【第7話】たった一人の君が好きだよ


〇コンサート当日。衣装を着てメイクをしている千咲
(リハは無事終わった、けど)
 メイクしてもらいながら、不安そうにスマホ画面を見ている千咲。ファンの子の書き込みを見ている。
《ちさ 頑張って》
《今日もアリーナ参加するよ》
(本番前はいつも緊張するから ファンの子の書き込みをみて気持ちを落ち着かせる) 
 深呼吸をして、ファンの書き込みに思わず笑顔になる千咲。
(みんな、ありがとう)


○回想。久我友弥のジム
チーマネ「この度は、三好の発言でご不快な思いをさせて申し訳ありません」
 菓子折りを持って久我友弥の関係者に謝罪するチーフマネージャーと千咲
千咲「すみませんでした」
 納得できないが、我慢して頭を下げる千咲
久我「こっちは大事な試合前だっていうのに、局さんがどうしてもっていうから撮影したんだぞ? なのにメンタル狂わされて、最悪だ」
チーマネ「本当に申し訳ございませんでした」
千咲「……」
 再び、苦渋の表情で頭を下げる千咲


○回想終わり 開演数分前 舞台裏で最後のマイクや衣装の調整をする千咲
透馬「大丈夫?」
千咲「えっ?」
透馬「なんか久我さんのことで大変だったらしいね」
千咲「あ、ああすみません」
透馬「でもオンエアは問題なかったんでしょう?」
千咲「は、はい」
透馬「じゃあいいじゃない」
千咲「……はい」
透馬「それとも」
 横目で千咲を見て微笑む透馬
透馬「気になる? 蓮くんのこと」
 答えに詰まる千咲。でも、まっすぐ前を向く
千咲「すみません、いまは集中しないと」
 自分で頬をぱちんと叩く千咲
千咲「正直、不安はあります」
透馬「不安?」
千咲「幕が上がっても、オレンジのペンライトが……僕のファンが一人もいないんじゃないかって、真っ暗な闇が広がる夢を見て、怖くて起きるんです」
透馬「……そう」
千咲「でも、それでも頑張ります」
 透馬に向かって微笑む千咲 その眼差しはしっかりしている
千咲「たとえ数は少なくても、僕のファンを信じて進みます」
 透馬、ちょっときょとんとしてから仕方なそうに溜息を吐く
透馬「ずれてるよ」
 向かい合って、千咲の胸元のイヤモニの配線を直してくれる透馬
透馬「お花畑くんに色々言いたいことはあるけど、今から終演までは僕達は仲間だから」
 配線を直し終わり、微笑む透馬
千咲「ありがとうございます」
透馬「それに」
千咲「?」
透馬「あいつ、今日どこかにいる気がするよ」
 嫌そうな顔で言ったあと、にっこり微笑む透馬
透馬「だから、絶対に一人になることはないから、大丈夫」


○場面転換 立見席3F
 蓮が真顔でペンライトとうちわを持って直立している。制服にCHISAのメンバーTシャツを着ていて、異様なオーラを放っている
隣の女子ファン(隣、なんかイケメンおる……)
隣の女子ファン2(CHISAよりイケメンじゃん……)
 蓮、周囲の子たちに見られているのに気づかないまま、心配そうな目で開演前のステージを見つめている


○場面転換 ステージ直下でスタンバイする千咲
目を閉じて深呼吸する

(蓮くん)

目をあけて、ステージに上がる千咲


〇本番が始まる 
 ステージはどんどん進んでいく
 集中してパフォーマンスする千咲。公演は順調に進む。ボルテージがあがる観客席
透馬「それでは聞いてください。今日が初披露のアルバム曲です。『たった一人の君が好きだよ』」
 千咲が蓮と歌唱練習していた局。盛り上がる観客席。
 笑顔でダンスする千咲とメンバー達。ふと千咲が横をみると、後列で隣の夏波が気まずそうに固まっている。
千咲(えっ!?)
 後列隣の夏波の方を見る千咲。他のメンバーは前を見て踊っている。
千咲(ここ、夏波のパートなのに……! まさか歌詞とんでる!?)
 気まずそうな顔で口をパクパクさせている夏波。気付いているのは後列で隣の千咲だけ。どうしようか悩む千咲。千咲の冷や汗顔のアップ。
千咲(っ……!)
 勇気を出して前に出て夏波の代わりに歌い出す千咲。夏波が「ごめん」という表情をしている。
 曲終わり。拍手と歓声に包まれている。三階の立見席でほっと安堵している蓮の姿


〇ステージ裏で早着替え中
夏波「ちさ、さっきはさんきゅな」
千咲「え?」
夏波「歌詞飛んだの、フォローしてくれただろ」
千咲「あ、うん」
夏波「いやあ、まじ焦ったわ、ごめん」
千咲「大丈夫だよ」
 メイクを直してもらいながら、千咲を見て微笑む夏波。
夏波「ちさが俺たちのパートまで練習してくれてたからだよな、さんきゅ」
 微笑みあう二人。そのままステージに出ていく。
千咲(こんな僕でも、できることがあるんだ)
 蓮の顔が頭に浮かぶ千咲。そのままバックステージから再び舞台にあがる
千咲(だからもっと頑張るね、蓮くん)


〇コンサート終盤、ラストの挨拶。純白の衣装に身を包むメンバー
透馬「じゃあ、次はCHISA」
 観客席のペンライトの海を見つめて茫然とする千咲。
千咲(綺麗だ――)
 両手でマイクを握る手が震えている。
千咲(こんな景色をみられるなんて、僕は、しあわせだ)
 涙ぐむ千咲。
千咲(まるで、宇宙みたい)
一呼吸おいて、喋り始める千咲。
千咲「僕たちSTARLIGHTは……六人が、世界で一番輝く星の光になるようにという思いを込めて名付けられました」
 笑顔で頷くメンバー
千咲「……でも、星は僕達じゃないです。星っていうのは、今ここにいる、そしてここにこれなかったけれど見守ってくれているファンの皆さんのことです。今僕は、世界で一番綺麗な星空を、ここで見ています」
 揺れるペンライト。あまりの綺麗さに客席を見つめ、目を細める千咲。

そのとき、正面側の三階の立見席で、ひときわ大きくオレンジのペンライトが揺れる

笑顔の蓮

千咲(蓮くん――)

蓮を見つける千咲。温かく微笑む蓮。目がぎゅっと細まる千咲。一つ高鳴る鼓動。ゆっくりと口を開く千咲。

千咲「皆も知っていると思うけど、僕は、人気がありません」
 瞬間、ざわつく観衆。隣でぎょっとしている透馬。立見席で驚いている蓮。ステージ上のメンバーやカメラマンや音響さんも唖然として千咲を見る。
千咲「僕はメンバーの皆みたいに個性もなくて、なにを頑張っても結果が出なくて、メンバーが羨ましくて、悩んでも頑張ってもうまくいかなくて、『僕は駄目なアイドルだ』って正直ずっと苦しかったです」
 客席からまっすぐ千咲を見る蓮。瞳は涙で潤んでいる。
舞台袖で焦っているマネージャー、舞台下で「巻いて!」のカンペ。でもそれを無視して話続ける千咲。
千咲「そんなだめな僕を応援してくれているファンのみんなに肩身の狭い思いをさせていたらごめんなさい」
頭を下げる千咲。観客席で涙ぐむちさファン。
千咲は強い意志でまっすぐ前を見ている。
千咲「でも、高校の友人が教えてくれました。SNSの数字も大事だけど、たとえ少なくても、ちゃんと僕を愛してくれている人が……オレンジの光を灯してくれる人がちゃんといるって」
こらえきれず涙を流す千咲。
千咲「この距離でも、僕には皆の顔がはっきり見えます。僕にとって、皆が光り輝く僕だけの星です」
 蓮の周囲のファンは涙ぐんでいる。ステージ上でやれやれ顔だが笑顔の透馬
千咲「今は人気がなくても、僕は、皆にとって最高の星になると約束します。僕にしかない色で輝いて、皆には誰も見たことない素敵な景色を見せるからね」
 千咲のうちわとペンラを持った蓮と目が合う千咲。見つめ合い、微笑みあう二人。
千咲「ありがとう、これからもずっと大好きだよ」



〇翌日。晴れた日。廃品小屋。並べたパイプ椅子に寝転びながら、スマホをいじる千咲。
 SNSはものすごく伸びたわけじゃないけど、たくさんの応援メッセージが書き込まれている
「STARLIGHT 西アリでのツアーファイナル成功 CHISAのスピーチでファン感涙」というネット記事をみて苦笑する千咲。

千咲(まあ、舞台後、めっちゃ怒られたけどね……)


〇回想
舞台後、楽屋でチーマネとプロデューサーにこってりしぼられている千咲。
それを苦笑いで見ながら着替える他メンバー。
透馬「ちさ!」
 衣装のまま満面笑顔の透馬が走り寄ってきて、千咲の両肩を叩く。
透馬「いやあ、最後のあれはすごかった! 僕の目に狂いはなかった!」
千咲「へ?」
透馬「いや~! あれはさすがに予想外すぎて、きゅんってなっちゃった!」
千咲「と、とうまくん!?」
 めっちゃ嬉しそうな透馬が、びっくりして固まっている千咲の両手をもってぶんぶん振る。
透馬「僕、惚れ直したよ! ま、あいつは強いけど、これから僕も諦めないよ!」
千咲「あ、あはは……」
透馬「僕は敵が強いほうが燃えるタイプだからさ~! なんだかむしろわくわくしてきちゃった♪」
衣装脱いでいる黎央「ちょっとー! 透馬くん達なんのはなし~!?」
透馬「なんでもな~い♪」
黎央以外の他のメンバー「苦笑」


〇回想終わり。小屋
千咲(蓮くん、来ないのかなー)
パイプ椅子から起き上がり、手持ち無沙汰にコメントには小屋のノートをめくる千咲。
千咲(……会いたいな)

パイプ椅子から起き上がった千咲。机の上のノートをめくる。
以前(5話)で「好き」をぐちゃぐちゃに塗りつぶしたページがでてくる

そこに、「←おれも」と蓮の筆跡で書かれている。

(えっ……)

瞬間、高鳴る鼓動

千咲「ど、どういうこと?」
 おろおろする千咲。
蓮「……見たか?」
千咲、振り返る。腕を組みドアにもたれかかってこちらを見ている蓮。歩み寄ってくる蓮。
小屋に入ってきて、千咲の目の前であまったパイプ椅子を引き寄せ座る蓮。蓮が少し背中を丸めているから、ふたりの目線がぴったり合う
千咲「う、うん」
蓮「……ま、そういうことだから」
 少し俯いて言う蓮。無表情だが、耳は真っ赤。首をかいて、天をあおぐ。
蓮「あー、緊張する」
深呼吸をした蓮は視線を千咲に戻す。
蓮「アイドルのお前も、アイドルじゃないときのお前も、俺が世界で一番好きだから」
 ゆっくりと千咲に顔を近づける蓮。下がった眉尻、千咲ごしに目尻が赤くなっている。座ったまま千咲の手を握る蓮。
千咲「……うん」
 蓮がそっと無言で千咲の唇にキスしようとする。でも、千咲が真っ赤になりたじろいだため、唇がそれてズレる。
蓮「おい」
 ちょっと気まずそうな蓮。
千咲「うう」
 恥ずかしくて顔やまつげがふるふるする千咲
蓮「ちょっと動くなよ」
千咲「だっ、だって初めてだから勝手がわからなくて……!」
蓮「……んなもんこっちもだ」
 顔はいつも通りだが耳は真っ赤な蓮。もう一度ゆUっくりキスする。
 ゆっくり唇が重ねる。
 一度唇を離す。もう一度角度を変える。
蓮「好きだ」
 泣きそうな顔の千咲。
蓮「言うの遅くなって、悪かった」
千咲「僕も、好きだよ」
 鼻先が触れる距離でちょっと不満げな蓮
蓮「声ちいさい。聞こえない。もう一回」
千咲「耳良いんだから、絶対嘘じゃん……」
 困惑しつつも、はにかむ千咲
千咲「好き、大好きだよ」
 満足そうに笑む蓮。


 蓮のバッグには、CHISAのライブグッズのキーホルダーや缶バッジがたくさんついている。
蓮「そういえば、スマホ買った」
千咲「えっ、ついに!?」
蓮「お前の写真、いっぱい撮るぞ」
千咲「うんっ!」


End