廊下には急ぎ足の文官や、書類の束を持ちどこかへと運んでいる女官が歩き、仕事中の彼らの中でドレス姿の私は場違いだと思う。

 けれど、そんな些細な事を気にしている場合でもなかったわ。

「ああ……リディア様! こちらにいらっしゃるなんて、とても珍しいですね。本日は殿下と、何かお約束がありましたか? 私がお聞きしていたご予定にはございませんでしたが、ちょうど今殿下は仕事の合間でして……もし良かったら、ご一緒にお茶でもいかがでしょう」

 偶然、私を見掛けたらしいレンブラント様に仕える侍従アンドレは流れるような滑らかな口上で、主であるレンブラント様が今何しているか会えるなら会えるという事を数秒で伝えて来ようとしていた。

 ……いつも通り有能だわ。アンドレ。

 私はにこにこと微笑む彼を見つめ、その笑顔を返すように微笑んだ。

 レンブラント様の侍従アンドレは黒髪の美少年で、ライエル侯爵の次男なのだ。

 爵位を継ぐ長男ではないので、優秀な頭脳を持つ彼は学ぶべき学業をすべて修めた上で、この年齢で既に働いている。