だって、ダヴェンポート侯爵令嬢である私を表向きの妻に据えるならば、もしかしたら、お相手は身分の低い女性なのかもしれないし……。

 悪い想像がぐるぐると止まらずに考えを巡らせていた私は、前から歩いて来る男性の姿を見て頭に血が昇ってしまった。

 偶然、ここで会うことになったエミールは私に気がつき、にっこりと微笑んで頭を下げた。

 いつもならば、もう少し考えて行動が出来たのかもしれない。

 けれど、その時の私は何個かの難しい問題に直面し、これまでになく切羽詰まっていて、そこで正常な判断をしたとは言い難かった。

 イーディスのためならば、彼に悪く思われても構わないと思っていた。

「あの……エミール。少し話がしたいのだけど、良いかしら」

 すれ違う瞬間に私に話しかけられ、エミールは不思議そうな表情を浮かべながらも頷いた。

「ええ。構いません……もしかして、イーディスに関わることですか?」

「そうよ」

 眉を寄せた私は、エミールの質問に軽く頷いた。

 私と彼の間にある人物はイーディスなので、もしそれがなければ、こうして親しく話すこともなかったはずだ。