怖い看護師さんに「食べたくても、食べられない人だって居る」と説教されるより、私は何も言わずに食べることを選ぶ。

 けど、自分より可哀想な人が居るということが、崖っぷちにある人の救いになるだろうか。誰しも自分が辛い時は世界で一番不幸なのは自分だと、そう思わないだろうか。

 誰かの悲しみの数値を測るバロメーターなんて、何処にもある訳がないんだから。

 病院の個室にある大きなディスプレイは、親が私のために病院と交渉して持ち込んだものだ。

 幼い頃から高校生になる年齢までほぼ病室に居た娘に、あの人たちは出来るだけのことをしてくれた。

 けど、健康な心臓を私に移植するには、まだまだ順番待ちの列が長い。きっと、来たる時までには、間に合わないだろう。

 もうすぐ、私はこの世界から居なくなる。

 だから、もっともっと出来るだけずっと。推しのディミトリの姿を、観ていたかった。

 生まれた時から不遇にあり重なる不幸な偶然により絶望に堕ちて悲劇のラスボスと化しても、なおまばゆい輝きを放つ私の推し。