「たっちゃん、すごかったねぇ!」
「ついにやったな」
帰宅後、両親はこぞって俺を褒め称えた。
二十センチほどの小さなトロフィー、全国大会で優勝したわけでもないのに、やたらと豪華な食事が出てくる。
懐石料理やフランス料理、有名な店は当日予約でいっぱいやからって、高級スーパーで材料を買って、母さんが晩御飯を作ってくれた。
ミートローフに照り焼きチキン、アボカドとサーモンのサラダに、カボチャの冷製スープ。その辺のシェフよりたぶん腕がいい、そう思わせる母さんの手料理。そういえば、絵なんかの芸術に長けた人は、料理も上手いって聞いたことある気がする。俺の家庭科の調理実習はひどいもんやった。あいつは……料理なんかする性格やなかったから不明のまま。
ようやく日が暮れ始めた午後七時、レースの遮光カーテン越しに、滲む夕陽がリビングをオレンジ色に染める。
そんな中、俺はスーツの上着も脱がずにダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
「トロフィー、よかったな」
父さんはそう言うと、小さな紙袋に入ったトロフィーを俺に差し出した。
直径二十センチくらいの、てっぺんに音符のマークが入った金色のトロフィー。小ぶりやけど、けっこう凝ったデザインのそれに、俺は手を伸ばすことができんかった。
すると、父さんは俺のそばにトロフィーを置いた。目の前に並ぶ豪勢な料理にぶつからんように、斜め前に置かれたそれをチラッと見る。
金色に輝くトロフィーに映った自分の顔が歪んでいた。
「おめでとう、たっちゃん」
食事を運び終えた母さんが、俺の隣に着席する。父さんは前に座って、俺の視界を埋めた。
それから二人は、隠れて練習してたんやね、とか、父さんたちを驚かそうとしてたんやな、とか。そんなことを楽しそうに話してたけど、なかなか会話が頭に入ってこん。まだ動揺を極めてる。コンクールで演奏をしてから、ずっと手が小刻みに震えたままや。
「……全国大会で優勝したわけでもないし、大げさやって」
視線を下げて言う俺に、左横と正面から強い視線を感じる。
「なに言ってんの、こぢんまりとしたコンクールいうても、五百人くらい参加してたんよ」
「その中には海外のコンクールで入選したり、テレビに出たりしてるピアニストもいるらしいぞ」
……え? そう、なんや……。
二人の台詞は、俺の脳内を少しクリアにした。
いつもなら、コンクールの詳細を調べて挑む俺やけど、今回はなにも考えてなかった。
だから知らんかった。五百人も出場者がいて、しかもその中に、職業『ピアニスト』と名乗れる人間がいたことも。
「ついにやったな」
帰宅後、両親はこぞって俺を褒め称えた。
二十センチほどの小さなトロフィー、全国大会で優勝したわけでもないのに、やたらと豪華な食事が出てくる。
懐石料理やフランス料理、有名な店は当日予約でいっぱいやからって、高級スーパーで材料を買って、母さんが晩御飯を作ってくれた。
ミートローフに照り焼きチキン、アボカドとサーモンのサラダに、カボチャの冷製スープ。その辺のシェフよりたぶん腕がいい、そう思わせる母さんの手料理。そういえば、絵なんかの芸術に長けた人は、料理も上手いって聞いたことある気がする。俺の家庭科の調理実習はひどいもんやった。あいつは……料理なんかする性格やなかったから不明のまま。
ようやく日が暮れ始めた午後七時、レースの遮光カーテン越しに、滲む夕陽がリビングをオレンジ色に染める。
そんな中、俺はスーツの上着も脱がずにダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
「トロフィー、よかったな」
父さんはそう言うと、小さな紙袋に入ったトロフィーを俺に差し出した。
直径二十センチくらいの、てっぺんに音符のマークが入った金色のトロフィー。小ぶりやけど、けっこう凝ったデザインのそれに、俺は手を伸ばすことができんかった。
すると、父さんは俺のそばにトロフィーを置いた。目の前に並ぶ豪勢な料理にぶつからんように、斜め前に置かれたそれをチラッと見る。
金色に輝くトロフィーに映った自分の顔が歪んでいた。
「おめでとう、たっちゃん」
食事を運び終えた母さんが、俺の隣に着席する。父さんは前に座って、俺の視界を埋めた。
それから二人は、隠れて練習してたんやね、とか、父さんたちを驚かそうとしてたんやな、とか。そんなことを楽しそうに話してたけど、なかなか会話が頭に入ってこん。まだ動揺を極めてる。コンクールで演奏をしてから、ずっと手が小刻みに震えたままや。
「……全国大会で優勝したわけでもないし、大げさやって」
視線を下げて言う俺に、左横と正面から強い視線を感じる。
「なに言ってんの、こぢんまりとしたコンクールいうても、五百人くらい参加してたんよ」
「その中には海外のコンクールで入選したり、テレビに出たりしてるピアニストもいるらしいぞ」
……え? そう、なんや……。
二人の台詞は、俺の脳内を少しクリアにした。
いつもなら、コンクールの詳細を調べて挑む俺やけど、今回はなにも考えてなかった。
だから知らんかった。五百人も出場者がいて、しかもその中に、職業『ピアニスト』と名乗れる人間がいたことも。
