七月は、夏休みに入る一週間前に通院日が訪れた。期末テストを終えたばかりで、まだ返却はされていなかった。そのことを風雅先生にも話した。すると「来月聞かせてもらう」と言って、「ふふふ」と笑った。
「それで、遊びに行く予定は、どうなった?」
「十三日で決まった」
「十三日、か」
「その日予定あった?」
「いや、予定はないけど」
「じゃあ、なに?」
「ひとつ、気になってることがあって」
「え、なに」
「この前さ、弟……、あ、今年中三になった弟いるんだけど、相談されたことがあって」
「なんの?」
「弟がさ、持病がある友達と遊びに行くときの、注意点を聞いてきてさ。で、友達の病名知ってるのかって尋ねたら、病名は知らないが、神経内科と整形外科がある病院、しかも兄ちゃんがいる病院に通ってる時点で、何となくは、って。そう答えたからさ。まあその時点で、弟が通う中学校に、皇叶君も通っていると思い出したのもあるんだけど」
 胸がドキドキした。随分前に知ったことを、風雅先生はようやく気付いたようで、おもしろくも、知られてしまったという驚きとが隠せない気持ちだった。
「先月来たとき、友達と遊びに行っていいか、って聞いてきた、その友達って、俺の弟だったりするのかなって思ったんだけど」
 僕は溜め息を吐いた。風雅先生は「違った?」と言って首を傾げた。俺は首を振った。
「そう。遊び相手は、風雅先生の弟、日下部櫻楽」
「やっぱり」
「気付くの遅すぎ」
「え、そうか?」
「うん。だって先生の年齢聞いた時も考えたけど、病院の受付で出くわして、そのとき聞いたから」
「直接聞いたのか。俺は推理したんだから、時間かかっても仕方ないだろ」
 風雅先生は面白い人だと思う。櫻楽よりも明るい性格なのだろう。
「じゃあさ、相談していい?」
「ん、どんなことでも」
「遊びに行く日、できれば風雅先生にも付き合ってほしい」
「え、お、俺に?」
「仮に変更になっても、予定は、お盆休みの間にしか入れないし。そのとき、ここも休みじゃん」
「まあ、そうだけど」
「櫻楽と二人きりが嫌、ってことじゃなくて、ただ単に、不安っていうか、何かあったときに困るから。櫻楽と風雅先生は兄弟なんだから、誘ってもいいでしょ?」
「弟のこと、そう呼んでるのか。え、じゃあ櫻楽も呼び捨て?」
「そりゃそうだろ。僕のほうが年下なんだから」
「じゃあ、皇叶君は弟のこと、年上だけど呼び捨てにしてるんだ」
「し、仕方ないだろ。その、出会ったとき、まあまあムカついてたから」
「で、今も態度変えてないんだ。可愛いな」
「う、うるさい。風雅先生って、ホント櫻楽に似てる」
「だって兄弟なんだもん。そりゃ多少なり似てるとこはあるでしょ」
「ま、まあそういうことだから、予定空けといてよ。どうせ、行く日は櫻楽から聞けるだろ?」
「まあ、多分な。で、櫻楽には言うのか? 俺が一緒に行くこと」
「言う。なんか、聞いた感じだと、兄弟仲悪くないみたいだし」
「ああ。仲いいぞ、俺らは。妹も含めてな」
「なら、言う。で、付き合ってもらう。風雅先生には、僕と櫻楽の間を取り持ってもらうから。よろしく」
「わかった。ただし、状態が悪くなったらそのまま病院に連れて行くから、いいね?」
「悪くならないようにするし」
 僕と風雅先生は同時に親指を立て、頷き合った。