「……いや、僕は……人に教えたりするのは、あまり」
「そうなんですか? あれほどの技術を持たれていたら、教えてほしいと言う人もこれからどんどん増えてくると思いますが……」
数分前とは違う、嫌な鼓動が耳に響く。アカン、目を逸らすな。堂々としてないと。だけど、このまま無視はできん。なにかないか、この場を切り抜ける、自然で最もらしい台詞。
……あいつなら、なんて返すやろう。
「な、なんとなく、感覚でやってるんで」
自分でも顔が引き攣るのがわかる。上擦った声に吃った口調。かろうじて視線は逸らさずに耐えたけど、その分、記者の僅かな感情の変化を読み取ってしまった。
表情はほとんど変わらん。だけど、細まっていた瞼の隙間から覗く、瞳の光が消えた気がした。
「……なるほどです、確かに、天賦の才に恵まれた方は、口で説明するのは苦手かもしれませんね」
それでもなおも微笑みかけてくれる記者に、俺は胸を撫で下ろした。
取材が終了すると、お互い立ち上がって頭を下げる。それから撮影陣がセットを片付け、取材していた男性とともにリビングを出た。母さんが彼らの見送りに行くと、リビングには俺と優希の二人きりになる。すると、優希がすかさず俺に駆け寄ってきた。
「たっちゃん、お疲れ様、すごかったねぇ、芸能人みたいやった!」
胸の前で両手を握りしめ、興奮気味に話しかけてくる優希に、俺は苦笑いを返す。
その時、下げた視線の先に、ふとあるものを見つけた。
濃いイエロー、無地のハンカチ。それは、さっき俺を取材してくれていた男性が、汗を拭っていたものやとすぐにわかる。
急いでポケットに突っ込んだせいか、ちゃんとしまいきれてなくて、立ち上がった時にでも落としたんやろう。
今し方まで彼が座った椅子があった場所、その床に置き去りにされたハンカチを手に取ると、俺は急ぎ足でリビングを出た。
すると、見送りを終えた母さんが、ちょうど引き返してくるところやった。廊下で不思議そうにする母さんを横切ると、俺は玄関で靴を履き、ドアを開ける。
するとすぐ先……家を囲んだ壁から、大型のワゴン車の頭が見えた。撮影セットを運ぶんやから、これくらいのサイズが必要なんは当然や。
よかった、まだ間に合う。そう思った俺は、家の玄関先から門扉への道を進む。そして門扉を押し開けようとした時やった。
「ただの凡人だな」
鼓膜を通して響く言葉に、思わず足を止めた。嫌な予感が胸を満たす。俺は右手でハンカチを握ったまま、ほんの僅かだけ門扉を開いた。音を立てないようにゆっくりと、開いた隙間から、恐る恐る家の外を覗く。
すると広い道路の脇に停まった大型のワゴン車、半開きになったトランクの前で、立ち止まって話している二人の男性が目に入った。どちらもこちらに背を向けているから、俺の存在には気づいてないようや。
「そうなんですか? あれほどの技術を持たれていたら、教えてほしいと言う人もこれからどんどん増えてくると思いますが……」
数分前とは違う、嫌な鼓動が耳に響く。アカン、目を逸らすな。堂々としてないと。だけど、このまま無視はできん。なにかないか、この場を切り抜ける、自然で最もらしい台詞。
……あいつなら、なんて返すやろう。
「な、なんとなく、感覚でやってるんで」
自分でも顔が引き攣るのがわかる。上擦った声に吃った口調。かろうじて視線は逸らさずに耐えたけど、その分、記者の僅かな感情の変化を読み取ってしまった。
表情はほとんど変わらん。だけど、細まっていた瞼の隙間から覗く、瞳の光が消えた気がした。
「……なるほどです、確かに、天賦の才に恵まれた方は、口で説明するのは苦手かもしれませんね」
それでもなおも微笑みかけてくれる記者に、俺は胸を撫で下ろした。
取材が終了すると、お互い立ち上がって頭を下げる。それから撮影陣がセットを片付け、取材していた男性とともにリビングを出た。母さんが彼らの見送りに行くと、リビングには俺と優希の二人きりになる。すると、優希がすかさず俺に駆け寄ってきた。
「たっちゃん、お疲れ様、すごかったねぇ、芸能人みたいやった!」
胸の前で両手を握りしめ、興奮気味に話しかけてくる優希に、俺は苦笑いを返す。
その時、下げた視線の先に、ふとあるものを見つけた。
濃いイエロー、無地のハンカチ。それは、さっき俺を取材してくれていた男性が、汗を拭っていたものやとすぐにわかる。
急いでポケットに突っ込んだせいか、ちゃんとしまいきれてなくて、立ち上がった時にでも落としたんやろう。
今し方まで彼が座った椅子があった場所、その床に置き去りにされたハンカチを手に取ると、俺は急ぎ足でリビングを出た。
すると、見送りを終えた母さんが、ちょうど引き返してくるところやった。廊下で不思議そうにする母さんを横切ると、俺は玄関で靴を履き、ドアを開ける。
するとすぐ先……家を囲んだ壁から、大型のワゴン車の頭が見えた。撮影セットを運ぶんやから、これくらいのサイズが必要なんは当然や。
よかった、まだ間に合う。そう思った俺は、家の玄関先から門扉への道を進む。そして門扉を押し開けようとした時やった。
「ただの凡人だな」
鼓膜を通して響く言葉に、思わず足を止めた。嫌な予感が胸を満たす。俺は右手でハンカチを握ったまま、ほんの僅かだけ門扉を開いた。音を立てないようにゆっくりと、開いた隙間から、恐る恐る家の外を覗く。
すると広い道路の脇に停まった大型のワゴン車、半開きになったトランクの前で、立ち止まって話している二人の男性が目に入った。どちらもこちらに背を向けているから、俺の存在には気づいてないようや。
