家に帰宅したのは、十八時を過ぎてのことだった。昼前に姉から届いていたメッセージに今頃返事をし、そのままソファで横になる。次第に強まる雨音。屋根から滝のように雨が落ちて来る。まるで壁が壊されているような轟音と響きだった。
 ソファの上で足を曲げてみる。裾から覗いた足は、まだ、生きていた。
 物音で目が覚めると、テーブルの上にできたての料理が並んでいた。湯気が立ち上る。
「あ、起きた?」
「おかえり」
「ただいま。珍しいね、そんなところで寝落ちするなんて」
「だって、学校で反省文書かされたから」
「え、なんで」
「この前の体育祭、無断欠席したから」
「え、連絡してなかったの?」
「したよ。でも誰もでなかった。だから、もうどうでもよくなって」
 体を起こす。湿気で乱れた前髪を、首を振って直す。
「それで反省文書かされたの?」
「それもそうだけど、嘘吐いたからさ。欠席した理由、体調不良で、って」
「うん。それで?」
「そしたら、なんか、どこの誰か知らないけど、僕とお姉ちゃんがデパートにいるところを、生徒が見たらしくて、それで学校に連絡入れたみたいでさ。体調不良って嘘吐いて無断欠席したから、それで書かされた。原稿用紙五枚分」
「あー、そっか。見つけて連絡入れたの、多分同級生の誰かだね」
「そんな目立ってないと思ってたのに」
「まあ、仕方ない。でももう終わったんだし、よしにしよう。あ、皇叶、これあっためて。幸運なことに、半額のコロッケがあったの。久しぶりに、いいでしょ?」
「了解」
 パックから、楕円型のコロッケ二つを皿に移しかえる。電子レンジで温め直し、テーブルの上に置く。今日は、二人だけで完全に食べ切れる量しかなかった。
「いただきます」
 総菜のコロッケに箸を入れ、食べる。まだ中が冷たかったが、我慢して頬張る。姉がつくったサラダ、そして炊き立ての白米も一緒に食べ進める。普段と変わらない日常なのに、ちょっとだけ愛おしく思えた。
 食べ終わってすぐ、シャワーを浴び、そのまま布団にくるまり、目を閉じた。明日までにやらなければならない課題もあったが、もうどうでもよく思えて、リュックの蓋を開けることもなかった。