す。「いつもよりまとめ買いしてきて」そのオーダーの通り、買い物をしただけ。札と小銭の枚数が増えた。
スーパーのロゴが入るレジ袋を片手に提げ、歩いていた。家が近づく。それと同時に、男性と女性の話し声が聞こえた。
角を曲がる。姉と櫻楽が向かい合って話している姿が目に入った。どことなく、姉は権幕で、櫻楽のことを見つめていた。
「お姉ちゃん、どうした――」
途端、姉と櫻楽が同時に顔を向けた。姉の目はつり上がり、逆に櫻楽は唖然とした表情を浮かべていた。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「皇叶、どういうこと」
「え、なにが」
「どうして病気のこと、私に黙ってたの?」
全身の力が抜けて、レジ袋を両方落とした。中に入っていた野菜や肉、魚があちこちに飛散して、キャベツは坂を転がる。まるで漫画のような滑稽な光景。
「あーあー」
櫻楽がキャベツを拾いに走る。姉もハッとして、慌てて袋の中に戻し入れて行く。卵は、取り返しがつかなかったようだ。
「あ、ちょっと、こら、皇叶! 待ちなさいよ!」
気付いたら、僕は家の玄関にいた。膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
涙はしょっぱい。
姉がドアを開ける。両手には、レジ袋を抱えていた。
「お姉ちゃん……」
「早く冷蔵庫入れないと傷んじゃうでしょ。ちょっとどいて」
姉は平気で僕の足を踏んづけた。何気に痛くて、さらに膝を抱える。
「あ、今日の夕食は、肉味噌炒めでいいね?」
「え、決める権利なし?」
「だって、いつ帰ってくるかわからないでしょ」
姉がこちらを向く。開いているドアから聞こえてくる足音。
「皇叶……」声がした。振り向く。櫻楽が、顔色を窺うように立っていた。
「櫻楽……」足が後ろに下がる。「待って」手が伸びる。
「話がしたい。一緒に来てくれないか」腕をそのまま掴まれた。部屋へのルートは姉に塞がれ、逃げ道はもうない。
「……」
「皇叶、行って来なさい。ご飯なら、ちゃんと作っておくから」
「……なんで」
「いいから。ほら、行きなさいよ」姉が背中を押す。無理やり靴を履かされ、外に出された。
櫻楽が家に来るまで、残り三十分。姉は冷蔵庫を開けるなり、溜め息を漏らした。
「あー、やばい。これ使ったら肉全部終わりだ」
「え。魚は?」
「ない。昨日の夜食べたので終わり」
「……ふーん」
携帯を触る。姉の視線が注がれる。
「皇叶、今から行ってきて」
「え、今から? このあと櫻楽来るのに?」
「夕飯抜きになるけど、それでもいい?」
「ヤダ」
「じゃあ行ってきて」
「……はいはい」
小学三年生から使っている財布。一万円札一枚、あと少しの小銭と、大量のレシート。じゃらじゃらと音を鳴らすキーホルダー。
「七千六百円になります」
小銭を出すのを諦め、そのまま万札を出す。「いつもよりまとめ買いしてきて」そのオーダーの通り、買い物をしただけ。札と小銭の枚数が増えた。
スーパーのロゴが入るレジ袋を片手に提げ、歩いていた。家が近づく。それと同時に、男性と女性の話し声が聞こえた。
角を曲がる。姉と櫻楽が向かい合って話している姿が目に入った。どことなく、姉は権幕で、櫻楽のことを見つめていた。
「お姉ちゃん、どうした――」
途端、姉と櫻楽が同時に顔を向けた。姉の目はつり上がり、逆に櫻楽は唖然とした表情を浮かべていた。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「皇叶、どういうこと」
「え、なにが」
「どうして病気のこと、私に黙ってたの?」
全身の力が抜けて、レジ袋を両方落とした。中に入っていた野菜や肉、魚があちこちに飛散して、キャベツは坂を転がる。まるで漫画のような滑稽な光景。
「あーあー」
櫻楽がキャベツを拾いに走る。姉もハッとして、慌てて袋の中に戻し入れて行く。卵は、取り返しがつかなかったようだ。
「あ、ちょっと、こら、皇叶! 待ちなさいよ!」
気付いたら、僕は家の玄関にいた。膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
涙はしょっぱい。
姉がドアを開ける。両手には、レジ袋を抱えていた。
「お姉ちゃん……」
「早く冷蔵庫入れないと傷んじゃうでしょ。ちょっとどいて」
姉は平気で僕の足を踏んづけた。何気に痛くて、さらに膝を抱える。
「あ、今日の夕食は、肉味噌炒めでいいね?」
「え、決める権利なし?」
「だって、いつ帰ってくるかわからないでしょ」
姉がこちらを向く。開いているドアから聞こえてくる足音。
「皇叶……」声がした。振り向く。櫻楽が、顔色を窺うように立っていた。
「櫻楽……」足が後ろに下がる。「待って」手が伸びる。
「話がしたい。一緒に来てくれないか」腕をそのまま掴まれた。部屋へのルートは姉に塞がれ、逃げ道はもうない。
「……」
「皇叶、行って来なさい。ご飯なら、ちゃんと作っておくから」
「……なんで」
「いいから。ほら、行きなさいよ」姉が背中を押す。無理やり靴を履かされ、外に出された。



