気づけば時刻は十二時。とりあえず腹ごしらえをしようと誘う俺に、全財産なくなったから、お昼ご飯はいらないと言い出す春歌。貧乏アピールするわりには、俺に奢ってもらうんを嫌う。今回ばかりは倒れられたら困るから、俺のために食えって説得して、明石公園にある喫茶店に連れていった。今時のカフェやなく、喫茶店ってところがミソや。何度か改装したことはあるけど、場所や雰囲気は昔から変わらんって親から聞いた。流行りのふわっふわなパンケーキはないけど、定番メニューに安心感を覚える。
俺はナポリタンを、春歌はサンドイッチを頼み、食べ終わった後、広い公園内を進む。燦々と降り注ぐ太陽が、目の前の白い肌を焼き尽くしそうで怖かった。
二十分ほどかかる距離を、春歌は一度も休まず、ペースを守って歩いた。朝に比べれば大人しくなった蝉の鳴き声を背に、たどり着いた目的地はレンガ色の横長い施設。懐かしい、小学校低学年以来か、古くも重厚な作りをした明石市立図書館。ここが希望なんて、本が好きな春歌らしい。
慣れた動向の春歌に続き、数多の書物に囲まれた館内に入る。春歌は迷いなく奥の列に向かい、しばらく姿を消したかと思うと、何冊もの本を抱えて出てきた。それから窓際にある焦茶色の机まで歩くと、肘にかけたハンドバッグと本の束を置いて席についた。対する俺はなにを借りてええかもわからず、辺りをうろうろして、とりあえず目についた本を取った。図書館の作法をすっかり忘れてる、少しくらい教えてくれたらええのに。胸の内で愚痴りながら、春歌と対面の席につく。
春歌はライトノベルってやつを読まん。家にあるんも、文学と呼ばれる難しいものばかりや。会話の少ない、文章がぎっしり詰まった小説。初めて春歌が好きな本を開いた時、一目見ただけで読む気を失った。
俺の存在を忘れたように、一人読書に耽る春歌。緑の葉から射し込む光が、窓を通して真剣な横顔を照らす。春歌がこういう顔をする時は、周りの声なんて一切聞こえん。俺に気づいてほしいのに、ただ見惚れるしかできん。知性と自我に染まった孤独が、あまりに美しかったから。
無関心な本を開いて、読んでいるふりをする。伏せ目がちの長いまつ毛を見ながら、最終目標を思い出す。告白なんて今までしたことがないから、どうやってすればええかわからん。春歌相手にロマンチックは無理でも、きちんと聞いてもらえる空気に持っていかなければ。幼稚園から止まったままの恋愛経験、薄っぺらい記憶に引っかかるんは、ついこの間の海に立つ優希やった。
自ら未遂にした告白を参考に、次に誘う場所を考える。だけど春歌は一向に動かんまま、結局図書館が閉まる十九時まで居座ってもうた。
俺はナポリタンを、春歌はサンドイッチを頼み、食べ終わった後、広い公園内を進む。燦々と降り注ぐ太陽が、目の前の白い肌を焼き尽くしそうで怖かった。
二十分ほどかかる距離を、春歌は一度も休まず、ペースを守って歩いた。朝に比べれば大人しくなった蝉の鳴き声を背に、たどり着いた目的地はレンガ色の横長い施設。懐かしい、小学校低学年以来か、古くも重厚な作りをした明石市立図書館。ここが希望なんて、本が好きな春歌らしい。
慣れた動向の春歌に続き、数多の書物に囲まれた館内に入る。春歌は迷いなく奥の列に向かい、しばらく姿を消したかと思うと、何冊もの本を抱えて出てきた。それから窓際にある焦茶色の机まで歩くと、肘にかけたハンドバッグと本の束を置いて席についた。対する俺はなにを借りてええかもわからず、辺りをうろうろして、とりあえず目についた本を取った。図書館の作法をすっかり忘れてる、少しくらい教えてくれたらええのに。胸の内で愚痴りながら、春歌と対面の席につく。
春歌はライトノベルってやつを読まん。家にあるんも、文学と呼ばれる難しいものばかりや。会話の少ない、文章がぎっしり詰まった小説。初めて春歌が好きな本を開いた時、一目見ただけで読む気を失った。
俺の存在を忘れたように、一人読書に耽る春歌。緑の葉から射し込む光が、窓を通して真剣な横顔を照らす。春歌がこういう顔をする時は、周りの声なんて一切聞こえん。俺に気づいてほしいのに、ただ見惚れるしかできん。知性と自我に染まった孤独が、あまりに美しかったから。
無関心な本を開いて、読んでいるふりをする。伏せ目がちの長いまつ毛を見ながら、最終目標を思い出す。告白なんて今までしたことがないから、どうやってすればええかわからん。春歌相手にロマンチックは無理でも、きちんと聞いてもらえる空気に持っていかなければ。幼稚園から止まったままの恋愛経験、薄っぺらい記憶に引っかかるんは、ついこの間の海に立つ優希やった。
自ら未遂にした告白を参考に、次に誘う場所を考える。だけど春歌は一向に動かんまま、結局図書館が閉まる十九時まで居座ってもうた。
