明石公園から徒歩圏内に、俺の家がある。ほんまは走って早く帰りたい。なぜって、今の俺の格好はタンクトップ一枚やから。しかも白の、いかにも肌着ですって感じの。学校の後やから仕方ない。俺が悪いんやない、むしろ校則を守ってる証や。だけど今ばかりは、カラーシャツを着ている不良っぽい奴らが羨ましく思えた。
 歩幅を合わせながら、隣を歩く春歌を盗み見る。移動する時、前を閉めろと散々訴えて、春歌はようやくシャツのボタンを留めた。俺と身長はさほど変わらんけど、体格が違う。太っても痩せてもない俺に対し、春歌は線が細い。そんな体が壊れんように、急ぎたい気持ちを堪えて、広い道路の脇をゆっくり歩いた。
 やがてまっすぐな道の前方に、ライトグレーの戸建てが見えてくる。誰にもすれ違わんかったことに一安心して、開いた門扉から春歌を招いた。
 春歌が俺の家に来ること自体が、十年ぶりや。その間、数えきれんほど会ったし遊んだけど、場所はたまに公園、大抵は春歌の家やショッピングモールとかの室内やった。春歌は入院することも珍しくないけど、見舞いには絶対来るなと言われてるから、病院で会ったことはない。
 俺は、なんでこんなに長い間、春歌を家に誘わんかったんやろう。ぼんやりと自分に問いかけながら、ドアを開いて玄関に入る。

「相変わらず大きいね、拓人の家。玄関、超広いし、いいなぁ、靴もたくさんあって」

 真新しい反応をするんは、普段俺の家を目にする機会がないからやろうか。
 春歌は両親が離婚して、有名な心臓外科医がおる関西に引っ越してきた。祖父母も早くに他界していて、ずっと母親と二人暮らし、そのアパートはここから一駅先にある。だから校区が違って、小中学校は別やった。その会えん時間を埋めようと、学校が終わると急いで帰宅して、自転車に乗って春歌の家に通った。たぶんピアノの練習と同じくらい、心血を注いでいた。
 俺の白いスニーカーに続いて、春歌が茶色のローファーを脱ぐ。歩いたままの形になったそれ。はなから整える気はなさそうや。
 
「たっちゃん? おかえ――」
 
 しゃがんで春歌の分まで靴を揃えていると、背後から聞こえた声が途中で切れた。