お守りリボン

 教会の鐘が鳴り、拍手で迎えられる。
 奥にはタキシードを着たまーくんが僕を待っている。
 「アナタ達は、雨の日も風の日もアイシアウ事を、誓いマスカ?」
 「はい、誓います」
 「ち…誓います……」
 周りの温かい視線も相まってちょっと恥ずかしい……
 「では、誓いのキスを〜」
 僕はまーくんの方を見上げ目を瞑る。
 そしてまーくんの唇が僕の唇に触れようとした瞬間頬を軽く叩かれた。
 (なんで………)
 「にーちゃ!」
 (………優唯?)

 学園祭、それは数少ない中等部と高等部二つで同時に開催されるイベント。
 僕なんて今年もきっとぼっち確定だろう………
 「はるぴ!学祭一緒にまわろー!」
 「……えっ、いいの?」
 「もちー!ウチら友達じゃん!」
 でもそういえば今は友達と呼んでくれる人がいるんだっけ。それも三人。
 それと………
 「ダメ、はるくんは俺と二人でまわるんだもんね?」
 「えっ」
 「俺はるくんと二人きりがいいな」
 「…………仕方ないなぁ」
 恋人と呼べる人ができた。昔から大好きだった幼馴染。
 「えー、ウチが先に誘ったんですけど!!」
 「でもはるくんは俺と二人がいいって」
 「言わせたんじゃん、はるぴはウチらともまわりたいもんね」
 「えーっと…………」
 確かに恋人優先なんてしてたらせっかく友達と呼んでくれているのにまた呼ばれなくなってしまうのかもしれない。けれどせっかく恋人同士になれたんだしという気持ちもあって複雑だ。
 「じゃあ前半俺らでまわって後半お前らでまわれば?」
 そう提案してきたのは梶くんだった。こちらとしてもそれなら公平でいいだろう。そう返そうとしたら…………
 「「ダメ!!」」
 二人口を合わせてそう言ってきた。二人はどうしても僕を渡したくないらしい。
 「はぁ、瑠奈だって察しろよ。真人も気持ちはわかるけど劇で王子やれるんだからいいだろ」
 (王子…………)
 話は少し前に戻る。

 「今年の学園祭、うちのクラスは劇で白雪姫をやることになりました。やりたい役あったら言えよ」
 突然先生からそう言われクラスは大ブーイングの嵐だった。みんな出店をやる気満々で「お化け屋敷やろう」や「スイーツ店を開きたい」などの声もそこらから聞こえていたため僕もてっきり出店をやるのかと思ってコンカフェ的なのを想像していた。
 「なんで出店じゃねーんだよ!」
 「先生達で決めたことです、このクラスには演劇部の子が多いということで」
 確かに多い気はするがそんな理由で決めないでいただきたい。しかも白雪姫とかいうキスシーンがある作品。お年頃の生徒にはきつい。
 「けどここだけの話、演劇部の顧問の樋口先生が一番感動したクラスには焼肉ご褒美だって」
 「「焼肉!?」」
 さっきまでブーイングしていたみんなは焼肉という言葉を聞いた瞬間手のひらを返すようにやる気を入れて次々と役の立候補をする。
 気づけば僕が狙っていた木の役は埋まり、ならば裏方にと残っていた小道具担当に立候補しようとした途端他の人が担当することになり残るはステージに出る役しかなかった。
 「じゃああとは白雪姫、王子、馬役二人、小人Aが残ってるな」
 しかも特に目立つ役ばかりだ。残ったのは僕とまーくん、俊哉くんと石原くん、そしてクラス一の美女とも呼ばれる仲山さんが残った。まるで白雪姫にするかのようにポツンと女子が一人。
 「じゃあ白雪姫役は仲山さんがいいと思います!」
 そう後ろの方に座った男子がそう言った途端周りから賛成の声が多数で仲山さんが担当となる流れになったところで梶くんが手を挙げた。
 「仲山さんが白雪姫やりたいとは限らないですよね、別に男子がやってもいんじゃねっすか」
 仲山さんの方を見ると目を輝かせて梶くんを見ていた。多分絶対やりたくなかったんだろう。口裏合わせたかのように残されて無理やりやらされるのが嫌だったのだろう。
 「でも白雪姫って女じゃん!」
 「多様性の時代だから」
 確かにそうではあるが誰がやるんだ?ネタでも自分からやりたがるやつなんていないだろう。
 「俺は遥輝推薦しとく」
 「…………え?僕?」
 梶くんのその言葉で一気に僕に視線が集まる。そんな目で見られると反応に困る…………
 「確かにはるぴかわいいしね」
 「瑠奈まで………」
 「………確かに北川くんってかわいい顔してるね」
 「えっ」
 「試しにウィッグ被ってみてよ」
 演劇部の道島くんにやられるがままウィッグを被らせられるとどこから取り出したかメイク道具でメイクまでされた。
 「できた!」
 そしてまた僕の方へと視線が集まる。
 「これは…………!」
 クラス中から歓声が上がるほど凄いらしく何人かの男子から「男だけど一目惚れしちまった」と愛の告白までされた。
 女装なんてしたことないし、したくもないから辞退しようかと思ったがいつの間にか僕が白雪姫に立候補していることになっており残りの王子役を争い先程まで別の役割だった男子達がその役割を辞退し王子役へと立候補した。
 その中にはまーくんもいてそれならもう是非まーくんにやってくれと口を開こうとするがある男子がこんな提案をしてきた。
 「誰が一番王子様っぽいか姫に決めてもらおう!」
 「えっ、姫?」
 僕が何かを言える暇もなく突然やるのは白雪姫なはずなのにガラスの靴にピッタリ合うシンデレラを探すみたいな行列ができた。
 「姫!俺ならあなたの期待に添えるかと!」
 「えーっと………」
 「いや、こんなのより俺が!」
 「いいや!俺だね!」
 だがすぐ先程までの列はぐちゃぐちゃになり他クラスまで様子を見に来るほど騒ぎに騒いだ。
 「こら、うるさくするなら先生が決めるぞ」
 「遥輝がこの状況を見てしてほしい人決めれば?」
 「この状況って言われても…………」
 こんなぐちゃぐちゃじゃ見るもんも見れない。しかもよく見ると何人か他クラスの男子が混ざってる。僕を見てるし多分他クラスにまで王子をやりたい人ができたんだ。
 「真人とかさ、こん中じゃ一番顔いいし評判もよくなるだろ」
 「えっ」
 梶くんのそんな提案に驚いた顔の僕と殺気立った顔で睨む男子たちが梶くんに視線を集める。
 「遥輝は?それとも誰かにやってほしい?俺とかやってやろうか」
 「それは…………」
 僕が返答に困っていると突然まーくんがこっちに近づいてきた。
 「なぁ、俺じゃダメ?」
 そう言ってまーくんは僕の顎をクイッと上げ僕の顔を覗き込む。
 「ダメなんかじゃ…………」
 「じゃ、決まりな」
 「え」
 その後はまーくんが王子様役と決めると男子達は勝てないと判断して諦めたのか渋々元の役に再立候補したが王子役を決めていた時に仲山さんが空いた役に立候補したため他の余った一人が馬役をすることとなった。

 なんてことがあったな。
 結局僕が白雪姫をやるのには変わりない。
 練習中まーくんの気合いがプロレベルで凄かった。みんなは焼肉のためだとか言ってるけど多分相手が僕だからな気がする。
 「いい彼氏持ったな」
 「そりゃどうも………けどみんな知らないから刺されるんじゃないかな、梶くんどうにかしてよ」
 「じゃあバラしとくわ」
 「それだけは勘弁」
 「冗談だよ、まぁそんな時は俺がそういう奴らたらすわ」
 「女たらしする宣言ってどうなの………」
 「俺彼氏いるし大丈夫」
 何が大丈夫なんだろうか、僕にはわからない………
 「練習でもキスシーンやるのかな」
 「さあ?やんじゃね」
 そうなると僕はどうなってしまうんだろうか。この前の夏祭りでキスをしたとはいい今思い出すとなんであんなこと言ったんだとめちゃくちゃ恥ずかしい。「しないの?」なんて僕みたいな陰キャが言っていいわけない。陰キャが言っちゃダメな言葉ランキング5位くらいには入るだろ。
 「まあでも実際のグリム童話だと殴られて起きてるから殴ってくるかもな」
 「えっ!?」
 「でも真人はDVなんてしないだろ、舌入れるタイプのキスしてくるんじゃね」
 ちなみに梶くんは魔法の鏡役だ。こんなイケメン陽キャが鏡役なんて勿体ない。
 「てか鏡役でよかったの?」
 「ん?俺は別になんでも、焼肉食えりゃいいよ」
 「そういえば焼肉って多分グループで分けられるよね…………」
 僕がそう言うと梶くんは何かを察したのかニヤリと笑い僕にそっと耳打ちした。
 「二人席あるといいな」
 「っ………余計なお世話」
 そうして僕達が話していると突然誰かが梶くんの頭を台本で叩いた。
 「鏡なんだからちゃんと練習やれよ梶」
 「いってー、DVするなんて最低」
 「割るぞ」
 「こわー、遥輝だって俺と話してサボってたよ」
 そう言って梶くんは僕を売り出した。僕は返す言葉もなくただ俯いていた。
 すると…………
 「息抜き大事だもんね、よしよし偉いよはるくん」
 「………怒らないの?」
 「怒るわけないじゃん、本番までまだ一ヶ月あるんだしまだ大丈夫だよ」
 まーくんは梶くんとは違い僕の頭を優しく撫でる。さっきまで劇の練習に夢中になっていたクラスメイト達の視線もこっちに集まっていてとても恥ずかしい。けれど「これも練習なんだな」とでも思われているのか茶化したりはもちろんみんな温かい目で見てくれているから付き合ってることはバレてない。多分。
 「ぎゅーする?」
 「そっ……!?れは遠慮しとく」
 「ふーん」
 まーくんは残念そうにしながら僕の前髪を上げ額にキスをした。
 「一緒にがんばろーね」
 「っ〜〜〜〜!!」
 周りからも小さく歓声が上がる。梶くんもペットショップで仲のいい犬同士を見るような目でこちらを見ていた。
 そしてその日の夜「学校でああいうことやられると死んじゃいそうで困る」とLIMEで送ると秒で既読が付き「じゃあ学校以外でする」と返ってきた。
 まあそれならいいだろうと思い僕はそこまで気にせず「わかった」と返信し眠りについた。

 そして迎えた学園祭当日。
 普段関わりのない中等部の子がゾロゾロと高等部校舎へと入ってくる。
 劇まで時間があるので僕達は先に出店を回ることにした。
 「はるくん、何から回る?」
 「じゃあ四組のカフェ?四組なら相田くんのとこだし」
 相田くんのお母さんはパティシエールだしきっと美味しいに違いない。
 「いいの?」
 「え?いいのって?」
 「いや、なんでも」
 それが一番気になってしまう。何かあるんだろうか………

 「カフェ『らぶりぃ』へようこそ!カップル席ご案内しま〜す!」
 「え?」
 そうして僕達は()(すべ)なくど真ん中のハートで飾られた席へ案内された。
 「どゆこと?」
 僕はまーくんに小声でそう聞くがまーくんはニヤリと笑い僕のことを抱き寄せる。
 「ここカップルカフェだよ?周り見てごらん?」
 そう言われ周りを見るが確かにカップルばかりだ。一人席はなく一番大きいところだと夜のお店のようなコの字の席が一つしかない。
 「ご注文はお決まりですか?」
 「えっと…………まーくんは何食べたい?選んでいいよ」
 カップルばかりとわかると急に恥ずかしくなってメニューがまともに読めない。
 「じゃあカップルドリンクのサイダーとらぶりぃパフェで」
 「かしこまりました〜!少々お待ちくださ〜い♡」
 なんかすごいの出てきそうな気がするんだけど………気のせいだよね。
 「お待たせしました〜!カップルドリンクとカップルパフェでーす♡」
 そう言って出してきたのはアニメでしか見ないような大きいグラスに盛られたパフェとハート型に折られたストローが刺さったドリンクだった。
 「い、いただきます………」
 僕は周りの目を気にしながらもサッとパフェを一口頬張った。すると口の中にクリームの優しい甘さが広がり今まで食べてきたパフェの中で一番おいしいと思うくらいプロ級の味だった。
 「これおいしいよ、まーくんも食べてみて」
 僕は周りのことなど忘れパフェをすくってまーくんの口元へと差し出す。
 周りからはチラチラと視線が集まってる気がするがここまで来ると引き返せず早く食べてとまーくんに視線を送る。
 「ありがと」
 まーくんはそれを察したのかスプーンに乗ったパフェを口の中へと運ぶ。
 「どう?」
 「めっちゃうまい、はるくんももっと食べな。俺ははるくんが食べてるの見てればおなかいっぱい」
 急にこんなこと言ってくるんだからイケメンはやっぱり違うな。
 僕は気を紛らわすためにドリンクへと手を伸ばすが焦っていたからか思わずドリンクを倒してしまい、服にかかってしまった。
 「大丈夫?はるくん」
 幸いドリンクが入っていたのはプラスチック製のコップだったので割れはしなかったが僕の服は上も下もベチャベチャ。このままじゃまともに回れない。
 「大丈夫ですか?タオル使います?」
 会計係の生徒から渡されたタオルで拭き取ろうとするがそれでも全身シミになっているのでこのままじゃ歩けない。どうしたもんかと悩んでいるとまーくんが自分のブレザーを脱ぎ僕の肩に羽織らせ、更には上着も手渡してきた。
 「とりあえず上はそれで我慢して、下も上着貸すから巻いて」
 「ありがと………」
 まーくんのブレザーはブカブカだったがいい匂いがした。僕の大好きな匂い。
 「俺の服そんなに臭い?」
 「え、いやめちゃくちゃいい匂いだったから」
 「はぁ……ずるすぎ」
 まーくんはそう言いながら僕のことを抱きしめ頭の匂いを嗅ぎ出す。
 「こっちもいい匂い」
 「えっ!いや!いい匂いじゃないよ」
 「はるくんってシャンプー何使ってるの」
 「サクセスの25だけど………」
 「おけ、俺も同じの使う」
 まーくんはスマホを取りだし何かを打ち込む。何をしているんだろうと見つめているとまーくんのスマホから「saysay!」と決済音が鳴った。
 「ヤマゾンであったから買っといた、明日には来るっぽい」
 「はやっ」
 「今日届いてもいいのにね」
 「それは流石にはやすぎ」
 「確かに」
 そして僕達は残ったパフェを食べ終えササッと会計も済ませ次はどこに行こうかと地図を広げ悩んでいた。
 「あ、てかもうそろそろ時間じゃない?」
 「んー?まだ三十分以上あるじゃん」
 まーくんはまだちょっとあるからもっと回ろうと僕の手を引っ張るが僕は一向に動かず(うつむ)く。
 「どした?やっぱさっき濡らしたのやだ?」
 「………の……から」
 「え?」
 「………王子様のまーくん……早く見たいから」
 僕が小声でそう伝えるとまーくんにはしっかり届いてたみたいで僕の頭を撫でる。
 「もう王子様のつもりなんだけどな」
 「…!それはそうだけど、その………王子様の服とか着てるの見てないなって」
 多忙でいちいち着替えながらやると面倒だからと採寸した以外に衣装のことはほとんど知らない。白雪姫の服をチラッと見はしたが王子様の服は見ていなかった。
 「あーそっか、じゃあ早く着て見せなきゃ」
 「うん、それに僕が白雪姫の服着たら僕だけの王子様みたいになるじゃん」
 「天才、かわいい、結婚しよ」
 「ふふっ、もうちょっと大きくならないとできないでしょ」
 そうして僕達は手を繋ぎ衣装が保管されている教室へと向かう。浮かれているからバカップルみたいな目で見られるかもしれないが気にしないことにした。まーくんは僕のだって証明にもなるし僕もまーくんのものって自慢して歩いてるようなものだろ。

 「あら北川くんと畑中くんじゃない、早いね」
 「はるくんのご要望で早く来ちゃいました」
 「あらあらどうしたの上と下」
 「あー、それは………」
 僕は先生にさっきあったことを話すと先生は「替えの制服着る?」と提案してきたが洗濯とか考えるとめんどくさいなと思い断った。
 けど濡れたままじゃあれだしやっぱり借りた方がよかったかな。
 「じゃあ俺の制服貸してあげる、ブカブカかもだけどベルトは無事でしょ?」
 「えっ、うん」
 やっぱり断って正解だったかもしれない。けどそうするとまーくんの服が無くなるのでは?と心配そうにまーくんを見つめる。
 「俺はいいよ、王子の服でも着てれば」
 「それでいいの?」
 「いいよね?せんせ」
 「まあいいんじゃない?学園祭で一瞬しか使わない服なんて保存してたら虫食いとかされても困るし」
 「あざーっす」
 「なんなら貰ってよ!」
 「いいんすか?じゃあ遠慮なく、はるくんも貰っとく?」
 「僕はいいよ、女装癖とかないし」
 「そう、じゃあとっとと着替えよ」
 そのまま僕はまーくんに連れられ教室の奥の方へと入っていった。
 「まずそのままで風邪ひかれても困るしはるくんから着替えよ」
 「うん」
 「バンザイして」
 「脱ぐくらいは自分でできる」
 「えー、でも昔は一人じゃ着替えれなかったじゃん」
 「いつの話!?」
 そんなの幼稚園の頃くらいじゃないか?少なくとも小学生になってからは一人で着替えれたはず。多分。
 僕はジュースで濡れた制服を全て脱ぎまーくんに知らせた。
 「早く衣装ちょうだい」
 「………やだ」
 「なんで!?」
 「いやぁ………このままもいいなって」
 そう言いながらまーくんはチラチラ僕の方を見る。
 「まーくんのえっち、修学旅行で十分見たでしょ」
 「そうだよ、俺えっちだよ」
 「否定しないんだ………っくしゅん」
 「大丈夫?ほら、早く着替えな」
 誰のせいだと思っているんだろうか。そもそも風邪ひかないように先に着替えさせたんだからもっと早く渡してくれてもよかったのに………てかこれどうやって着るんだ?
 「手伝おうか」
 「大丈夫、絶対変なことしそう」
 「えー俺そんなに信用ならない?」
 「うん」
 それは即答。とりあえずなんとなく勘で着たら意外とすんなり入っていい感じになった。
 「じゃあ俺も着替えよ、はるくん見る?」
 「見っ………ないけど」
 「えー?ほんとに?」
 「ほんとに!てか変態じゃん」
 「ハハハッ、はるくんもだいぶ柔らかくなったね」
 上裸のまーくんはそう言って僕の頭をニマニマしながら撫でる。まあ確かにまーくんが転校してきてからはだいぶ柔らかくなったのは事実。
 「ん?お前らなにしてんの」
 そう後ろから声をかけてきたのは梶くんだった。まーくんの方を見て何か変な勘違いをしたのか真顔のまま後退りしている。
 「待って!別にそういうことは!」
 「先生には黙っとくから」
 「そうじゃなくて本当に!」
 「俺鏡だしすぐ終わるから………お前ら時間なくなってきてるから早く済ませなよ」
 そう言いながら梶くんはそそくさと教室から出ていってしまった。時計を見ると確かにあと十五分くらいで始まるという時間で外からは他のクラスメイトがこちらへ向かってきてる声も聞こえる。
 「早く着替えて!」
 「………はるくんはさ俺とそういうことしたい?」
 「えっ…………それ今じゃなきゃダメ?」
 「いや別に?もう着替え終わったから早く行こ」
 まーくんはいつの間にか本当に着替えを済ませており僕の手を引く。
 「あ、やっと見つけた!北川くん、急いでメイクするよ」
 「え?あ、はい?」
 そして引っぺがされたと思えばプリキュン並に早いメイクであっという間に別人のように変わってしまった。
 「それじゃ、行くよ」
 そのまま僕はみんなに押され体育館へと運ばれてしまった。

 「次は高等部二年生の白雪姫です!」
 そしてブーとブザーが鳴りステージがライトで照らされた。
 「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だい?」
 「それは俺……じゃなくて女王様、あなたです」
 「そうだろうそうだろう、やはり私が一番だな」
 「ですがやはり俺が一番美しい気もするのですが」
 「なんだい!鏡の分際で!叩き割るぞ!」
 いつもと違う白雪姫に観客からは笑い声が聞こえる。脚本した道島くんは狙っていたかのようにドヤ顔だ。
 「ですが最近は白雪姫も美しいかと」
 梶くんがそう言うとステージのスクリーンにさっき撮ったであろう僕の写真が映し出された。
 「こういうのは美しいではなくかわいいだろう、美しいのはこの私だな」
 「自惚れんなババア、白雪姫が子猫だとしたらお前はカマキリだな」
 「誰がカマキリよ!」
 「すみません、ノミでした」
 「やっぱり叩き割ってやろうかしら」
 「いやぁやはり若く美しい女王様はかわいさでも世界一だ」
 梶くんのあまりにも酷い棒読みもあってか観客からのウケは割と良さそう。ただ辛辣すぎる気もするけど。
 「どうやって殺す?」
 「まぁ狩人(かりうど)に頼んで殺させるわ」
 「おっけー!」
 そうして女王は不敵な笑みと笑い声を浮かべながら場面は変わった。
 そしてついに僕の出番。
 「白雪姫って名前、なんで姫って付けられたのかしら?キラキラネームすぎない?」
 そう呟きながら森を歩いていると突然狩人が銃を突きつけてきた。
 「結婚してください!」
 「え?いや、無理でしょそんな銃突きつけられたら」
 「これ、おもちゃですから」
 「そういう話じゃなくて………」
 カオスな白雪姫は観客にも好評なようでどこかから「白雪姫、俺と結婚してくれ〜」とかも聞こえる。とりあえずウケてるならいい………のかな?
 「さあ、かわいい白雪姫。森の奥へお逃げなさい」
 「あ、ありがと」
 「適当にその辺の動物の心臓持って帰りますわ」
 そう言って狩人はその辺を彷徨いていたネズミを撃ち帰っていった。
 「白雪姫の心臓持って帰ってきましたー」
 「随分とちっちゃい心臓だな、白雪姫のなのか?」
 「はい、ロケットランチャーで撃ったらこうなっちゃって」
 「その銃はなんだよ!ロケランなんか使うな!」
 「ちょっと聞いてよ〜、白雪姫生きてんだけど」
 そしてまたスクリーンに僕の姿が映し出される。
 その時だけ何故かカメラのシャッター音が多い気がするのだが気のせいだろうか。
 「生きてんじゃねーか!」
 そう言って女王は鏡を持ち上げそれで狩人をぶっ叩く。
 その後また場面が変わり次は七人の小人が出てくる。
 「あんた誰!」
 「えっと、白雪姫です」
 「白雪姫?贅沢な名だねぇ……今日からお前の名前はヨだよ」
 「え!白でいいでしょ!なんで雪のヨの部分なの!?」
 もはや白雪姫なのかも怪しい劇はその後も進み遂に魔女が出てきた。
 「おい、そこの女。どくリンゴ食べるかい?」
 「………えっ、毒?」
 「いいや、(どく)リンゴ」
 「なにその怪しい宗教みたいな………」
 「まあ食えって」
 そのまま無理やりうさぎリンゴを口に入れられ飲み込んでしまった。
 「ううっ………!」
 「ほら、おかわりいるか?」
 「………ぐっ、き、貴様…何をした!」
 もはや白雪姫とは言えないセリフばかりだ。改変しすぎではなかろうか。
 そしてそのまま僕は毒リンゴを食べ倒れたたところでライトが消え場面が切り替わる。
 「綺麗な寝顔だ」
 「写真撮っとこ!」
 横からはスマホのカメラで連写してる音が聞こえる。
 「起きないうちに落書きとかする?」
 「いや、こんな綺麗な顔に落書きなんてしたらバチがあたる!」
 「確かに………でもどうしたもんか」
 そしてその時白馬に乗った遂にまーくんが現れる。
  「ほら行けシルバーシップ、あっちになんかあるだろ」
 「うっせーな、振り落とすぞ」
 「「馬が喋った!!」」
 もはやなんでもありだ。白雪姫から改名してもののけ姫のほうがいいんじゃないだろうか。
 「お、こんなところに綺麗な姫が」
 そう言ってまーくんは馬から降り僕の近くへと寄る。
 (とうとうキスシーンが………)
 どこまで進んだか見るため薄目を開くとなぜか台本にないのにベッドの上に乗って床ドン?をしていたのである。
 「目閉じてて」
 まーくんは僕が薄目で見ていることに気づいたのか耳元で小さく囁いた。
 僕は慌てて目を閉じるがその瞬間口元に何かがあたる感触がした。
 「目、開けていいよ」
 まーくんにそう言われ恐る恐る目を開けるといつの間にかまーくんにお姫様抱っこされていてまた台本にないアドリブでみんなを驚かせた。
 そしてまーくんは僕を降ろしたかと思うとおもむろにポケットから何かを取り出した。
 「白雪姫、いやはるくん。俺と結婚してください」
 よく見るとそれは指輪だった。台本にこんな展開はなくまたアドリブだ。
 そのアドリブは更に全員を驚かせさっきまでカメラで写真撮影に夢中だった誰かのお父さん達も撮影をやめるほど一気に視線が集まった。
 「一生しあわせにします。あなたの王子様として傍にいさせてくれませんか?」
 「ほ、本当の?」
 「うん、本気のプロポーズ。もう一回しっかりとやりたいなって」
 本当ならもう発表できる時間は過ぎているが司会者も見入ってしまったのかなかなか終わらない。
 なんなら照明役のクラスメイトがステージ上のライトを消しスポットライトで僕達を照らす。
 答えはもちろん
 「はい、よろこんで」
 そして僕はまーくんを強く抱きしめる。
 観客からは歓声と拍手が鳴りそのまま発表が終わりステージの幕が閉じた。
 「手出して」
 「うん」
 そのままの姿勢でまーくんは僕の薬指に指輪をはめる。クラスメイトからも祝福の声が何度もかかる。更には先生まで泣きながら登場した。
 「てか真人くんと遥輝くんって付き合ってたの?」
 「うん、そうだよ」
 「えー、いつから?」
 「夏祭りからだよね?はるくん」
 「うん」
 「えーマジ?おめ〜」
 「ありがと、相葉さん」
 相葉さんは僕達にグッドポーズをしてスマホを取り出す。
 「二人の写真撮ってあげる、めちゃくちゃ盛れるようにする」
 「マジ?あざす」
 「そんなことまでいいの?」
 「いいのいいの、友達でしょ」
 そしてそのまま相葉さんの合図で僕達はポーズをとる。
 横からなにか視線を感じてそっちを向くと暗い顔の狸塚さんが見つめていた。
 「ど、どうしたの」
 「いや………おめでたいんだけどさ、なんか素直に喜べないっていうか」
 「あれ、るなっちって遥輝くんのことマジで好きだったの?」
 「いや?弟として好きだったよ」
 「弟として?」
 「うん、恋愛対象ではなかった。てかメイク落としたら?せめてウィッグ外さないとはるぴに見えない」
 確かにそれもそうだと僕はウィッグを外しメイクを落とした。
 「じゃあとっとと着替えるか、じゃあね〜」
 そしてまーくんは僕をひょいっと抱き上げ更衣室へとお姫様抱っこしたまま向かった。

 更衣室に着くまでに色んな人からめちゃくちゃ視線を感じた。
 視線以外にも「あの白雪姫って男だったの?」とか「あの二人いいわね」という言葉も聞こえてなんか恥ずかしかった。
 「じゃあ着替えよ、俺の制服貸してあげるからこれ着て」
 「ありがと、じゃあ遠慮なく」
 僕は念の為まーくんを更衣室の外へと出して急いで着替えた。
 でもやっぱりブカブカでだらしない感じがする。
 着替え終わったので外へと出ると見覚えのある姿を見た。
 「よっ、遥輝くん!おひさ〜」
 「あ、裕真さん」
 「お兄ちゃんって呼んでくれていいんだぞ新たな弟よ」
 弟と言われ思い出したがまーくんと結婚すると裕真さんと義理の兄弟になるのか。
 まーくんのほうをみるとすごい嫌そうだ。
 「こいつのこと兄貴とか思わなくていいぞ、ろくでもねーやつだから」
 「何言ってんだよ〜、俺東大通ってんだぜ〜?」
 「東洋大学だろ、変な略し方すんな」
 「A判定で合格なんだぞ」
 「いや、出願ギリギリだったろ。まともなやつはもっと早く終わらせてんだよ」
 これは兄弟喧嘩………僕の家では絶対ありえない光景だな。いやでもそういえばまーくんにとっては優唯が義理の弟になるのか………ということはありえるな。
 「遥輝くん、真人はこんなやつだけどしあわせになれよ」
 「お前よりまともだからな俺」
 「えーでもお前遥輝くん引っ越してからずっと遥輝くんのこと考えてたせいで中学の頃ずっと授業態度が〜って怒られてたじゃん」
 「それは違う」
 「小学校の頃もか」
 「それは………」
 裕真さんのその言葉にまーくんは黙り込んでしまった。僕はそんなまーくんを見てクスッと笑ってしまった。
 「僕もずっとまーくんのこと引きずってたけどまーくんがくれたリボンのおかげで寂しくなかったよ」
 「そう言ってくれたら嬉しい、こんなのと縁切っていいから俺とは来世でも一緒ね」
 「こんなのって酷いぞ、実の弟」
 「はるくんの家にも今度ご挨拶行くね」
 「うん、その時は泊まってってよ」
 「もちろん、優唯くんがいいなら」
 そういえば確かに優唯はまーくんが苦手?なんだった………まあけどその時はその時だ。
 「えっ、俺無視?」
 「なんなら僕がまーくんの家行こうか?お兄ちゃんもいい?」
 「!?」
 僕が裕真さんのことをお兄ちゃんと言うとまーくんはやめとけと言わんばかりの目で見てきた。
 「俺はいいよ、真人もそのほうがいいだろ」
 「じゃあ今度泊まりに行くね」
 「いかがわしいことだけはしないでね」
 「「それはしない」」
 僕は薬指につけられた指輪を眺めもう絶対に離さないと心に誓ったのであった。

 ちなみに優唯はお母さんもお父さんも忙しくて来れなかったから保育園に預けられており、家で今日のことを話すと不貞腐れてしまったんだとさ。
そして劇は最優秀賞………には選ばれず惜しくも焼肉は逃してしまった。