アオハルのタクト〜世界一憎くて愛おしい君〜

「それでは本題ですが、拓人さんの練習法について」

 記者の言葉に、俺は少し目を丸くした。

「練習法……?」

 疑問符を浮かべながらリピートすると、彼はニコッと人好きのする笑顔を見せた。

「ええ、拓人さん、ここ数年で一気に有名になられたでしょう? だから、なにか特別なレッスンでも受けられてるんじゃないか……もしくは独自の特訓法でもあるんじゃないかって、業界で話題になってるんですよ。それをほんの少しでも教えていただけたらなぁと」

 どうやら、これが本来の目的らしい。さっきまでの持ち上げに気持ちよくなっていた俺は、急に現実に引き戻されて、ふわふわした足元の着地点を失っていた。
 特別なレッスン? 独自の特訓法? そんなものがあるなら、俺が聞きたい。

「……なにもしてませんよ、いつも通りです」
「いつも通りとは?」

 確かに、深掘りとは聞いていたけど、こんな方向から攻められるとは考えてなかった。嘘はついてない。『俺は』ほんまになにもしてないんやから。

「昔から、ピアノの個人レッスンの先生がついてくれてて、それだけですよ」
「ほう、では、その先生が突然変わられたとか?」
「いや、そういうわけじゃ……」

 まずい。ちゃんと答えられてない。だけどこれ以上なにも言いようがなくて、思わず目を逸らして黙り込んでしまう。
 すると、記者は一拍置いた後、さらに口を開いた。

「質問を変えましょう、拓人さんは、動画配信なんかはされてないんですか?」
「え?」

 聞き返しながら再び前を見ると、正面にいる彼は不自然なほどの笑みを保ったまま話を続ける。

「個人練習の場面を見せたり、指の動きを映したりして、軽く教えたりする動画です。ただ弾いてるだけのシーンを流してるだけの人もいます」

 ヒヤリと背筋が冷える。一瞬、俺の動画がバレたんかと思った。いや、なにも悪いことは流してない。だけど、見られたくないと思った。知られたくないと思った。あいつとのピアノ勝負を最後に、更新しなくなったチャンネル。

「プロからアマまで、けっこうなピアニストがやってるんですよ。今をときめく拓人さんなら、動画配信を始めたら、かなりファンが増えるのではないかと」

 練習の光景なんか見せられるはずがない。鏡に映さんでもわかる、あんなイカれた状態で、人に教えるなんて、できるわけがない。