「逃げたいっていうか……その」

 ジュリアスの薄い緑の目は、黒い瞳孔や光彩がくっきりと際立って見える。だから、それが見えているということは、私は彼に真っ直ぐ見つめられているということで……。

「聖女様のお気持ちはわかりました。ですが、僕が思うところ、世界が変わっても……人は変われません」

「……え?」

「聖女様の言うように、上手くいかない親子関係も仮初めの友人関係もこの世界にだってあります。ただ、何もかもが目新しく綺麗な世界に見えているかもしれませんが、そういう暗い部分だって、もちろんあるんです……失礼ですが、聖女様は自らが傷つくことを極度に恐れているようです。もし、貴女が変わらないのであれば……この世界に来ても同じような人と親しくなり、また同じように対応されるでしょう……そんなものですよ」

「ジュリアス……」

 ジュリアスはこちらの世界を選んでも私がそのままだったら、同じようにまた絶望することになるだろうと言う。

 確かに、そうなのかもしれない……私が元の世界をそう思ってたってだけで、本音を言い合って友人関係を楽しんでいる子だってきっと居るはずだもん。

 私は誰かを信頼する勇気もなければ、自分から一歩踏み出すこともしなくて……そうなれなかったってだけで。

「ああ……良くない。叱っているようになりましたね。僕の実年齢のせいでしょうね。ついさっきまで、僕たちは色っぽい話をしていたはずなのに……すみません」