翌朝も、その翌朝も、代休明けの火曜の朝も、姉は普段通り「おはよう」と言って、にこっと笑った。
「おはよ」
「ごめん、今日も昨日の残りね。あ、でも、味変してるから、昨日とは別物だよ」
「またお母さん食べずに行ったんだ」
「うん。土曜の夜、ちょっと喧嘩したから。余計かな」
「え……喧嘩」
「あ、心配しなくていいよ。いつものことだし」
電子レンジの蓋を開け、保存容器を取り出す姉。その中では肉じゃがが揺れ、踊る。
「お姉ちゃん、あのさ――」夜の出来事を話そうとした、そのとき。
――ピロン
姉の携帯電話に、メールが受信された電子音が鳴った。左手で開き、ボタンを押す。利き手じゃないからか、動きがぎこちない。
「話あるんでしょ。なに?」
視線は僕でなく、画面に向いている。言うか迷っていると、「どうしたのよ」と今度は視線を向けてきた。が、首を横に振って、「い、いや、なんでもない」と笑って誤魔化す。
「えー、なによ。歯切れ悪いんだけど。話してくれてもいいじゃないの」
「いい、ホント、気にしないでいいから」
「そう。わかった」
携帯がテーブルの上に置かれる。
「今日、ちょっと帰り遅くなるかも。先輩へのプレゼントを買いに行ってくるから」
「一人で?」
「ううん、樹理とだよ」
「あー、あの、小中学校時代の友達?」
「そうそう。私より先輩のこと知ってるから、付き合ってもらおうと思って」
「なるほど」
再び電子レンジの蓋が開けられ、今度はご飯の温めが開始される。
「帰り、スーパーで総菜でも買ってこようか?」
「別にいい。カップ麺でも食べるから。お姉ちゃんは好きにしてきて。僕のこと、心配しなくていいから」
「わかった。遅くても十九時までには帰るから」
「ん、了解」
返事だけして、そのまま洗面所へ行った。洗濯カゴの中は、空に近い状態になっていた。
六時五十分過ぎ、食器を洗う姉に声をかけ、家を出た。ちょっとあとに、「傘、忘れてる」と姉がビニール傘を手に追いかけてきた。受け取った俺は、「ありがと」と言って、階段を下りた。
「おはよ」
「ごめん、今日も昨日の残りね。あ、でも、味変してるから、昨日とは別物だよ」
「またお母さん食べずに行ったんだ」
「うん。土曜の夜、ちょっと喧嘩したから。余計かな」
「え……喧嘩」
「あ、心配しなくていいよ。いつものことだし」
電子レンジの蓋を開け、保存容器を取り出す姉。その中では肉じゃがが揺れ、踊る。
「お姉ちゃん、あのさ――」夜の出来事を話そうとした、そのとき。
――ピロン
姉の携帯電話に、メールが受信された電子音が鳴った。左手で開き、ボタンを押す。利き手じゃないからか、動きがぎこちない。
「話あるんでしょ。なに?」
視線は僕でなく、画面に向いている。言うか迷っていると、「どうしたのよ」と今度は視線を向けてきた。が、首を横に振って、「い、いや、なんでもない」と笑って誤魔化す。
「えー、なによ。歯切れ悪いんだけど。話してくれてもいいじゃないの」
「いい、ホント、気にしないでいいから」
「そう。わかった」
携帯がテーブルの上に置かれる。
「今日、ちょっと帰り遅くなるかも。先輩へのプレゼントを買いに行ってくるから」
「一人で?」
「ううん、樹理とだよ」
「あー、あの、小中学校時代の友達?」
「そうそう。私より先輩のこと知ってるから、付き合ってもらおうと思って」
「なるほど」
再び電子レンジの蓋が開けられ、今度はご飯の温めが開始される。
「帰り、スーパーで総菜でも買ってこようか?」
「別にいい。カップ麺でも食べるから。お姉ちゃんは好きにしてきて。僕のこと、心配しなくていいから」
「わかった。遅くても十九時までには帰るから」
「ん、了解」
返事だけして、そのまま洗面所へ行った。洗濯カゴの中は、空に近い状態になっていた。
六時五十分過ぎ、食器を洗う姉に声をかけ、家を出た。ちょっとあとに、「傘、忘れてる」と姉がビニール傘を手に追いかけてきた。受け取った俺は、「ありがと」と言って、階段を下りた。



