拓人が私を生んだ。私に命を与えた。私の出来損ないの心臓を高鳴らせるのは、いつも拓人だけだった。
拓人と一緒にいるのが楽しいほど、死への恐怖が私を蝕み続けた。
私はじきに亡くなるだろう。元々長くないと言われていた。ここまで生きているのが奇跡に近いくらいなのだから。それが逃れられない運命なら、利用するしかないと思った。自分の境遇も、周りにいる人たちも。
桜牙は協力してくれた。二番目に好きだと言ったら、あきれたように笑いながら。拓人に私への想いをより深く自覚させるため。ピアノの羨望に嫉妬を上乗せすれば、さらに強い感情に繋がるだろう。
絶対に綺麗になんて死んでやらない。みんなで病室で看取られながら、静かに息を引き取るなんて、儚いヒロインなんて演じてやらない。
私は綺麗な思い出として風化していくよりも、拓人の記憶に深く刻まれることを望んだ。それがどんな形でも。
だから拓人の誕生日、とびっきり可愛くして、デートに出かけた。拓人が私のイメージだって言ってた、ピンクのワンピースを着て。だけどハンドバッグは水色、拓人のイメージカラーだからなんて絶対に教えない。
もう後を気にしなくていい。今日限りで使い捨ての心臓、隣には拓人、最高の条件が揃って、体は羽のように軽かった。
拓人が私の手を欲しがっていると知った時、本当に嬉しかった。私の手と拓人の心臓、交換できますようにって、神社にお祈りしたの、きっと叶うって信じてる。だってこれは願いなんかじゃない、永遠に続く呪いなんだから。
ねぇ、拓人、期待するでしょう?
いつもと違う調子の私、今日は特別なことが起こる気がするよね。
安心して、ちゃんと期待に応えてあげる。拓人が想像もしない、極上のサプライズプレゼント。
七色に輝く明石海峡のイルミネーションの下、ムードたっぷりに拓人を惹きつけて、唇を重ねた。
忘れないで。この日のことを。ずっと目に焼きつけて。体は朽ちても、魂であなたを離しはしない。
私は両手を差し出した。拓人の澄んだ瞳に私が映る。胸いっぱいの幸せを抱えながら、体の重心を傾けた。
海に吸い込まれるように崩れる視界。遠ざかってゆく拓人の脳裏に、私の姿は鮮麗に刻まれることだろう。
ああ、これで、あなたはずっと私のもの。
可愛い拓人、かわいそうな拓人、地獄の果てまで愛してる――。
了
拓人と一緒にいるのが楽しいほど、死への恐怖が私を蝕み続けた。
私はじきに亡くなるだろう。元々長くないと言われていた。ここまで生きているのが奇跡に近いくらいなのだから。それが逃れられない運命なら、利用するしかないと思った。自分の境遇も、周りにいる人たちも。
桜牙は協力してくれた。二番目に好きだと言ったら、あきれたように笑いながら。拓人に私への想いをより深く自覚させるため。ピアノの羨望に嫉妬を上乗せすれば、さらに強い感情に繋がるだろう。
絶対に綺麗になんて死んでやらない。みんなで病室で看取られながら、静かに息を引き取るなんて、儚いヒロインなんて演じてやらない。
私は綺麗な思い出として風化していくよりも、拓人の記憶に深く刻まれることを望んだ。それがどんな形でも。
だから拓人の誕生日、とびっきり可愛くして、デートに出かけた。拓人が私のイメージだって言ってた、ピンクのワンピースを着て。だけどハンドバッグは水色、拓人のイメージカラーだからなんて絶対に教えない。
もう後を気にしなくていい。今日限りで使い捨ての心臓、隣には拓人、最高の条件が揃って、体は羽のように軽かった。
拓人が私の手を欲しがっていると知った時、本当に嬉しかった。私の手と拓人の心臓、交換できますようにって、神社にお祈りしたの、きっと叶うって信じてる。だってこれは願いなんかじゃない、永遠に続く呪いなんだから。
ねぇ、拓人、期待するでしょう?
いつもと違う調子の私、今日は特別なことが起こる気がするよね。
安心して、ちゃんと期待に応えてあげる。拓人が想像もしない、極上のサプライズプレゼント。
七色に輝く明石海峡のイルミネーションの下、ムードたっぷりに拓人を惹きつけて、唇を重ねた。
忘れないで。この日のことを。ずっと目に焼きつけて。体は朽ちても、魂であなたを離しはしない。
私は両手を差し出した。拓人の澄んだ瞳に私が映る。胸いっぱいの幸せを抱えながら、体の重心を傾けた。
海に吸い込まれるように崩れる視界。遠ざかってゆく拓人の脳裏に、私の姿は鮮麗に刻まれることだろう。
ああ、これで、あなたはずっと私のもの。
可愛い拓人、かわいそうな拓人、地獄の果てまで愛してる――。
了
