お守りリボン

 修学旅行も終わり夏休みに入った。
 今日はせっかく天気がいいので優唯と公園へ遊びに行くことにした。
 「にーちゃ、だっこ」
 「ん?ああいいよ」
 優唯は相変わらず僕にべったりだ。甘やかしすぎても良くないことはわかってるけど齢三つの子供なんだから怪我をされても困るし危険な目に合わせたくない。
 近所の人からも温かい目で見つめられてちょっと恥ずかしい。
 「にーちゃ、う!」
 「ん?どうかした?」
 優唯が指をさす方を見るとなにかの張り紙がされてあった。
 「えーっと?夏祭り開催のお知らせ………」
 どうやら近所の神社でお祭りをするらしい。夜には花火も上がるそうだ。
 (夏祭りかぁ………懐かしいな)
 昔小学生の頃もまーくんとよく出店のくじ引きとか引いてたっけ。
 おもちゃの銃がいっぱい手に入ったのを覚えてる。
 「たこちゃ!」
 優唯は下の方に描かれているたこ焼きの屋台のイラストが気に入ったようでキラキラした目で見つめている。
 「これ明日なのか、一緒に行くか?優唯」
 「う!」
 優唯は元気よく頷くが壁際で読んでたせいで塀に頭をぶつけてしまった。
 「よしよし、大丈夫?痛くないか?」
 「う………」
 優唯はめちゃくちゃ目をうるうるさせながら俺にしがみつく。余程痛かったんだろうな…………
 「ごめんね、兄ちゃんのせいで」
 「そんなとこで何してんの?」
 突然後ろから声がかかり振り返るとそこには部活終わりだと思われる梶くんが立っていた。
 「あ、えっと………邪魔だったよね、ごめん」
 「んーん、邪魔じゃないよ?てかその子が弟くんか」
 「え?あ、うん」
 「よっ、確か優唯だっけ」
 梶くんが優しく手を振るとさっきまで泣きそうだった優唯が段々と笑顔になっていった。
 「え、すご僕以外に全然懐かないのに」
 「………猫か何かなの?お前の弟」
 猫だと言われ確かに気まぐれなところもあるなとなんとも言えずただ苦笑いだけを返してしまった。
 「ん、夏祭りあんのか!行くの?」
 「うん、優唯と一緒に行こうってさっき」
 「じゃあ真人とも一緒に回ったら?」
 「え、でもまーくん忙しいかもだし…………」
 嫌われてないとはいえただの幼馴染である僕が声をかけたって迷惑かもしれない、嫌われるのは嫌だ。と目で訴えてみたけど…………伝わったのかな。
 「お前の誘いならあいつ死んでも行くと思うよ」
 「えっ、死んでも?そこまではないんじゃない?」
 「それ以上あるよ、俺は玲央(れお)と行くけど」
 「玲央?うちにそんな人いたっけ…………」
 「俺らの先輩、修学旅行の時も言ったでしょ?俺彼氏いるって」
 「………え、まさか彼氏って」
 「そう、玲央」
 そう言って梶くんはスマホを取り出して一枚の写真を見せてきた。
 「この人が玲央さん?」
 「そう」
 「めっちゃヤンキーじゃん」
 写真に写った玲央さんは派手な金髪に頬には絆創膏が貼られていた。
 「ヤンキー受けっていいよな」
 「え?」
 「みみ、きらきら」
 優唯は僕達の会話には興味がなかったようで写真に釘付けでそこに写った玲央さんの耳を指さす。確かにピアスがジャラジャラついてる。うちの学校ピアス禁止のはず………というかこんな先輩いたかな?
 「うちの学校ピアスダメじゃなかったっけ………」
 「ん?ああ、この人もう大学生だよ。去年まではうちの学校で頭張ってた」
 頭を張るってことはトップってコト…?!
 うちの学校そんな制度あったのか。
 「去年の夏祭りでカツアゲされてたら玲央と会って助けてもらったんだ」
 「意外、梶くんがカツアゲされるなんて」
 「去年の俺チビだったしな」
 「そうなの?」
 「おん、今178で去年170だな」
 (それでチビなのか………)
 167センチで止まった僕は一体…………
 「真人とか180あるだろあいついれば守ってくれると思うし一緒に行って損は無いと思うよ」
 「身長の問題なの?」
 「そうじゃね?知らんけど」
 「ゆい、おまちゅり、いきたい」
 「んーそうだな、明日らしいから兄ちゃんと行こうか。じゃあまたね梶くん」
 「おう、俺のこともゆーくんとか呼んでいいよ」
 「それは………恐れ多い」
 「なんだそれ」
 そうして梶くんと別れ優唯を抱えたまま家へと帰るのであった。

 「ねぇお母さん、明日優唯連れてお祭り行っていい?」
 「あらいいじゃない、他に誰か誘ってるの?」
 「あー……えっと…………」
 まーくんどうしようか。優唯はまーくんのこと警戒?してそうだし………でも確かに僕だけじゃ絶対カツアゲとかされるし梶くんを誘うのも悪いし…………誘うだけ誘ってみよう。
 「まーくん誘ってみようかなって」
 「あら真人くんも誘うの?なら心配いらないわね!ほらこれお小遣い。三人で使ってね」
 そう言ってお母さんは財布から千円札を五枚取り出して僕に渡してきた。
 「えっ、でも…………」
 「あら?五千円札の方がいい?千円札五枚の方が使いやすいでしょ?」
 「いやそうじゃなくて…………」
 「後は自分のお小遣いから出してね、流石にそれ以上は無理よ」
 まだまーくんが一緒に来ると決まった訳ではないのに…………誘うしかなくなっちゃった。
 ご飯も食べ終え後はもう寝るだけだ。
 「にーちゃ、こえよんで」
 「いいよ、ちょっと待ってな」
 僕はスマホを取りだしLIMEを開く。
 (どういう文章にしたらいいんだろう)
 幼馴染なのに敬語使ってもよそよそしいだろうし『お祭り行かない?』は短すぎるかな…………『明日暇?』とか?でも暇じゃない時が気まずいし…………それにまーくんのことだからもう他の誰かと一緒に?それもありうる。
 僕がどう送ればいいか文字を打っては消し打っては消しを繰り返しているとまーくんの方からメッセージが来た。
 「明日の四時、お祭りいこ」
 秒で既読を付けてしまったから返信も秒にしないと。
 そう思い「いいよ」と文字を打って送信したつもりが誤ってスタンプで送信してしまい、優唯が好きな戦隊ヒーローの「OK」と書かれた公式スタンプで送ってしまった。
 「ごめん、間違えて変なとこ押しちゃった」
 「優唯も一緒でいい?」
 急いでそう返したが既読がついたきり返信が来ない。
 スタンプじゃダメだったかな…………
 半ば諦めモードで優唯に絵本を読んで寝かしつけたら急にLIMEの通知が鳴った。
 「いいよ」
 「今から電話できる?」
 よかった、とりあえず一緒に行ける。
 僕はそれに二つ返事でOKして優唯がちゃんと寝たのを確認し、ベランダに出た。
 「あ、はるくん?」
 「うん、どうかした?」
 「いやーちょっと声聞きたくて」
 まーくんのその綻んだような声を聞いて僕も自然と笑みが溢れる。
 「ふふっ、僕もまーくんの声聞けて嬉しい」
 「………ありがと」
 「僕もちょうどまーくん誘おうとしててさ、どう誘おうか迷ってたから」
 「じゃあタイミングばっちしだったってことか」
 「うん、懐かしいね。覚えてる?昔も二人で行ったの」
 「ああうん、あの時のはるくんたこ焼き熱くてタコみたいになってたよね」
 「それはまーくんもでしょ」
 僕達がそうして昔話で盛り上がっていると空に流れ星が流れ出した。
 「あ、流れ星」
 「はるくん今外?」
 「うん、ベランダだよ。優唯起こしちゃ悪いし」
 「じゃあちょっと待ってて俺もそっち行く」
 (そっち行く………?)
 スマホからは何かガサガサと物音がしたが何をしてるんだろう。
 とりあえず空を見上げながら待っていると隣からガラガラと窓を開ける音がした。
 「やっほー」
 仕切り越しに聞きなれた声が聞こえてくる。
 「えっ、まーくん!?」
 「来ちゃった」
 まさかそっち行くってベランダに出るってことだとは思わなかった。そういえば隣に引っ越してきたんだっけ………
 「しー、優唯くん起きちゃうでしょ」
 「あ、そうだねごめん」
 まーくんにそう言われ声を抑えながら優唯の方を見るが幸いなことにぐっすり眠っている。
 「それで明日の祭りなんだけどさ、家も隣だし一緒に行こ」
 「うんいいよ。あ、てかもう電話切っちゃう?通話料とかもあるし」
 「あはは、そうする?仕切り越しでいいならいいよ」
 「まーくんが電話がいいなら電話のままでも………」
 「じゃあこのまま電話で、部屋戻っても話せるし」
 「それもそうだね」
 まーくんの要望でそのまま通話を繋げていると空にまた流れ星が降った。
 「また流れ星だ」
 「お願いしなきゃね」
 次の流れ星はまだかとまーくんそっちのけで空を見上げる。
 「にしても流れ星、懐かしいね。昔俺らでお祭り行った前の日も流れ星降ってたよね」
 「あれ、そうだっけ?」
 「そうそう、あの時二人でめちゃくちゃお願いしてたよね」
 そう言われると確かに必死にお願いしてた記憶がなくもない気がする。
 けどなんてお願いしてたか覚えてないな。
 「まーくんはなんてお願いしてたの?」
 「えー………秘密」
 「いいじゃん教えてよ」
 「あ、流れ星」
 なんだか話を逸らされた気がするけど気にしないでおこう。いや、それよりも流れ星に夢中になっていたのかもしれない。
 (まーくんとこらからもずっと一緒にいられますように)
 「なんてお願いした?」
 「まーくんが教えてくれたら教えるよ」
 「んー………じゃあいいや、多分………だし」
 「え?なんて?」
 眠気のせいか外にいるせいかわからないがまーくんの声が聞き取れなかった。多分の後なんて言ったんだろうか…………
 「いや、なんでも。俺眠くなってきちゃったから寝るね、おやすみ」
 「うん、僕も眠いと思うからおやすみ」
 「と思うってなんだよ」
 「さあ?」
 「明日楽しみにしてるね、バイバイ」
 「うんまたね」
 そう伝え僕は通話終了のボタンを押しベッドへと戻って行った。

 翌日
 「まだ着れそうね〜、よかったじゃない」
 「にーちゃ、かっこいい」
 中二の頃に着ていた浴衣があったので着てみたが案外ピッタリだった。普通は小さくなってるはずなんだけどな………
 「ありがと。優唯も甚平似合ってるぞ」
 「へへ、にーちゃとゆいおそろい?」
 「んー……ちょっと違うけどまぁおそろいだな」
 「う!」
 ちょうど今から出ようというところでインターホンが鳴る。
 「お待たせ、まーくん」
 「やっほーはるくん。浴衣似合ってるよ、かわいい」
 「かわっ………!?」
 「それより早く行こ、混んじゃうから」
 そう言ってまーくんは僕の手を引く。優唯はそれを引き剥がそうとしているのか浴衣の裾を引っ張ってくる。
 「優唯、脱げちゃうからやめて」
 「ぶー」
 「………ごめんね、優唯が」
 「いいよ全然。俺気にしてない」
 優唯がいじけて座り込んでしまったので急いで抱き抱える。
 「よしよし、兄ちゃんが抱っこしてくから機嫌直して」
 「…………」
 そんなに嫌いなのか、まーくんのこと…………

 そして優唯を抱えたまま特に会話もせず神社へ着いてしまった。
 (優唯が悪い訳じゃないけどもうちょっと話したかった気も………)
 ただやっぱり優唯はまーくんをめちゃくちゃ警戒してるから仕方ないか。
 「にーちゃ、こえやりたい」
 「ん?どれだ…………」
 優唯が指さす方を見るとショーケースの中に仮面ヒーローのおもちゃやゲーム機が入った紐のクジだった。
 「あんちゃん達やってくか?一回五百円だよ!」
 「………高いからやめとこうな」
 「そだな、やめとけ」
 (絶対いい景品に繋がってない…………)
 おもちゃの剣や銃が繋がってるだけだろうな、ゲーム機とか仮面ヒーローのおもちゃなんて絶対見せかけだ。
 「なんで」
 「それは…………」
 「あんなのゴミしか入ってねえよ、ダッセェおもちゃの剣とかその辺しかないだろ」
 (まーくんズバッと言うな…………)
 僕もハッキリ言えたら…………告白だって成功してたかもなのに……………
 「とにかく、あのくじ引きはやめとこうな」
 「うぅ…………」
 僕が断ると優唯は目をウルウルさせ出した。ここで泣かれると周りに迷惑だ、ここは仕方ない……………
 「んー………じゃあ一回だけな?本当に一回だけだからな?絶対だぞ」
 僕がそう言った途端優唯は目を輝かせてなんの躊躇(ためら)いもなく一本の紐を引っ張り出した。
 「あ、待てよ。まだお金払ってないから…………」
 僕が慌てて財布を取り出すと屋台のおじさんがカランカランとベルを鳴らしだした。
 「大当たり〜!ウォークマンだよ!」
 「えっ、当たるの?」
 「ウォークマンとか古っ、いつのだよ」
 「にーちゃ!」
 そして優唯はウォークマンを手にこちらへ駆け寄ってくる。
 「よかったな、当たって」
 「それ4Gしか入んねえぞ」
 「すぐ容量パンパンになるだろうな…………」
 「うぉーくまんってなに」
 「音楽聴くやつだな、とりあえずお金払ってくるよ」
 僕は仕方なく屋台へ行きおじさんにお金を渡してすぐまーくん達の元へと戻った。
 というか香具師(やし)さんって当たり入れてくれることあるんだ。さっきのウォークマンを調べてみると二千円くらいで売っていたから千円以上はお得に買えた。性能は知らないしスマホで済むから要らないけど…………
 「おーい、遥輝!」
 僕がウォークマンをどうしようかと悩みながらたこ焼きを食べていると突然遠くから僕を呼ぶ声がした。
 「梶くん?と玲央さん?」
 「そう、紹介する。こいつが話してた遥輝ね、隣にいるのが真人で、弟くんも来てたんだ」
 「うん、優唯も行きたそうだったし」
 「ふーん………」
 梶くんは僕が好きそうだということであんず飴を渡してくれた。
 礼を言うと隣にいた玲央さんがスマホから顔を上げてまーくんを指さしながら僕に目を向けた。
 「お前ほんとはそいつと二人がよかったろ」
 「えっ!?」
 「ちょ、玲央流石にノンデリすぎ」
 割と図星だったので僕はめっちゃ焦った。こんなの二人に聞かれたら色々まずい。
 幸い二人には周りの音で聞こえていなかったようで安心したが焦りようからまーくんがなにか察したのか僕の前に出てきた。
 「おい、あんた誰だよ」
 「ゆうの彼氏だけど?」
 「よっ、真人」
 「………お前いたんだ」
 「え、酷くね」
 どうやら梶くんがいた事すら知らなかったようで玲央さんへの警戒がほんのちょっとだけ緩んだ気がする。
 けれどやはり完全に解けてる訳じゃないのでボディガードのように腕まで横に伸ばす。
 「まぁそんな警戒すんなよ。お前にとってもいい話だ」
 「何?」
 「そりゃ…………」
 玲央さんがなにかまーくんに話しているのが見えたが肝心の内容が聞き取れなかった。
 何か変なことを話していなければいいんだけど…………
 「………はるくん、ちょっと話したいことあるからさ、優唯くん梶に預けてもいい?」
 「え?うん?」
 「場所移そ」
 そのまま僕はまーくんに手を引かれて長い階段を登って御堂の前まで来てしまった。
 御堂の前は屋台に夢中な人や河原へ移動するが多いからか僕達以外の人はほとんどいない。
 「どうしたの?話って」
 「………二人で一緒に花火見よ」
 「うん、いいよ」
 「ありがと」
 そう言ったまーくんはなんだかちょっと思い詰めたような表情をしていた。
 僕が声をかけた方がいいだろうか、と悩んでいる間に一発目の花火が打ち上がった。
 「綺麗だね、まーくん」
 「………そうだな」
 その花火に続くように次々と花火は打ち上がる。
 大きな花火から小さい花火、柳型の花火、更には七色に光る群光や冠菊ではパチパチと音を立てる先割がとても綺麗でみんなで来ていたことも忘れ、魅入ってしまっていた。
 「ねぇはるくん、この前話せなかったことなんだけどさ」
 「うん?この前?」
 「修学旅行の時………まぁ今から話すね」
 そしてまーくんはそのまま僕の方を見て話し出した。
 「昔さ、はるくんが俺にプロポーズしてくれたことあったじゃん」
 「…………え?プロポーズ?」
 そんなことあったかと一生懸命記憶を辿る。いつ言ったんだっけ…………
 「卒園式の日にさ、ずっと一緒にいれますようにって折り紙で作った指輪渡してくれたじゃん」
 「えっ…………あ」
 思い出した。確かにそんなことがあった。
 ただ今思い出すと恥ずかしい、昔の僕を引っぱたきたい…………
 「あの時の約束さ、結局小学校の頃転校しちゃって果たせなかったじゃん」
 「うん…………うん?」
 果たせなかった?まるで結婚したいみたいな…………
 「だからさ、その約束今叶えたい」
 そう言ったまーくんは僕の両手を優しく握り少し息を整えて口を開いた。
 「好きだよ、はるくん。俺と結婚してください」
 「……………へ?けっ………こん?」
 あまりに突然だったため処理が追いつかなかった。しっかり理解できたのは花火が一旦落ち着いてからだった。
 「え!?でも………早すぎるんじゃ?」
 「じゃあ付き合お、一生幸せにしてあげる」
 その時のまーくんの笑顔は花火よりも綺麗で明るかった。まるで僕の心の闇を全て祓うかのように。
 それに答えるように僕はまーくんの手を握り返す。
 「………うん、いいよ。でももう死ぬほど幸せだから僕からまーくんを幸せにしたいな」
 「ほんと?じゃあ一つお願いしていい?」
 「もちろん」
 そう答えるとまーくんは僕の手を離したかと思えば僕の方へと手を伸ばし抱きしめてきた。
 「!?」
 「花火終わるまでこうさせて」
 まーくんの声は凄く嬉しそうでどこか安心したような雰囲気があった。
 僕は黙って頷き、まーくんをやんわりと抱きしめ返す。
 そして花火は長い間僕達を照らすかのように夜空に光り輝いた。
 昨日の流れ星の願いもきっと叶うことになるだろう。少なくとも僕から離れることは絶対にない。
 そしてクライマックスの今までで一番大きい花火が打ち上がり花火は幕を閉じた。
 (………これでこの時間も終わりか)
 長いようで短かったな。
 僕は仕方なく離れようとするがなかなか解けない。まーくんの顔を見上げると目が合ってしまった。
 「どうかした?」
 「え、は……花火終わったら離れるんじゃ」
 「………はるくんは離れたい?」
 「それは………その……………」
 そういう訳ではないけれど優唯や梶くん達も待たせている、二人で来ているならこのままでよかったが待たせている人がいるとなると話は別だ。
 「………離れたくないけど優唯とか梶くんも待ってるから」
 「それもそっか、じゃあ最後に」
 まーくんは見上げたままの僕の前髪を持ち上げ額に唇を落とした。
 「なっ………!?」
 「ははっ、口がよかった?」
 まーくんはそう言って僕の唇に指を当てる。
 僕の顔はみるみる赤くなっていって戻るにも戻れない状態になっていた。
 「…………ん」
 「ん?」
 「………してくれないの」
 僕は目を瞑りまーくんの方に口を差し出す。
 「はるくんのえっち」
 「えっちじゃない…………」
 まーくんは「どうしようかな」と僕を焦らしてくる。
 この体制をずっとキープは色々キツイ。まーくんの方が背も高いから見上げる形になっていて首も痛い。
 僕は待ちきれなくなりつい背伸びをしてこちらからまーくんの唇にキスをした。
 ちょんと当たっただけだけど。
 「遅いから…………えっと、その………仕返し?」
 仕返しってなんだ。パッと思いついた言葉だと思うが仕返しではないだろ。
 「かわいいね、はるくん」
 まーくんは僕の顎を上げキスを返してきた。
 「えっ」
 「仕返し」
 「なっ………」
 「戻ろっか」
 「…………うん」
 僕達は自然と手を繋ぎあい優唯達の元へと戻って行った。

 「ただいま…………って………え?」
 戻ると真っ先に目に入ってきたのはあの優唯が玲央さんに抱っこされて眠っていたのだ。
 「ん?おー、おかえり!その様子じゃ上手く行ったんだな」
 「えっ…………まぁうん、誰にも言わないでね?」
 「えーまぁ言わんけど、言っといたら恋敵いなくなんじゃねえの」
 「いやぁ…………まーくんの相手が男だなんて知られたら逆に刺されるよ」
 「確かに」
 僕と梶くんが話しているのが聞こえたのか玲央さんはゆっくりとこちらへ近づいてきた。
 「ほら、こいつお前の弟だろ?返すよ」
 「あ、ありがとうございます」
 「そんで?お前随分と嬉しそうじゃん、よかったな振られなくて」
 「うるせぇよ」
 相変わらずだなぁ、でも最初の時よりかはだいぶ二人も距離は縮まったかな?
 「元々は遥輝の方から告るつもりだったけどね」
 「えっそれは………」
 「マジ?」
 まーくんはそれを聞くと驚いた顔で僕を見つめる。
 「…………マジ」
 「修学旅行の時二人きりにさせたけど俊哉に邪魔されたからな」
 「あの時か………俊哉許さねぇ」
 なんだか俊哉くんへの明らかな殺意が湧いてるような気がするけど気のせいだろうか。
 「それよりこいつどうすんの、寝ちゃったけど」
 「僕が連れて帰りますよ」
 そう言った時だった。
 「私が預かるわよ」
 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くとお父さんと声の主であるお母さんが立っていた。
 「え、お母さん?それにお父さんまで」
 「ふふっ、まぁもうどこの屋台も閉めちゃったけど今日は二人で帰ってきていいわよ。優唯は任せて遥輝」
 そう言ってお母さんは玲央さんから優唯を預かり代わりに抱っこをした。多分あのことはバレているのであろう。
 「お父さん、お久しぶりです」
 「ん?おお!真人か!元気にしてたか?遥輝迷惑かけてない?」
 「いえ、なんなら俺が迷惑かけちゃうかもですし」
 「そうか?それならよかった!遥輝と仲良くしてやってくれ!」
 お父さんはガハハと笑いまーくんの背中を軽く叩く。僕は意を決して口を開いた。
 「あのさお父さん、話したいことが………」
 「ん?なんだ?」
 「…………僕達付き合うことになった」
 叱られるかもと少し身構える。少しの沈黙の後お父さんからは思いもよらない言葉が出てきた。
 「………いや、早いな」
 「え?でも二年になってからまーくん転校してきたんだよ?家も隣だし」
 「え?家隣なのか」
 そこすら知らなかったようだ。まぁお父さんは社畜か?と疑いたくなるほど仕事熱心で人もよく残業も肩代わりしてあげることが多いから家に戻って来るのが遅くなることばかりだし知らなくても当然かも?
 「………まぁ真人、遥輝を守ってやれよ」
 「え、怒らないの?」
 男である僕が男のまーくんと付き合うなんて許されないと思っていたが随分あっさりと認めてくれた。
 「なんで怒るんだ?別に誰が好きでもいいだろう?それに真人が遥輝の恋人ならどこの誰よりも安心だよ。幸せにな」
 「………子供産めないから孫の顔も見れないよ?いいの?」
 「別に孫いなくたってお前が幸せでいてくれれば俺らは幸せだぞ?」
 「そうよ遥輝。私も応援してるわ」
 ああ、なんて幸せな世界に生まれてきたのだろうか。
 親にも恵まれて、かわいい弟もいて、かっこいい恋人もできた。
 根暗で陰キャで目立ちたがらない僕をここまで幸せにしてくれたのは間違いなく、まーくんだ。
 いや、お母さんやお父さん、優唯や梶くんに狸塚さん、相葉さん達だって僕を幸せな世界につれて来てくれたんだ。誰か一人でも欠けていたら僕は恐らく、真っ暗な世界に閉じこもっていただろう。
 僕はそれに安心したのか自然と涙が出てきた。
 そして僕をまーくんはただ優しく抱きしめて落ち着くまで離さないでいてくれた。

 そして帰り道。まーくんと僕はお母さん達のちょっと後ろを二人で手を繋いで歩いていた。
 「そういえばさ、はるくんカバンに猫のぬいぐるみつけてるじゃん?」
 「うん、つけてるよ」
 「あれに巻かれてるリボンって俺があげたやつだよね」
 「………覚えててくれたんだ」
 「もちろん、最初に見た時から気づいてたよ」
 僕はふとその時に教えててくれればよかったのだろうか?と考えた。けれどそれだったらまた未来は変わったんじゃないか。キリがないな、こんなこと考えない方がいいや。
 「実はあれね、プレゼント用意するの忘れててラッピングに使おうと買ってたリボンを適当に理由つけてあげてたんだ」
 「え?初耳」
 衝撃のカミングアウトに少しびっくりしたがそれでも、嬉しいことには変わりない。
 「まぁでも大事に使ってくれてて嬉しい」
 「僕も、適当な理由だとしても。どれだけ離れていても繋いでてくれるって言葉信じてたから。それも叶ったし」
 僕は握っていた手を離さないようにと繋ぎ方を変えた。前、狸塚さんが言っていた恋人繋ぎとやらに。
 「俺の家泊まる?」
 「それは…………また今度。今日泊まったら恥ずかしさで死ぬ」
 「俺も死ぬかも、また今度ね。覚えといて」
 できるのならばこの手は永遠に離したくない。離れないでいてほしい。ずっと繋いでいてくれ。
 そう青いリボンに願うのであった。