学校からの帰り、姉から送られてきたリスト片手に、カゴに商品を入れて行く。いつもと異なり、年齢層の幅が広い女性たちが多く訪れている。店内のあちこちにポップが掲げられ、目玉商品、だの、広告の品、だの、目立つ赤や黄色で彩られている。
「豚肉の安いやつ……か」
精肉コーナー。多くの女性たちが群がる中、中一男子が紛れ込む。グラム当たりの安い分を手に取り、カゴに入れる。だいぶ重たくなってきたが、耐える。
レジもいつもより混雑していて、会計までに時間を要した。レジ袋にぎゅうぎゅうに詰め込み、両手に提げて家まで帰る。その道中で、自転車に乗った櫻楽と遭遇した。予期せぬ所での遭遇に、互いの表情が強張る。
「今帰り?」そう聞いてきた櫻楽は、制服を脱いだ私服姿で、でもカチッとしたシャツを着ている。
「そうだけど、なに?」
「それ、重たいだろ?」
「べつに、これぐらい平気――」
言いかけているその間に、右手に提げていたレジ袋が、櫻楽の手によって取り上げられた。軽くなった反動からか、左に重心が傾く。
「家まで送るから、道教えて」
「家まで一人で行けるし」
「袋破れそうになってる。危ないから、カゴに入れな」
急に両手が軽くなって、脱力する。
「時間、平気なのか?」
「まだ大丈夫。心配してくれてありがと」
「別に、心配なんかしてないし」
自転車を押す櫻楽。その隣を、一歩遅れて歩き始める。
「あ、あのさ」
「ん?」
「朝、言ったこと、撤回する。だからって、お前を恋人って認めるわけじゃないからな」
「それは、まあ、うん」
「言いたいのは、僕は死ぬまで恋人はつくらない、ってこと。ただそれだけ」
「どうして」
「近い将来、どうせ僕は死ぬんだし。付き合ったからって、別に楽しいこともない。金も無駄にするだけだし」
「そんなこと、ないと思うけど」
「じゃあさ、もし先に約束してあって、僕が死んで行けなくなったらどうする? 相手はせっかく予定合わせたのにふざけるな、って絶対怒る。責められる。悲しむ奴なんていない」
「……」
「だからあんまり、先のこと約束したくない」
「そう、か」
櫻楽は、なんか寂しそうな瞳をした。それを手伝う、夕日。山のてっぺんを赤く燃やす。
「それは、一か月先でも?」
「一か月なら、マシ」
「わかった。じゃあ、七月になったら、誘う連絡を入れようかな」
「は、誘うって、なにに?」
「デート……というにはほど遠いから、ただの遊び。それならいいでしょ?」
櫻楽は無邪気な笑みを浮かべた。僕は、自然と頷いていた。
それから、毎朝のように櫻楽は僕のことを待ち伏せしていた。晴れていたら外で、雨が降っていたら玄関で、参考書片手に、だ。
休み時間中や、掃除の合間など、すれ違うことは多々あるのだから、そこまでしなくても、と思ってしまう。でも、もし朝、いつものように櫻楽が経っていなかったら、多少なりは寂しいと思うのかもしれない。今のところ月曜から金曜まで、ずっといるが。
人生初となる中間テスト期間――たったの二日間――を終え、行われたテスト返却。期待していた以上に、得点はよく、しかも数学と社会に関しては、学年で一位の得点だった。ということは、採点した教師と僕しか知らない。試験返却が終わった段階で、周囲のクラスメイトに自分の点数を見せびらかし、互いの賢さ度合を把握していく。これが授業終わりともなると、全体で開催される。そこに僕は含まれない。逆に清々しい思いに浸れる。
「ってことは、やっぱ数学と社会の最高得点は、あいつか」
「部活もしてないんだし、時間あるんでしょ」
「まじで嫌い。ああいう奴」
そしてまた、僕はひとりになる。
「豚肉の安いやつ……か」
精肉コーナー。多くの女性たちが群がる中、中一男子が紛れ込む。グラム当たりの安い分を手に取り、カゴに入れる。だいぶ重たくなってきたが、耐える。
レジもいつもより混雑していて、会計までに時間を要した。レジ袋にぎゅうぎゅうに詰め込み、両手に提げて家まで帰る。その道中で、自転車に乗った櫻楽と遭遇した。予期せぬ所での遭遇に、互いの表情が強張る。
「今帰り?」そう聞いてきた櫻楽は、制服を脱いだ私服姿で、でもカチッとしたシャツを着ている。
「そうだけど、なに?」
「それ、重たいだろ?」
「べつに、これぐらい平気――」
言いかけているその間に、右手に提げていたレジ袋が、櫻楽の手によって取り上げられた。軽くなった反動からか、左に重心が傾く。
「家まで送るから、道教えて」
「家まで一人で行けるし」
「袋破れそうになってる。危ないから、カゴに入れな」
急に両手が軽くなって、脱力する。
「時間、平気なのか?」
「まだ大丈夫。心配してくれてありがと」
「別に、心配なんかしてないし」
自転車を押す櫻楽。その隣を、一歩遅れて歩き始める。
「あ、あのさ」
「ん?」
「朝、言ったこと、撤回する。だからって、お前を恋人って認めるわけじゃないからな」
「それは、まあ、うん」
「言いたいのは、僕は死ぬまで恋人はつくらない、ってこと。ただそれだけ」
「どうして」
「近い将来、どうせ僕は死ぬんだし。付き合ったからって、別に楽しいこともない。金も無駄にするだけだし」
「そんなこと、ないと思うけど」
「じゃあさ、もし先に約束してあって、僕が死んで行けなくなったらどうする? 相手はせっかく予定合わせたのにふざけるな、って絶対怒る。責められる。悲しむ奴なんていない」
「……」
「だからあんまり、先のこと約束したくない」
「そう、か」
櫻楽は、なんか寂しそうな瞳をした。それを手伝う、夕日。山のてっぺんを赤く燃やす。
「それは、一か月先でも?」
「一か月なら、マシ」
「わかった。じゃあ、七月になったら、誘う連絡を入れようかな」
「は、誘うって、なにに?」
「デート……というにはほど遠いから、ただの遊び。それならいいでしょ?」
櫻楽は無邪気な笑みを浮かべた。僕は、自然と頷いていた。
それから、毎朝のように櫻楽は僕のことを待ち伏せしていた。晴れていたら外で、雨が降っていたら玄関で、参考書片手に、だ。
休み時間中や、掃除の合間など、すれ違うことは多々あるのだから、そこまでしなくても、と思ってしまう。でも、もし朝、いつものように櫻楽が経っていなかったら、多少なりは寂しいと思うのかもしれない。今のところ月曜から金曜まで、ずっといるが。
人生初となる中間テスト期間――たったの二日間――を終え、行われたテスト返却。期待していた以上に、得点はよく、しかも数学と社会に関しては、学年で一位の得点だった。ということは、採点した教師と僕しか知らない。試験返却が終わった段階で、周囲のクラスメイトに自分の点数を見せびらかし、互いの賢さ度合を把握していく。これが授業終わりともなると、全体で開催される。そこに僕は含まれない。逆に清々しい思いに浸れる。
「ってことは、やっぱ数学と社会の最高得点は、あいつか」
「部活もしてないんだし、時間あるんでしょ」
「まじで嫌い。ああいう奴」
そしてまた、僕はひとりになる。



