豪華な美しく飾られたもので、おそらくこのお茶会のために特別に作られたものだろう。

 私がその横を通り過ぎようとした瞬間、ケーキがぐらりと傾き、気がつけばねっとりとした柔らかなものに覆われてしまっていた。

 高さを保つように作られていたケーキが、私に向かって勝手に傾いて来るなんて、考えられない。

 きっと……誰かが、故意にケーキを倒したんだ。

 ……ナターシャ様にあれを公言されれば、私が城に向かうことは、容易に予想が出来ていたはず。

 けれど、現行犯でもなければ彼女と関連付けることなんて……出来ないだろう。犯人はもう既に近くには居ないはずだし、私が予想した通り計画的犯行であれば尚更だ。

 呆然としたままで座り込んでいた私に、周囲に居た使用人たちが慌てて近づき、とにかくここは着替えましょうと言い出した。

 ケーキ塗れの姿のままで城中を歩く訳にはいかないと考えた私は『ダヴェンポート侯爵か、兄を呼んでください』と告げるだけしか出来なかった。

 辺りは騒然としていて、私には好奇の視線が向けられていた。

 ……ここで、みっともなく泣き出す訳には行かない。