気怠い放課後練習を適当にこなし、体育祭当日になった。晴れとも曇りとも言える微妙な天気で、気温はそれほど高い感じはしなかった。
「おはよう、皇叶」
「おはよ」
テーブルの上には、昨夜の残りである酢豚が、既に温められた状態で置かれていた。
「今日も残りか」
「仕方ないでしょ。お母さんが全然食べてくれないんだから」
「今日で何日目?」
「八日か九日目、かな。あんま詳しく覚えてない。覚えとく必要もないことだからね」
電子レンジが陽気なメロディを流す。開けると、ラップに包まれた白米が置かれてあった。
「すんなり記録更新してんじゃん。てかさ、そんなにパン屋って早くから出勤する必要ある?」
「オープン前の仕込みがあるからでしょ」
「あー、そっか。でもさ、残してあるんだから食べてくでしょ、普通」
「いらないんでしょ、どうせ、私が作ったものは不味い、って決めつけてるんだろうから」
ラップの端を持ってから、テーブルの上に置く。
「歯磨きしなさいよ」
「してくる」
洗面所にある鏡。引っ越す前、業者が来て掃除しているそうだが、汚れは取れなかったようで、そのまま放置してある。その鏡に映り込む、僕。重たい瞼の下の黒目。ぶすっとした表情を浮かべている。
歯磨きを早急に済まし、リビングに戻る。姉は既に椅子に座っていた。
「早くね?」
「いいじゃない。そんなことより、ご飯食べたら早く着替えてよね。洗濯したいから」
「はいはい」
三人座れるように椅子は配置されている。僕は姉と向かい合っている。
「いただきます」
ラップの包みを剥がし、掌にラップごと乗せる。少し温かい程度にまで冷めていた。
「皇叶はさ、お母さんのこと、どう思ってる?」
「なに、突然。怖いんだけど」
「たまたま、気になっただけ」
姉は味噌汁を啜る。その際、棒のように細い、左の手首が服の袖から露になった。
「僕は、お母さんのこと嫌いだから」
汁椀を置く。手首は袖に隠れる。
「だって、全然家にいなかったし。お姉ちゃんのほうがよっぽどマシ。色々世話してくれたのも、愛情注いでくれたのも、お姉ちゃんだから」
「本当? 本当にそう思ってるの?」
「だって、今も僕のために働いてくれてるし。それに、なんだかんだ言って優しいから。っt、疑うのは酷すぎだって。素直な気持ちで言ってんのに」
白米を箸で掬い、口に入れる。硬かった。
「そっか。そう言ってくれてありがとう、皇叶」
「は、なに、急に優しくなられると、逆に怖いから、やめて」
「いいじゃない、ありがとうぐらい言っても」
そう言って悪戯に口角を上げた。素直じゃないらしい僕は、俯いて微笑んだ。
「ねえ皇叶、今日午後からデパート行かない?」
「なにが目的で行くわけ? お金、勿体ないじゃん」
「たまにはさ、贅沢しようよ。来週にはお給料入るからさ」
「別に、そんな無理して行かなくてもいいじゃん」
「テスト直前よりはいいでしょ? どう、行かない?」
「おはよう、皇叶」
「おはよ」
テーブルの上には、昨夜の残りである酢豚が、既に温められた状態で置かれていた。
「今日も残りか」
「仕方ないでしょ。お母さんが全然食べてくれないんだから」
「今日で何日目?」
「八日か九日目、かな。あんま詳しく覚えてない。覚えとく必要もないことだからね」
電子レンジが陽気なメロディを流す。開けると、ラップに包まれた白米が置かれてあった。
「すんなり記録更新してんじゃん。てかさ、そんなにパン屋って早くから出勤する必要ある?」
「オープン前の仕込みがあるからでしょ」
「あー、そっか。でもさ、残してあるんだから食べてくでしょ、普通」
「いらないんでしょ、どうせ、私が作ったものは不味い、って決めつけてるんだろうから」
ラップの端を持ってから、テーブルの上に置く。
「歯磨きしなさいよ」
「してくる」
洗面所にある鏡。引っ越す前、業者が来て掃除しているそうだが、汚れは取れなかったようで、そのまま放置してある。その鏡に映り込む、僕。重たい瞼の下の黒目。ぶすっとした表情を浮かべている。
歯磨きを早急に済まし、リビングに戻る。姉は既に椅子に座っていた。
「早くね?」
「いいじゃない。そんなことより、ご飯食べたら早く着替えてよね。洗濯したいから」
「はいはい」
三人座れるように椅子は配置されている。僕は姉と向かい合っている。
「いただきます」
ラップの包みを剥がし、掌にラップごと乗せる。少し温かい程度にまで冷めていた。
「皇叶はさ、お母さんのこと、どう思ってる?」
「なに、突然。怖いんだけど」
「たまたま、気になっただけ」
姉は味噌汁を啜る。その際、棒のように細い、左の手首が服の袖から露になった。
「僕は、お母さんのこと嫌いだから」
汁椀を置く。手首は袖に隠れる。
「だって、全然家にいなかったし。お姉ちゃんのほうがよっぽどマシ。色々世話してくれたのも、愛情注いでくれたのも、お姉ちゃんだから」
「本当? 本当にそう思ってるの?」
「だって、今も僕のために働いてくれてるし。それに、なんだかんだ言って優しいから。っt、疑うのは酷すぎだって。素直な気持ちで言ってんのに」
白米を箸で掬い、口に入れる。硬かった。
「そっか。そう言ってくれてありがとう、皇叶」
「は、なに、急に優しくなられると、逆に怖いから、やめて」
「いいじゃない、ありがとうぐらい言っても」
そう言って悪戯に口角を上げた。素直じゃないらしい僕は、俯いて微笑んだ。
「ねえ皇叶、今日午後からデパート行かない?」
「なにが目的で行くわけ? お金、勿体ないじゃん」
「たまにはさ、贅沢しようよ。来週にはお給料入るからさ」
「別に、そんな無理して行かなくてもいいじゃん」
「テスト直前よりはいいでしょ? どう、行かない?」



