一瞬、彼の力が抜けて足先がトンと床に落ち、ここはチャンスだと思った私は思いっきりスティーブ……っていうか、男性の急所を蹴り上げた!

「っ……うぐっ……お前!! 絶対殺す!!」

 スティーブから完全に逃れた私は、捨て台詞を聞きつつ引き戸を乱暴に開けて外に出た。

 どうにか一触即発な状態からは逃れることが出来たけど、後ろから追いかけて来る足音が聞こえるし、まだまだピンチは去っていない。

 どうしようどうしようどうしよう!!!

 シンシア・ラザルスは割と頭が良い方で、だからこそあとは家のために結婚するだけの貴族令嬢として異例なのに、学術都市ドミニオリアへと入学出来た。

 夕暮れの天文部のある部活棟の中は、人気がない。今はテスト期間中なのもあって、私とスティーブしか居ないのかもしれない。

 当たり前だけど、足の長さの関係で私より背の高いスティーブの方が走るのは早い。

 火事場の馬鹿力で、お願いだから何か名案を思いついて!! 死ぬかもしれない時だよ!! 今こそ働くべきだと思うの!!