桜が散るころ君と世界の儚さを分かち合う

 梅雨が明けた。

厚い雨雲はどこかへ消え去り、空には抜けるような青空が広がっていた。アスファルトの匂いは、太陽の熱にとってかわられ、蝉の声が、僕らの夏休みが始まったことを高らかに告げていた。僕たちはいとものように図書室に集まっていた。エアコンの効いた涼しい空間は、外気の熱気から隔絶された、僕らの秘密基地のようだった。

「いやー、夏休みだね!最高だね!」

ありまは、まるで夏そのものを体現しているかのように声を上げた。彼女の言葉に僕と桜子は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。

「ありま、そんな元気だと図書室から追い出されちゃうよ」

僕がそう言うと、ありまはいけないと慌てて口元を押さえた。直後思い出したかのようにありまは言った。

「そんことよりも、二人とも!夏休みはなにしたい?」

ありまは僕らにそう問いかける。僕と桜子は顔尾を見合わせて、お互いに首を傾げた。

「そうだな、特にはないかな」

「もぉー、遥人夏なんだし三人で何か思い出に残ることしようよー」

ありまは夏に無気力な遥人にあきれた様子で話した。僕はありまとは正反対な存在なんだと思った。しかし一緒にいて心地が良い。安心できるというか、いつも僕ら無気力二人組の士気を上げてくれるしなんだかんだで僕の人生には欠かせない存在だ。そんなことを考えながらありまと話していると桜子が口を開いた。

「私は、三人で何か思い出に残ることしたいかも」

「だよねー!まあ具体的になにをするかはこれを見て決めようよ」

ありまは、満面の笑みを浮かべ、鞄から一枚の紙を取り出した。そこには、映画鑑賞、ショッピング、そして花火大会といった文字がずらっと書かれていた。

「どう?楽しそうでしょ、まずは映画に行きたいんだよねー、いまめっちゃ面白い映画やってるんだよ!遥人も映画なら大丈夫でしょ?」

ありまは、僕の顔を真っすぐ捉え訴えかけてきた。

「僕のこと、気遣ってくれたの?」

「当たり前じゃん!遥人アクティブなの苦手でしょ?まずは、涼しいところでまったりできる映画からが、おあつらえ向きだと思って!」

ありまの言葉に、僕は少しだけ気恥ずかしくなった。彼女は、僕の表面的な部分だけではなく、内面的な性格まで理解してくれている。彼女は以外にも人の性格を理解するのが得意なのかもしれない。理解し配慮してくれる彼女の優しさが、僕の心を温かく満たした。

「じゃあ行こうか」

僕はありまの誘いを、喜んで受け入れた。この夏休みは、きっと、今までとは違う夏休みになると僕は確信していた。僕の「感傷的風景」が桜子の「儚さ」がこの夏にどのように衝突し異変を起こすのか研究しなければならない。桜子のためにも僕にはこの異変の謎を解き明かす義務があると思う。そしてまた新たな異変が始まる気がしていた。その予感に、僕の心は静かに、そして確かに高鳴っていた