声は聞こえないから、彼らがどのような会話をしているかわからないけれど、何かしら、先方が時折偉そうに振る舞っていても、さらりと流してにこやかに話していた。

 私はそんな彼を見ているだけなのに、胸が痛んでしまった。

 だって、あの素敵な人は私に冷たくて……誰かには、とっても優しいのかもしれないと思うと……。

 美味しいはずの料理も喉を通らず、給仕に心配されながら、私はデザートを食べていた。

「……リディア? 偶然だ。君もこの店が好きだとは知らなかった」

 不意に聞こえた声に、私は俯いていた顔を上げた。

 そこに居たのは会談が終わり、相手の外交官を送り終えたレンブラント様だった。

 レンブラント様のことを尾行していたけれど、こうして、見つかってしまう可能性を考えていなかった私は慌てた。

 どうして? 顔がわからないように大きめな帽子を目深に身につけているし、髪型もドレスだっていつもとは全然違うものなのに。

「いっ……いえ! え? いえ。そうです。気になっていて……やっと来る事が出来ました」