「ははは。実物のエルヴィンを見て、イケメン過ぎて惚れただけじゃない? アドラシアン可愛いじゃん。あのくらい、甘えてくれる方が良いよ。可愛いのは、アドラシアンのせいでもないし。可愛い同性への嫉妬で、彼女への見方を歪ませるなよ」

 ドスの効いた低い声で私を壁際まで追い詰めた彼は、目が怖い。どうしよう。私。もしかして、言葉の通り藪蛇だった?

「ちょっと……近いんだけど。私に何するつもり?」

 息が掛かるくらいにまで顔を寄せられて、思わず顔を背けた。気持ち悪い気持ち悪い。何するつもりなの。

「あのさ。あんたも知っているだろう。可哀想なディミトリ・リズウィンが授業料を盗んだと冤罪掛けられて、ハメられる話。あいつはあれで、世界樹の力を利用しようと決めるんだ」

「……まさか」

 私はスティーブが言わんとしていることを察して、目を見開いた。

 いけない。ディミトリを襲う不幸の総仕上げとして、ドミニオリアの大学への進学の希望を捨てきれない描写があった彼は授業料を盗んだという冤罪を掛けられて、放校されてしまう。それでもう彼は、何の希望も捨ててしまうんだ。