使用人たちは娘の後を慌てて追ってくる侯爵家当主のみっともない姿を見ても、特に意に介さずに見て見ぬ振りをしていた。
娘の私をところ構わず溺愛し、こうして冷たく接されていることは、ここで働いている使用人全員が知るところだからだ。
「リディア! 今日は、何処に行っていたんだ?」
「……フレイン伯爵邸です。友人のイーディスとお茶をしていました」
自室へと戻っている私の後を追うお父様は、十七歳になったばかりの娘が何をしていたか、気になって堪らないようだ。
私を産んだ時に母は亡くなり、彼女を誰よりも愛していた父と兄は私を溺愛した。
もしかしたら、こういう家族構成には割と良くあることなのかも知れないけれど、私にとっては日常が家族の暑苦しい愛情に満たされていて、息苦しくて堪らない。
「何の話を……っ」
「もうっ……お父様! 乙女同士の話の内容を聞いて、何が楽しいのですか。いい加減にしてくださいませ!」
何から何まで詮索しようとする父に私が我慢出来なくなり振り返って、彼を睨むと嬉しそうに微笑んだ。
父の頭にある数字は『100』これは、間違いなく亡き妻に対する恋愛指数。
死してなお、お父様はお母様を最高に愛しているのだ。
……そうだろうと思ったわ。再婚だって何年経ってもしないものね。
「……ああ! そうして怒る顔もエリーゼそっくりだ! なんて、可愛いんだ!」
亡き母そっくりという私の怒った顔を見て喜びに悶える父の姿に、やはり男性からは、冷たく接される程度がちょうど良いわと私は冷静に思った。



