修学旅行も近づいてきた6月。
うちの学校では早めの時期に修学旅行があるからまーくんが転校してきてまだ2ヶ月も経っていない。
グループ決めで盛り上がるクラス……の中で僕は一人で机に突っ伏す。
僕なんかと一緒に回りたい人なんていないだろうし余ったところに入れてもらおう……
「やっほ、はるくん」
「………ん」
顔を上げるとそこには俺を見つめるまーくんが立っていた。
「グループ決まった?」
「……まだだけど」
まーくんは転校してきたばかりだけどもう一軍に入れるくらい人気だしきっともうグループは決まってるだろうな……
「よかった〜!じゃあ俺のグループに入ってよ!」
「………え?」
まーくんからは想像していたものとは違った言葉が出てきた。
「でも……僕なんか入っても……」
「この前のカラオケのメンツだし、みんなはるくんも入って欲しい〜って言ってるよ」
「そうなの?」
チラッとまーくんの後ろを見るとこの前の陽キャ達が笑顔で手を振ってきた。どう反応したらいいかわからなかったからとりあえずちっちゃく手を振り返した。
「えー!マジでかわいい!!」
「はるぴもおいでよ〜!」
(は、はるぴ……)
もうあだ名つけられちゃった……まだ1回くらいしか話してないのに……
「ほら、狸塚達も呼んでるよ」
「………」
僕は慌ててまた顔を机に伏す。
まーくんは僕の顔を覗き込もうとしゃがみこむ。
「俺らじゃ嫌だった?」
「……その………違くて……う、嬉しくて………小中でも誘われたことなかったから………」
「……ずるいな」
「え?」
「いや、なんでもない。オッケーってことでいい?」
「うん」
「じゃあ狸塚達にも言っとくね」
「うん」
僕は顔を伏せたまま一人、楽しみにしながらどんなことをしようかと妄想している。
(あ、でも優唯大丈夫かな……)
この学校、修学旅行は四泊五日とちょっと長い。
五日目には帰れるとして、四日間も会えないとなると多分身体中の水分が無くなるまで泣き出しそうだ。
スマホの持ち込みはOKだからビデオ通話とかするか?でもみんなに迷惑かもしれない……というか都合が合わない場合だってある。
でも籬先生ならなんとか許してくれるかな………
籬先生も小さい子供がいるからきっと大丈夫。最悪早退でもしたらいいし………流石にブラコンすぎかな………
「はるぴよろ〜!」
「あ、えっと……」
「ウチ狸塚光希ね」
「私は相葉瑠奈」
「俺梶勇輝〜」
「えっ、あの……エレ〇とかの?」
「ただの同姓同名だよ、修学旅行に心臓は捧げないかな〜」
「ご、ごめん」
「謝んなくていいよ〜ウチらも最初思ったし〜」
「なんならコイツノリいいからエレ〇の真似して〜とか言ったらしてくれるよ」
「お前は間違ってない、やりたきゃやれ」
「ってそれリヴ◯イじゃ〜ん」
みんな思ってたよりずっと優しいんだな、最初こそは警戒してたけどなんだか自然と馴染めてきた……かも?
だからといって陽キャにはまだ程遠すぎるが……
「おまたせ〜、何話してんの?」
「遅かったじゃん、今はるぴのために色々自己紹介とかしてあげてたの〜真人もしたら?」
「えっ、俺も?」
「ウチらも知りたいしいいでしょ?」
まーくんは少し考えながら「まぁいっか」と手に持っていた修学旅行関係らしきプリントを置いて、席に座った。
「名前は知ってるだろうから省くけど他何いえばいいのかわかんねぇ」
「はーいじゃあ好きな食べ物なんですかー」
「小学生かよ」
梶くんがそう言うと狸塚さんは「仕方ないじゃん」と梶くんの背中を軽く叩いた。
「んー、オムライス?」
オムライス……確かによくまーくん家で食べてたな……なんて、そんな昔話僕が覚えててもまーくんは覚えてないだろうな
「オムライス好きとかかわいい〜!」
「オムライスってかわいいの?」
「さ、さぁ?僕に聞かれても………」
かわいいかかっこいいかで聞かれればかわいい方に入るんだろうけど女子たちのかわいいの基準がわからない……僕にだってかわいいって言ってくるし………
「みんなは何好きなん?」
「ウチはピザ〜」
「私ドーナツ!」
「俺肉〜」
みんながどんどん話していき、残った僕にみんなの視線が来る。
「はるぴは〜?」
「教えて教えて〜」
「え、えーっと……」
すぐ答えたくはあるがこんなに注目されるとなんか……恥ずかしい……
「はるぴ顔赤いじゃ〜ん、かわいい〜」
狸塚さんはそう言って僕の頭をわしゃわしゃと撫でだした。
「私も撫でていい?」
「う、うん……?」
僕がそう答えると相葉さんは嬉しそうに僕の頭を狸塚さんみたいにわしゃわしゃと撫でた。
「なんかはるぴくん見てると俺の弟みたい」
梶くんも便乗したのかポンポンと撫でてきた。
「ウチもはるぴみたいな弟欲しい〜」
「わかる〜」
僕の頭を撫でると運気でも上がるのかってくらいみんなが撫でるから気づけば僕の頭はボサボサになっていた。
「その辺にしとけよ〜、はるくん髪ボサボサじゃん」
「あ、ごめんね〜」
「ついやりすぎちゃった、マジごめん」
「俺も……」
「い、いや大丈夫……です……」
僕が自分で髪をほぐそうと手を使っているとまた頭を撫でてくる感覚が乗っかった。
「俺にもさせてよ、なでなで」
「っ………!」
見るとまーくんが僕の頭に手を置いて優しく撫でていた。心臓の音が頭からも伝わるんじゃないかというくらいうるさくてなんだかいたたまれない………
「よし、綺麗になった」
「……あ、ありがと………」
どうやら撫でているついでに髪も直してくれたみたい。
「それよりOKもらってきたから駄弁ってていいよ〜ってさ」
「じゃあさ、今日放課後ゲーセン行こ!」
「いいね〜行こ行こ!」
ゲームセンターか……ぬいぐるみ欲しくて4000円無駄にした記憶が……
「はるぴも行こーよ!」
「いいの…?俺ゲーム苦手だし……」
「いいの!ウチらもう友達じゃん!」
(友達……そっか……狸塚さん達も友達って思ってくれてたんだ………)
今まで友達なんてほとんどいなかったから嬉しいな……
「うん、じゃあ行きたい」
「らじゃ!財布持ってんなら直で行くけどどう?」
「大丈夫、ちゃんと持ってる」
「決まりね!じゃ、また放課後〜!」
放課後にゲーセンに行くことを約束したと同時にチャイムが鳴り狸塚さんたちは残念そうに自分の席へと戻って行った。
そして放課後
僕達はゲーセンに遊びに来た。
「何やる〜?」
「私これやりたい」
相葉さんが指さしたのはマスターバニーという最近流行りのウサギのぬいぐるみだった。
「でもクレーンゲームってアーム弱いからマスターバニーなんてもっと弱いでしょ」
「はー?別に欲しいならいいでしょ」
「まぁ俺らはメリカしようぜ」
「お前17になってもゲーセンのメリカしてんのかよ」
「いーだろ、やる分には」
「じゃあ私がクレーンゲームやんのに文句言うなし」
相葉さんと梶くんが喧嘩してるのを横目にある景品に釘付けになっていた。
「はるくんそれ欲しい?」
そう声をかけてきたのはまーくんだった。
「ちびかわじゃん、好きなん?」
「うん、好き」
ちびかわはヒットする前から見ていた作品で泣き虫なところとか昔の僕に似ていてなんだか思い入れがある。
推しはムササビで今丁度見ていたのが大きなムササビのぬいぐるみだった。
「やってみる?」
「うん、頑張る」
まーくんに見守られながら僕は百円を投入する。
レバーを倒しぬいぐるみの方へとアームを動かす。これだけだから意外と簡単かと思いきやそうでもない。
アームの強さもあるが取り出し口に引っかかって取れないなんてこともよくあるからそこも考慮しないといけない。
そして丁度よさそうな所までアームを運べたので僕はパッとボタンを押した。
クレーンゲームから流れる「どうだ〜!」という音声と共に下がるアーム、そしてムササビを掴んだと思いきや上まで持ち上がったところで落ちてしまった。
「あっ……」
でも1回で取れることなんて滅多にない。僕はもう一度百円を投入してレバーに手をかける。
だが、二千円近く投入したが相変わらず途中で落ちてなかなかゲットできない。
「もっかい………」
次で最後にしようと百円を入れる。
レバーに手をかけるとまーくんが僕の手の上に手をかぶせてきた。
「俺も一緒にやっていい?」
「えっ………!?」
まーくんはそのまま否応なしに僕の手ごとレバーを動かす。
(まーくんの手、おっきい……)
昔は同じくらいだったのにな、会ってない間にこんなに成長するなんて……身長の低いままの僕からしたら羨ましい………
なんてボーッとしていたら急に「おめでとーございまーす!」という声がして我に返った。
「どうぞ」
「えっ…あ、ありがとう……」
凄いな……一発で取っちゃうなんて………
「ねね!はるぴ〜!見てこれ〜!」
後ろから声がしてムササビを抱きながら振り向くと大きなチョコ菓子の箱を持った狸塚さんがいた。
「え!それムササビ?かわいい〜!」
「うん、まー……真人くんが取ってくれた」
「いいな〜、ウチもちびかわ好きなんだ!はるぴはムササビ推し?」
「うん、かまちょなとことかさ、かわいいから」
ムササビは口調は荒いが「褒めろ!」とか時折見せるうるうるした目とかめちゃくちゃかわいい。
「わかる〜!『偉いか?』って聞いて『偉いよ〜』って言われたら『キャハハ♡』って喜ぶとことか最高だよね〜!」
「うん!そこいいよね!」
(………あっ)
しまった、つい興奮しておっきい声出しちゃった………
恐る恐る狸塚さんの方を見るがキョトンとした顔で固まっていた。普段喋らないようなやつが大声出したらそりゃあびっくりするよな………
「はるぴってホントかわいいね!」
「………えっ?」
てっきり「うわぁ…………」みたいなリアクションだと思っていたがいつも通り(?)なようでこっちがびっくりした。
「はるぴってなんかウチらのこと怖がってるな〜って思ってたけど意外とそんなことないんだなって」
「え?そんなことないけど………」
まぁでも確かに僕にもこうして接してくれるコミュ力は怖いけど…………
「なぁお前らみんなでプリ撮ろうぜ」
そう声をかけてきたのは梶くんだった。
プリって言ったら………プリクラのことだよな…………
「撮る撮る〜!はるぴも撮ろ〜!」
「え、でも………」
「いいじゃん、撮ろうぜ」
そう言ってまーくんまで僕の手を取る。
プリクラなんて撮ったことないけど大丈夫かな…………
(うっ……狭い)
やっぱり五人もいるとプリクラの機械の中は窮屈かもしれない。
一応五人でも撮れるらしいが………
ここのゲームセンターって大きいプリクラないのかな?それともこのサイズの機械しかないとか………
「俺の方寄っていいよ?」
「え?」
隣で一緒にプリクラを撮っていたまーくんはそう言って僕の方を抱き寄せる。
「じゃ、行くよ〜!」
最近思うのだがまーくんの距離がおかしい気がする。
幼馴染だからならいいのだが僕のこと嫌ってる………んだよな?
でも最近昔みたいに「はるくん」って呼んでくれるし………分からなくなってきた
でも狸塚さんも「はるぴ」って呼んでくれてるしおかしくなかったりするのかな?
そんなことを考えているとまーくんが僕の耳元で囁きだた。
「後でちょっといい?」
「………?うん」
なんだろう?話すことなんて特にないと思うけど………
「ねね、はるぴも落書きする?」
「……え、落書き?」
どうやらプリクラは仕上げに落書きをしてかわいくするのが醍醐味らしい。
「あ、僕はいいよ」
「そう?じゃあウチら落書き終わったし印刷しちゃうね」
「うん」
狸塚さんが画面をいじると取り出し口の方から印刷された写真が出てくる。プリクラなんて初めてだからてっきり画面の上の方からレシートみたいに流れてくるのかと思ったけど外に専用の取り出し口があったんだ………
「じゃあ解散するか〜」
相葉さんがスマホを見ながらそう言い出した。ふと自分もスマホを見ればいつの間にか7時を過ぎていた。
「え〜もう?」
「だって田辺ってこの辺見回ってるんでしょ?見つかったらダルいじゃん」
ここで言う田辺は生徒指導の田辺先生のことだろう。確かにあの人はうちの学校で一番厳しくて遅刻した人には反省文を五枚書かせるとも言われてる。実際被害者がいることも有名で僕も正直反省文を書くのは嫌だ。
「あ〜確かに、田辺ってなんでこの辺来るんだろうね」
「近くのブックオンでエロ本でも見てんじゃね?」
「それだったらウケる!」
「田辺って?」
「あ、そっか真人って転校してきたばっかだから知らないんだっけ」
梶くんはまーくん向けに田辺先生のことを伝えるが「あいつを怒らせたら地獄の果てまで追いかけてくる」とか盛りに盛りまくっていた。
「ふーん……じゃあちゃっちゃと帰るか」
「おう、行こうぜ」
「あー、俺らちょっと用事あるから先帰っていいよ」
まーくんがそう言うと狸塚さんを筆頭に三人がそそくさとゲームセンターを後にした。
「あの……用事って?」
「ん?ああ、プリ撮ろ」
「え?さっき撮ったんじゃ………?」
狸塚さんから貰った写真だってあるしみんな分行き渡ってるんじゃ?
「そうじゃなくて……………二人で撮ろってこと」
「………えっ」
二人でって………そういうことだよね………なんでそんなこと………だって嫌ってるんじゃ………
でも好きなまーくんと二人でプリクラを撮れるのは嬉しいし………ここは気にせず撮っちゃおう
「お願い……します」
僕がそう答えるとまーくんは僕の手を引いて機械の中へと入っていった。
「どうだった?」
「………何が?」
「今日、楽しかった?」
「うん、ぬいぐるみとか色々ありがと……大事にする」
「………そ、よかった」
まーくんからの返事はなんだか素っ気ない………やっぱり嫌われてるのかな…………
「……修学旅行楽しみだね」
「…………え?ああそうだな」
なんとかこの気まずい空間をなんとかしようと話題を振ってみたけどダメみたい………
「……………あのさ、まーくんは……なんで僕にこんなに構ってくれるの?」
「っ………!それは………」
まーくんが何か話し出しそうなところで突然前の方から走ってくる小さな人影が見えた。
「にーちゃ!」
「えっ、優唯?」
優唯はまーくんなどお構い無しに僕の足へ抱きついてくる。奥からはお母さんも歩いてくる。
「も〜、優唯ったら急に走ったら危ないでしょ?お菓子あげないわよ」
「にーちゃおかーり!」
「う、うんただいま?」
「……弟いたんだ?はるくん」
「あ、うん」
「へぇ〜、何歳?」
まーくんはそう言って優唯の目線に合うようにしゃがみこんだ。
優唯は今まーくんがいることに気づいたのか僕の足の裏へと隠れ込む。
「ほら、優唯何歳なんだっけ?」
「……よんしゃい」
そういう優唯の手はピースの形で二歳と言っているようにも見える。
実際は四歳でも二歳でもなく三歳なんだけどな…………
「ほら、帰るよ……ってあら、もしかして真人くん!?」
お母さんも今気づいたようで持っていたエコバッグを落とす。
優唯はバッグの中からブドウのグミを引っ張り出し一緒に食べようと言わんばかりに見せてきた。
「お久しぶりです、大体10年ぶりくらいですかね」
「そうね!いやー、こんな大きくなって〜!」
「…………え?まーくん知ってるの?」
だって………僕のことすら…………
「ん?もちろん、昔よくご馳走になったし」
「え、だって僕のこと……覚えてないんじゃ?」
「そんなことないじゃーん!俺がはるくんのこと忘れるなんて絶対」
その言葉に僕は唖然としてしまった。必死に今までの事何とか処理しようと頭を働かせるが処理しきる前にお母さんが先に話し出した。
「懐かしいわね〜、そうだ!今日良かったら泊まってく?オムライス作ってあげるわよ〜!」
「……えっ、お母さん?」
それには僕も突っ込む。さすがに泊まりは困る、部屋もごちゃごちゃしてるしまだ処理が追いついてない。
「んー、お気持ちだけ受け取っておきます。今日はこの後家でやらなきゃいけないことあるので」
「あら〜………残念ねぇ」
僕は正直ホッとした。でもちょっと寂しい気もしたけど………
「にちゃ!ぶろーのぐみ、いっしょたえよ!」
「あ、こら優唯!勝手に取っちゃダメでしょ!」
「優唯、夜ご飯もまだだろ?ご飯の前に食べちゃったらご飯食べれなくなっちゃうぞ」
そう言って僕が優唯の頭を撫でグミを取り上げるとそれを見ていたまーくんがいきなりフフッと笑いかけてきた。
「かわいいね」
「でしょ?しかも優唯って意外と偉いんだよ、注射でも泣いたことないし好き嫌いも少ないし」
「………そうなんだ、優唯くん偉いな」
(?なんだろう、今の間………何か言いたげだったような)
気にしすぎだろうな、僕だって言葉に詰まることあるしそんなところだろう。
まーくんがお隣ということはまーくんのお母さんが挨拶に来ていたから既に知っていたらしい。
帰り道、お母さんはまーくんとペラペラと昔話なんかをして、まーくんもそれにうんうんと懐かしんでるみたいだった。お母さんと陽キャのコミュ力は凄い。優唯はまーくんを警戒してるみたいだけど………
「そうだ!そういえばあなた達今度修学旅行なのよね!」
「はい、そうですね〜」
「アレあるからちょっとだけうち寄ってかない?」
(アレ………?何かあったっけ?)
アレが何なのか分からないまま家に着いた。そのままお母さんはリビングの引き出しから小さな包装紙に包まれた何かを持ってきた。
「これ、遥輝が修学旅行で買ってきたキーホルダー、真人くんのために〜って自慢してきたのよ〜!」
「え!?」
そんなのまだ持っていたのか………アレというのは小学校の頃に彦根城へ行った時に買ったひいこにゃんのキーホルダーだったようだ。
僕も言われて思い出したくらい前のものだったから無くなってるものかと思ってた。
そんなのもう捨てといてくれよ…………なんか恥ずかしいから…………
「ありがと、はるくん」
「えっ……あ、うん」
「……やっぱり泊まってかない?お隣なんだし!取りに行きたいものあったら行っといで!」
「ちょ、お母さん…………」
「いいですよ、気持ちだけで」
(よかった………)
僕がその言葉にホっとしているとまーくんは僕の方を見てニヤリと笑った。
「お隣なんですからいつでもお泊まりできるでしょう?」
「えっ…………」
「それもそうね!いつでもウェルカムよ!」
そう来たか………お隣ならお泊まりする必要もほぼないんじゃないのか?ベランダ行けばいいだけだし………
「じゃあまたね、はるくん」
「う、うん………ばいばい」
僕は小さく手を振りまーくんを見送った。
「にーちゃ」
「ん?どうした?優唯」
「こえ……」
優唯が差し出してきたのは見覚えのない革の手帳だった。
「ねぇ、これお母さんの?それともお父さん?」
「知らないわよ〜、パパのじゃないと思うし真人くんじゃない?」
まぁ、お母さんも知らないなら多分まーくんのだろう、明日学校で渡そう。
「お隣なんだし届けてあげたら?」
「え」
そうか、隣となるとこういうこともあるんだ。
学校で渡せばいいやと思ったけど隣に住んでいる相手にならお裾分けみたいにすぐ渡しに行けるから時間がかかるとか気にしなくていいのか………
「う?」
とりあえず優唯から手帳を預かろうと下の方を見ると優唯が勝手にまーくんの手帳を開いて一枚の紙のような何かを眺めていた。
「ちょ、優唯ダメだろ」
僕は慌ててその紙と手帳を取り上げた。その時、つい紙のような物が目に入る。それには昔二人で撮った写真が入っていた。
僕は昔写真が嫌いだったからこの時のことはよく覚えてる。
でも、なんでそんな写真を………まぁ狸塚さん達がプリクラを持ち歩くみたいなのと一緒か。
「じゃあ届けてくる」
「はーい」
「にーちゃ……」
「すぐ戻るから大丈夫だぞ、優唯」
僕は優唯の頭を優しく撫でドアを開けた。
(ああは言ったものの…………)
もう外は真っ暗、今はもう夜ご飯の時間だろう。
こんな時間にインターホン押したら迷惑かな………やっぱり学校で渡した方が………
そんなことを考えながらドアの前で突っ立っていると急に鍵が開く音がし、ドアが開いた。
「えっ、はるくん?」
「!?」
インターホンも押してないのに急に開いたからお互い固まってしまった。
二人で見つめあっていると奥から誰かが来る気配がしたと思えばリビングの扉が開いた。
「どしたん真人〜、あれ?その子もしかして遥輝くん?」
「はっ、お前出てくんなよ」
「えーと………?」
確か………あの人は
「裕真さん?」
「そうそう、裕真だよ〜」
まーくんのお兄さんだ、裕真さんはまーくんとは違ってかわいがられてた記憶がある。
童顔で身長も僕と対して変わらない、けど社会人。
「どうしたの〜?」
「………あ、落とし物を………」
そう言って僕は手帳を手渡し家へ戻ろうと後退りしたが…………
「ちょうどいいや、うちでご飯食べていこーよ」
「えっ」
「なんなら泊まってけよ!」
裕真さんはキラキラした目でこちらを見つめてくる。本気で言っているんだろう、どうしようかと困っていると焦るまーくんが間に入ってきた。
「あ、ありがと今日はもう帰りな、優唯くんのとこ行ってあげな」
「あ、おい〜!せっかくお前がだい………」
「し、修学旅行楽しみだな!また学校で会おうぜ!」
そのままドアを閉められ鍵のかかる音がした。
(やっぱり嫌われてるのかな………)
裕真さんも「だい」って言いかけてたし……もしや「大嫌いな奴」だったり…………いや、それはないだろう。そう信じたい。
そして修学旅行当日。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけてね〜」
「……やっぱり行かない方がいいかな」
優唯は多分修学旅行とか分からないと思うけど僕が帰ってこないとなるとギャン泣きするだろうな。籬先生には伝えて特別にビデオ通話ができるよう許可は貰ったけど………
「優唯なら大丈夫よ〜、アンパンウーマンでも見せとくから」
「ほんとに…?」
「大丈夫だって、ほら遅刻しちゃうわよ〜朝早いんだから」
「……うん、じゃあ今度こそ行ってきます」
「はーい」
僕は優唯のことが心配になりながらも何とか家を出た。
「おはよ、はるくん」
「………え?」
ドアを開けるとそこにはキャリーバッグを片手に持ったまーくんが立っていた。
「一緒に行こ」
「う、うん…………」
「持とうか?荷物」
「大丈夫」
「そ、じゃあ早く行こうぜ遅刻しちゃうし」
まーくんはキャリーバッグを引いて先に進んでく。その後ろ姿をただボーッと眺めているとキャリーバッグにはキラリと何かが光った。目を凝らし見てみるとお母さんがあげていたひいこにゃんのキーホルダーだった。
(なんであんなの………)
「遅刻したら置いてかれるよ」
「あ、うん待って」
僕は大きなリュックを背負ってまーくんの後を追う。
「はるぴ〜!こっちこっち!」
学校に着くと早速狸塚さん達が出迎えるようにぴょんぴょん跳ねながら手招きしてくる。
狸塚さんの隣には眠そうな梶くんとメロンパンを頬張りながら手を振る相葉さんがいた。
「はるぴのリュックでけー!」
「それな〜」
「そうかな………」
「写真撮ろ!ウェーイ!」
「う、うぇーい?」
意味はよく分からないが多分いえーいみたいな感じだと思う。
「………ねぇ」
狸塚さん達と写真を撮っていると突然後ろからまーくんが声をかけてきた。
「どうしたの……?」
「…………あのさ」
僕何か変だったかな……それともポーズのレパートリーが少ないから呆れられたとか………
「狸塚さ、近すぎだろ」
「………え」
どうやら僕に対してではなく狸塚さんに対して言っていたみたいだった。
「えー、普通じゃんこれくらい」
「どう考えても普通じゃないだろ、もうちょい離れろ」
「離れたら入んないじゃん」
ぶーぶーと狸塚さんはちょっとした文句みたいなことを言うがまーくんは「ダメなもんはダメ」と狸塚さんから僕を引き剥がす。
「はるくんと撮るなら俺間に入れろ」
「えー、最近はるぴかわいいってフォロワーにも人気なんだよ?」
「知るか、俺も混ざった方が伸びるだろ」
「なにそれー」
「はーい、集合。点呼取りまーす」
いつの間にかもうすぐ出発の時間になっていて先生が生徒たちに呼びかけた。
狸塚さんは残念そうにしながらまーくんに「あんたのせいではるぴと写真全然撮れなかった」と言いながら自分のスマホをいじる。
点呼も終わり、長い話も終わり遂にバスへと乗り込んだ。
「あー、バスの座席どうする?」
「ウチはるぴの隣〜」
梶くんが席をどうするのか聞くと狸塚さんはすぐにそう答えた。
「はるぴもいいよね?」
「えっ?あ、う……」
正直誰でもいいから頷こうとしたがそれはまーくんによって阻まれた。
「俺がはるくんの隣で」
「いやいやウチが!」
「はーいそこ、なんでもいいから早く座って〜バス出発するぞ〜!」
先生にそう言われ二人は静かになったが僕は梶くんに手を引かれ窓側の席に押し込まれた。
そして隣に梶くんが座り二人を睨んだ。
「これで文句ないだろ」
「「大ありだよ!」」
「はーい発車しまーす、座ってくださーい」
狸塚さんもまーくんも梶くんの方を見つめながら渋々席に着いた。
「………お前ってあの二人に好かれすぎだよな」
「え、そんなことないよ。多分………」
少なくともまーくんはちょっと距離がある気がする。
「ふーん、北川はどっちの方が好きなの?」
「えっ……それは………」
「俺にだけ言えばいいよ、誰にも言わんし」
梶くんは嘘をついているようには見えなかった。梶くんになら………と小さい声で耳元で囁いた。
「その……狸塚さんも好きだけど………どっちかと言われたら………まーくん…………」
「それはそういう意味で?狸塚はそういう目では見てないんだろ?」
「…………」
僕は黙って小さく頷く。というかこれって恋バナだよな、普通ホテルでやるんじゃないのか。
「やっぱり」
「し、知ってたの?」
「うん、めちゃくちゃわかりやすい」
まさかバレていたなんて…………穴があったら入りたい…………
「まぁ、応援してるよ」
「え……引かないの?」
男の僕が男のまーくんをそういう意味で好きだって知ったら変だから何か言われたりするのかと思ったが、返ってきた言葉は全く違った。
「俺もゲイだよ」
「えっ」
「ああ、もう彼氏いるから北川に手は出さんよ」
「そうなんだ………」
「二人だけの秘密な」
なんか凄いカミングアウトな気がするけど悪いことは絶対してこなさそうで安心。
「二人で何話してんの?」
「梶も近いから離れろ」
二人でヒソヒソ話していると後ろから狸塚さんとまーくんが顔を出してきた。
「別に?修学旅行楽しみだねーって話してただけ、あと近くねえし嫉妬やめなよ」
「ホントならウチがはるぴの隣だったのにー」
「いや、俺が隣のはずだった」
また言い合いが始まってしまった。梶くんもまるで二人の声を聞きたくないのかイヤホンつけてスマホのゲームをしだすし相葉さんも他の女子と話しててこっちには気づいてないし………僕がなんとかするしかないのか
「じゃあ新幹線なら三人席のはずだし僕が真ん中座れば………」
「「それだ!!」」
二人は息を合わせ声を弾ませた。
納得したのか二人は嬉しそうにしながら席へと座る。梶くんはいつの間にかゲームをやめており、果実グミを食べていた。
「ん、北川も食う?」
「いや、大丈夫」
「そう」
うちの学校は校則が緩いからバスの中でも基本自由だ。騒ぎすぎないならいつお菓子を食べてもいいしゲームやトランプなんかもしている人が多い。
僕も目的地に着くまでお菓子食べてよう。
そしてちょうどお菓子を食べ終わったと同時にバスが停車し、先生から降りる合図が出た。
「はるぴ!早く新幹線乗ろ!」
「乗り遅れる前に行こ」
狸塚さんとまーくんはまだかまだかと待ちきれない様子だった。
「そ、そうだね………」
「はしゃぎすぎだろ、新幹線初めてかよ」
「「だってー」」
「なにこれどしたん」
事情を知らない相葉さんは戸惑っている様子だった。
「それが………」
僕がこれまでのことを話すと相葉さんは呆れた顔で二人を見る。
話も終わり、先生が新幹線に乗ろうと生徒たちを移動させ始める。狸塚さんは自分のクラスはまだかとソワソワしていた。まーくんはというとパッと見ではよく分からないがなんだか嬉しそう。一応幼馴染だしなんとなく勘でわかる。
そしてついに僕たちのクラスが新幹線に乗り込む。
自分たちの席に着くと早速真ん中の席に座らされ両端にまーくんと狸塚さんが座ってくる。
「やっと隣だ〜!」
「近い、はるくん嫌がるだろ」
さらに近づいて来ようとする狸塚さんを手で押さえ、まーくんは荷物を置く。
「お前らってなんでそんなに北川にこだわるわけ?」
向かいの席に座った梶くんがそう尋ねてくる。
「だってはるぴかわいいじゃん!」
「ふーん、真人は?」
まるでまーくんの意見が大事だと言わんばかりに狸塚さんの意見を軽く流し梶くんはまーくんを見つめる。
「えー………まぁ、大切な幼馴染だから?」
「え、お前ら幼馴染なの?」
「マジ?」
「えーそうなんだ!」
そういえば三人には言ってなかったな、まーくんが言ってるもんかと思ってたけどみんな知らなかったみたい。
僕が静かに頷くと三人は思っていた以上に驚いてくれた。
「え、中学とかも一緒?」
「いや中学は別、小学校の頃引っ越して離れ離れになった」
まーくんは狸塚さん達の質問攻めにもパッと答えられるが僕は陰キャなのもあってなかなか答えられない。
「二人は再会してどう思ったの」
「え?どうって、嬉しかったよ?小学校の頃のお友達に会えて嬉しくない奴なんていないよ」
(お友達…………)
まぁそうだよな、別に付き合ってる訳じゃないんだし………
「……北川は?」
「えっ……あ、僕も嬉しかった。と、友達……だもんね」
僕はまーくんとは違ってぎこちなく答える。勝手に好きになって、忘れてると勘違いもして………付き合うなんて夢のまた夢。僕なんかは似合わない、友達なら友達としちゃった方が楽だよね。
「……そう、仲良いんだ」
「うん、よく家にも遊びに行ったしね」
「………そうだね」
上手く言葉も出てこないな、本当に友達としか思われてないのかな…………なんてことを考えていると相葉さんが自分の鞄をガサガサと漁り、トランプを取り出した。
「みんなで大富豪しよ!」
「いいね〜」
「どう?ルール知ってる?」
相葉さんは心配そうな目でチラチラ見てくる。まーくんは快くOKし、僕もそれに続くように頷いた。
「ほらほら〜、大貧民の勇輝くんはもう勝てないんじゃない?」
「狸塚は強いカードいっぱいでずるいなー……なんて」
そう言って梶くんは手札から4枚のカードを場に出した。
「えっ、これって………」
「革命。残念でした〜、大富豪……いや、元大富豪の狸塚さ〜ん」
「ちょ、そこの革命は俺にも刺さる………」
そこから梶くんの大逆転劇が始まり最終的に狸塚さんが大貧民、まーくんが貧民、相葉さんが平民、僕が富豪で大富豪は終了した。
「もっかい!」
「やだ、弁当もらってくる」
「自分が買ったからって逃げやがって〜、ダサいぞ!」
「負け惜しみしてる方がダセえよ狸塚」
「もー!はるぴも何か言ってやってよ!」
「僕富豪だし…………」
「じゃー真人!」
「俺別に大貧民じゃないならなんでもいい」
「言っとくけど私も一緒だからね」
なんだか狸塚さんが少し可哀想な気も…………もう一回くらいならしてもいいかも?
なんて考えていると両手に弁当を抱えて梶くんが戻ってきた。
「ほら、弁当」
「ありがと………」
「どういたしまして、あといくら北川の頼みでも大富豪はやんねーからな絶対、飽きたし」
「えっ」
梶くんって心でも読めるのか………?
でないと何も言ってないのに僕がもう一回やってもいいかも?って考えてるとかそんなこと分からないんじゃ…………
とりあえずお弁当でも食べて気を紛らわせようと蓋を開ける。
中には大きなハンバーグが入っていて開けた瞬間、お肉の美味しそうな匂いが鼻を通った。
「朝からハンバーグかよ」
「もう12時半だぞ」
「「え!?マジ!?」」
思わず狸塚さんと声を合わせてしまった。まだ9時くらいかな?と思っていたからもうそんな時間になっていたなんて思ってもいなかった。そしたら優唯は今頃保育園で泣きながらご飯でも食べてるんだろうか…………
「おん、まぁ大富豪めちゃくちゃやってたけどな。先生に弁当貰いに来るの遅いって怒られたわ」
「そうなんだ………」
全然気づかなかった、確かになんかみんな後ろの方に行くな〜とは思ってたけどお弁当貰いに行ってたのか…………
「はるくん、ここ」
黙々とお弁当を食べていると急にまーくんが自分のほっぺを指さしてきた。キスでもしろってことだろうか?
「何が?」
「だから………」
そう言いながらまーくんは僕の頬に指を置いた。
「い、いきなりは…………」
「ほっぺにご飯粒ついてたよ」
「えっ…………」
そしてまーくんは自分の指につけたご飯粒をヒョイと口に入れた。
そこで勘違いしていた恥ずかしさからか顔が赤くなる。
「あー!はるぴのご飯粒ウチも欲しかったー!」
「キモ、俺か相葉と席交換しよ、北川に何されるかわからん」
梶くん辛辣だなぁ………って思ったけど流石にそう思われても仕方ないかも…………
「ごめんねはるぴ〜ウチキモくて」
「いや、全然………」
「ありがと!お詫びにウインナーあげる!」
「ありがとう………」
狸塚さんがウインナーを僕のお弁当に移したと同時に先生の声がかかる。
「もうすぐ到着なので、ゴミがある人は持ってきてくださーい!今食べてる人は喉に詰まらせない程度に急いで食べちゃってくださーい」
僕ら以外はみんな食べ終わっているみたいでほぼ名指しだ。目立つのもあれだしみんな急いでかきこみ、一瞬でお弁当が空になる。
ゴミを捨てに行くと「意外と早いのね、最後に取りに来たのに」とちょっと皮肉交じりに注意されてしまった。
みんなも先生にブツブツ文句を言いながら席へと戻った。
そして遂に目的地へと到着し、荷物を持って外へと降りた。
駅には平日の昼でも人が多く、ベンチには学生の僕らを見て優しく笑いかけて手を振ってくるおばあちゃんも座っていた。
「やっと観光だよ」
「疲れたー」
「でもあっちよりかは涼しくていいね」
「それな〜」
夏場だから暑いのを覚悟していたが流石は北海道、暑くはあるがまだあっちに比べればマシだ。
「あんたら修学旅行生だっぺか!元気じゃのぉ!ほれ、孫がいらんちゅうからよいとまけやるっちゃ!」
時計台の前で話していると急におじいさんから声をかけられロールケーキのようなお菓子を手渡される。
「あのこれって…………」
「よいとまけっつーなまらうめぇ菓子だっペよ!黒実鶯神楽っちゅー果物使っとうんよ!」
「やば!じいちゃんめっちゃ方言すげーじゃん!」
「ハッハッハ!お嬢ちゃん達はどっから来たんばい?東京か!」
「惜しい!千葉なんよね!」
「千葉か!なんだったか、孫から聞いた話じゃ東京水着ーランド?みたいなのあるとこか!」
「あはは!水着ランドはやべー!ネズミーランドだよ!」
陽キャ達は地元の饒舌なおじいさんにもすぐ心を開けるんだから凄い。僕なんてついて行くのがやっとだ。
「ねね!オススメの観光スポットとかない?」
「観光スポットつったら富良野だべ!」
おじいさんは富良野はラベンダーが綺麗だとかあまりにも長々と話だそうもするもんだから慌てて狸塚さんが話を遮る。
「富良野は別の日行くから〜この辺で!」
「この辺つったら狸小路行ったらいいさ!あそこのパチンコよく当たんだ!」
パチンコの話………高校生だから打てないしわかんないけど狸小路ってところがいいらしい。
「ごめん、ウチら高校生だからパチ打てねぇ!でもありがと!」
「おう!けっぱれよ!」
「けっ…………って何?」
「ん?ああ!まぁ頑張れっちゅー意味らしいな!」
「へぇ、ありがとなじいさん」
僕たちはおじいさんに手を振って狸小路へ向かった。
狸小路は色々なお店がある商店街でゲームセンターも何件か入っている。
修学旅行で商店街なんて行く生徒は少なく周りに同級生は見当たらない。
「人多いね〜」
「はぐれんなよ」
「わかってるよ〜」
「じ、じゃあどこ行く?」
飲食店からドラッグストア、コンビニ、ゲームセンターなど色々なお店があるからどこから行くべきか迷う。
みんなの行きたいところから行き楽しめればそれでいい。
相葉さんは何かいい所を見つけたようでスマホの画面を僕たちに向ける。
「じゃあ朝夕ってカフェあるみたいだからそこ行こ!パンケーキ美味そう!」
「いいね、はるくんも食べよ」
「うん」
そしてそのままみんなで朝夕に向かった。
「ちょうど並んでなかったね!ラッキー!」
「何頼むー?ウチはケーキとオレンジジュース!」
「俺もケーキ、とそば茶」
「私ケーキとコーラで」
残るは僕とまーくんだけ…………お弁当食べた後だからそこまで多くは食べれないし…………僕もケーキでいいかな。
「じゃあケーキとコーラで」
「じゃあ俺もこの子と一緒で」
そう言ってまーくんは僕の方に手を向けた。
「えっ」
「ご注文ありがとうございます、本日のケーキは3種類ございましてチョコテリーヌ、キャラメルクリームのバナナケーキ、ピンクグレープフルーツとカスタードのタルトがございます」
「チョ…チョコ?」
「ウチらチョコテリーヌで」
「俺はバナナケーキ」
三人はあっという間に決め終わり残るは俺とまーくん待ち、まーくんは僕と一緒って言ってたし………僕が決めないとだよな。
「じゃあピンクグレープフルーツのやつで………」
「そちらの方もピンクグレープフルーツでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「はい、ご注文承りました!出来上がるまで少々お待ちください!」
そう言って店員さんはキッチンの方へと戻って行った。
「ウチもはるぴと一緒にすればよかった〜」
「ダメ、俺だけの特権」
「ブーブー!真人のケチ!」
まーくんと狸塚さんがそう話していると隣で相葉さんが僕に声をかけてきた。
「真人くんって重いね」
「え?そうかな………昔からあんな感じだよ?」
「そうなの?どんな感じ?」
「例えば………」
小一の頃、あの時は給食の時間だった。
「今日はるくんの好きなイチゴだね!」
「うん!」
給食は自分で運ぶタイプで配膳カートの前はよく混んでいた。
そして全て貰い終え、席に戻ろうとした時だった。
「待て待て〜!」
「わっ!」
後ろではしゃいでいたクラスの子がぶつかって僕は盛大に転んでしまった。
「大丈夫!?北川くん!!」
「僕の………ご飯………」
「ほら!あなたもごめんなさいって謝りなさい!」
「ごめんなさい………」
床にぶちまけられたご飯を先生が片付けみんなの視線が僕に集まった。
「他のクラスから分けてもらいましょうか!」
「うん………」
「そんなことしなくていいよ!俺のあげる!」
そう言ってくれたのはまーくんだった。
「え、でもそれじゃあ畑中くんのが」
「一緒に食べよ!イチゴもはるくんにあげる!」
「ほんと?ありがとう」
あまりにも本気すぎるのを察したのか先生は自分の分をまーくんのお皿に少し盛って「仲良くね」と言ってくれた。
「はい、あーん」
「んぐ……」
「おいしー?」
「うん!」
僕が元気に答えるとまーくんは嬉しそうに自分もとスープを飲む。
そして遂にデザートのイチゴが残った。ありがたいことに先生がイチゴまで分けてくれたのでしっかり二人分お皿に盛られていた。
「はるくんイチゴ好きだもんね、俺のあげるー」
「えっ、まーくんのだからまーくん食べなよ」
「いいの!はるくんが嬉しいなら俺も嬉しい!」
ここまで来て貰わない方が失礼かもと思い僕は恐る恐るイチゴに手を伸ばす。
「俺もイチゴ食う!」
そう言って隣に現れたのは同じクラスの男子だった。
「ダメ!これははるくんの!」
「でも真人くんいらないんでしょ!」
「違うの!はるくんにしかあげないの!俺の特権!」
そしてまーくんはフォークでイチゴを刺し、僕の口の前まで持ってきた。
「はい、あーん」
「ありがと」
そのままパクリと口の中へ運んだことでその時の男子は先生に注意されたのもあって諦めて自分の席に戻っていった。
「………って感じ?」
「その頃から重かったんだね〜」
「何の話〜?」
僕と相葉さんが話している間にまーくんが覗き込んで来た。
「別に〜北っちから昔話聞いただけ」
「北っち……?」
また新しいあだ名が………まぁ、いいんだけど
「お待たせ致しました〜ご注文の本日のケーキとお飲み物になります〜!」
話に夢中になっている間に注文していたケーキが到着した。どれも美味しそう。
「写真撮ろ!ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「う、うぇい」
「カシャ」とシャッター音が鳴ったのを確認するとみんなは一斉にフォークを手に取りケーキを食べ始める。
「ここのケーキ美味いね」
「ね〜、流石は北海道?牛乳とか強いんだよ」
「そうなんだ?」
そして僕は最後の一口を食べ終えみんなの方を見るが、どうやら一番最後だったようで僕がフォークを置いた途端にみんなが一斉に席を立ち、梶くんが先に口を開いた。
「じゃあ俺払っとくから先出といて」
「り〜」
「おけ」
「ほい」
それに対して三人は二文字で返事をする。LIMEでも見たがみんな色々な返事を略すことが多い気がする。おかげで僕もなんとなくは覚えることができた。
「ありがと………ちょっと待ってね」
僕はそう言って自分の財布から自分の食べた分の代金を出そうと財布を漁る。
「あーいいよ、金は後でもらう、観光の時間短くなるし」
「そ、そう?なら先行ってるね」
「うん、外で待っとき」
梶くんに促され僕はまーくんたちに続くように店を出た。
会計も終え、残り時間も刻一刻と迫ってきている。
「次どこ行く?」
「んー、テレビ塔とか?行ってないよねあそこ」
「あそこ有料らしいよ」
「じゃあ大通公園でいいや」
「おっけー!」
なんて話をしていると気づけばもうあと1時間もない。僕たちは走って大通り公園へと向かうのであった。
「北海道ってご飯美味しいけどここっていう観光スポットとかそこまでないのかな〜?」
「まぁ広すぎるだけじゃね?富良野とかもあるし、札幌限定ってなったら意外とないんじゃないの?」
「それはある」
ベンチに座って残りの少ない時間を潰していると一件の電話がかかってきた。
名前を見た瞬間なんとなく要件はわかったのだが出てもいいのだろうか………
「あ、これ出てもいいのかな」
「いいんじゃない?先生見てないし」
「じゃあ………ちょっと電話出てくる」
「はーい、行ってらっしゃい」
そして僕はみんなと少し離れた場所で通話を始めた。
「にーぢゃ…………」
やっぱり………さっきまで泣いていたんだろう、いつもより声がガラガラで目も真っ赤に腫れている。
「兄ちゃん早めに帰るからな、また夜に電話していいよって先生も言ってくれたし元気だして」
優唯は目をうるうるさせながらも激しく頷く。
だが、勢いが強すぎたのかおでこで通話終了ボタンを押してしまいそこで通話は終わってしまった。
「終わった?もう時間だから行かないと」
「あ、うんじゃあ行こ」
まーくんに呼ばれ、僕はみんなの元へ戻っていく。LIMEには「時間だからまた後で」と送信し、スマホをカバンにしまった。
そして、一日目も終わりが近づきバスはホテルへと到着した。
「はーい、じゃあ一旦ホールの方に向かいまーす、礼儀を重んじて失礼のないよう静かに移動しなさい」
「まだ部屋行けないのかー」
「ね〜、早くるなっち達とUMOしたかったのに〜」
そう言って狸塚さんは自分のカバンからUMOを取り出す。
「はるくんは何か持ってきたの?ゲームとか」
「いや、家にそういうのなくて………でかいおもちゃならあったんだけどさすがに持って来れない」
「そっか〜、弟くんと遊んでるの?それ」
「うん、優唯人生ゲームとか好きだよ」
「えっ、あの子四歳だよね?」
「いや、三歳だよ…………お母さんとお父さんも人生ゲーム好きだからよく一緒に遊んでるんだ、とは言ってもルーレット回すのが好きなだけだと思うけど」
家で人生ゲームをやると優唯が毎回ルーレットを回してくれる。あのパチパチ音が好きなんだろう、って伝えると「確かに」と納得した様子だった。
「昔はるくんも回すの好きだったもんね」
「えっ、そうだった?」
まずい、全然覚えてない。けどまーくんが嘘つくとは思えないし…………多分、いやきっとそうだったんだろう。
ホールでの話も終わり、夕食も食べ終え遂に部屋移動。
夕食中、写真ばっかり撮って先生に注意されたのが効いたのか狸塚さんは少しションボリとしていた。
僕の部屋のグループはまーくんと梶くんの他に烏野くんが入ることになっている。
どうせならと四人で部屋に行こうと鍵を貰いに行くと先生が申し訳なさそうに駆け寄ってきた。
「ごめんね、部屋手違いで二人部屋だったみたいで誰か二人は他の部屋行ってくれる?ホテルの方にも事情説明して布団は届けて貰ってるから」
「あーじゃあ烏野と俺別の部屋行くから北川と畑中で同じ部屋泊まりなよ」
そう即答したのは梶くんだった。烏野くんも「いんじゃね」と適当だし…………
ふとまーくんの方を見ると目が合ってしまった。
「あっ」
「はるくんはどう?俺は別にいいけど」
「え、いや別にまーくんがいいなら…………」
………ってなんでそんなこと言っちゃったんだ。絶対気まずくなっちゃいそうな気がする。
でも、先生にも感謝されて鍵渡されちゃったしもう引くに引けない…………
渡された鍵の部屋に入ると一番最初に目に入ったのは窓から映る綺麗な景色…………ではなく大きなダブルベッドだった。
「……………」
「……あ、ここのホテルテレビあるじゃん!」
「あ、うんそうだね」
「はるくんも見る?」
「後で見ようかな、今は休みたい」
観光で疲れたのもあって僕はダブルベッドなこともすぐ忘れベッドに倒れ込む。
「そっか、じゃあ風呂の時間になったら起こすね〜って言ってもすぐ時間になると思うけど」
「別に………眠くは…………な…………」
眠くはないと言いたいが瞼は限界に近い。今日は色々あったからもう甘えて起こしてもらった方がいいかもしれない。
「おやすみ、はるくん」
「ん……………」
そのまま、僕は眠りについてしまった。
けれどやはりすぐ時間は来たようで
「はるくーん、起きてー」
「もう時間………?」
「いや、まだ五分ある」
「じゃああと五分…………」
漫画でしか聞かないようなセリフ、初めて使った。
僕はまた寝ようと目を閉じる。
「まだお風呂の準備してないでしょ」
「…………確かに」
まーくんに正論パンチをされ重い体を何とか起こす。
「おはよ」
「うん、おはよ」
「俺準備終わらせたからはるくん待ってるね」
「ありがと…………」
これがイケメンか………準備してないからってギリギリまで寝かしてくれて五分前に起こしてくれるし、待ってくれるし、ほんと優しいな。
(友達としか思われてないのが残念…………)
「準備終わったから行こ」
「おっけ、なんなら持とうか?」
「それは大丈夫」
「へーい」
部屋を出るとちょうど梶くん達もお風呂に向かうみたいでばったり出会った。
「よっ、北川と畑中一緒に行こうぜ」
「おう、いいけどあっちは?」
まーくんは恐らく梶くんと同じ部屋と思われる男子たちを指さす。
「いいのいいの、アイツらも同じ班みたいだし畑中達と行くつったらOKしてくれた」
「ふーん」
「あ、畑中くん!畑中くん今からお風呂?」
突然前から来た女子に声をかけられる。恐らく別のクラスの人だろう。
「誰?」
「私二組の石崎円香っていうの、よかったらピンスタ交換しない?」
そのまま石崎さんは前に立ち塞がりまるではいを押さないと進めない選択肢みたいに避けようとしても動きを合わせてくる。
「はぁ………俺ピンスタやってない」
「じゃあBeeRealでもいいよ!」
「やってない、風呂行けんからどいてくれん?」
「そっか………ごめんね、邪魔しちゃって」
さっきまで必死だった石崎さんは無理だと察したのか残念そうに去っていった。
「別に教えてやりゃよかったんじゃね」
「いや、無理。狸塚とか相葉ならまだしも知らねえやつとは交換しない」
「まぁわからんくもないけど〜、お前重いし尚更」
「あのさ、この後ピンスタとかのこと教えてほしくて…………ダメ?」
僕はそういうSNSに触れたことがないからついていけない。そうするとまた距離が開いてしまうのではないかと心配になってしまった。
「いいよ、はるくんにならなんでも教えてあげる」
「ありがと」
そんな話をしていれば大浴場へと到着し僕たちは着替え始めた。
「じゃあお先に」
先に着替え終わった僕は体が冷える前にとお風呂場へ向かった。
「……はるくんって細くない?」
「えっ………」
「確かに、何キロあるの?」
「普通に47だけど?」
僕がそう答えると二人はありえないと言わんばかりの目で見つめてくる。
確かに昔から細いと言われたことはあったがそこまでやばいのかな…………
「身長は?」
「164だけど」
「ちゃんと食べなよ、北川」
「食べてるよ」
僕はそのまま梶くんとまーくんの心配をよそにお風呂場へと入っていった。
(そんなに細いかな…………)
あんなに言われたんだから気になってしまう。
浴槽につかりながら自分の腰に手を当てる。
周りの男子たちと見比べると確かに括れすぎているかもしれない。
「これから太れるだろうし、気にしすぎなくてもいいんじゃない?」
そう言いながら隣に座ってきたのはまーくんだった。
「でも………細いと男っぽくないじゃん」
こんなんじゃまーくんに振り向いてもらうなんて…………
「俺はどんなはるくんでも大好きだよ?細いだの関係なく」
「………えっ」
「なんなら俺は細い方がタイプだな、いざと言う時に運びやすいし」
「運びやすい??」
僕は荷物か何かなのか、一瞬「大好き」に反応していた僕が恥ずかしい。
海外でも「I love you」は友達にも使うって英語の先生も言ってたし。
「まぁガタイのいい北川とか想像できないしな」
そう言いながら今度は梶くんが隣に座ってきた。
「確かに梶くんってよく見たらムキムキだね」
「あ?これくらい部活やってりゃ普通だよ、筋トレさせられるもん」
確かに運動部だと普通なのか………僕は家庭科部だから筋トレとか縁がないけど梶くんは野球部だから筋トレしないとまず残れないよな。
「はるくんって何部なの?」
「え、家庭科部だけど」
「へぇ〜、家庭科部って何するの?」
「お菓子とか作るよ、この前梶くんにも差し入れあげたし」
「そうだなクッキー美味かったわ、ありがとう」
梶くんはそう言って僕の方を見て微笑んだ。
「どういたしまして」
梶くんが笑うなんて珍しいな、部活中なんて仏頂面だけどそこがいいって女子から有名なもんだから笑った顔なんて中々見れない。
「俺もはるくんのお菓子食べたい」
その話にまーくんは興味津々なようだ、実際部活をやってることは伝えていたが何部なのかは伝えてなかったからなぁ。
「うん、じゃあ今度作ったの持って………」
「俺も家庭科部入っていいかな?」
「えっ」
いきなりそこに来るのか………部長達は構わなそうだけど僕が落ち着いてられるか心配だ…………でもダメとも言えないし…………僕は小さく頷くとまーくんは嬉しそうに「よろしくな」と言ってくれた。
「じゃあ、先上がるね売店のとこで待ってる」
「はーい」
「気をつけてね」
僕は二人を後にし先にお風呂場を出てホテル内の売店へと向かった。
「あー!はるぴじゃん!やっほー!」
「あ、狸塚さん………やっほー」
売店に寄ると片手にレジ袋を提げた狸塚さんとばったり遭遇した。
「光希でいいよ〜、なんならみっちゃんとか!」
「じ、じゃあみっ……ちゃん?」
「やーん!はるぴマジでかわいい〜!」
「じゃあね、まーくん達待ってるから」
「うん、ウチもるなっち先に部屋行ってるみたいだから戻るわ〜またね!」
僕は手を振りながら部屋へ戻る狸塚さんに手を振り返し売店の方に戻った。
「あ、これ美味しそう」
ふと目に入ったじゃがポックルを手に取るとまーくん達もお風呂から上がったようでちょうど売店へと到着した。
「北川それ買うの?」
「うん、美味しそうだから」
「俺もお土産買お」
まーくんはそう言って片っ端からお菓子の箱を取ってレジへと持って行った。
「お会計4万3280円になります」
「カードで」
「はい、一括でよろしかったでしょうか?」
「お願いします」
「えっ、カード!?」
「畑中っておぼっちゃまだったんだな」
知らなかった、僕の住んでるマンションは別にそこまで高くもないしお隣ってことで失礼かもしれないが別にそこまでお金持ちだなんて思ってもなかった。
「お次のお客様どうぞ!」
「あ、お願いします」
僕もチャチャッと会計を終わらせ、二人と一緒に部屋へと戻って行った。
「じゃ、二人部屋だからって変なことすんなよ」
「しねーよ、じゃあ戻ろっかはるくん」
「うん」
そして僕たちは梶くんが隣の部屋に入っていったのを見て自分たちの部屋へ戻って行った。
正直、疲れと中途半端に寝たのと夕食が組み合わさってすごく眠い。
僕は荷物を置くとそのままベッドの上に寝転んだ。
「ん、もう寝る?」
「いや、もうちょっと起きてようかな、もうすぐ電話も………」
噂をすれば突然僕のスマホに一件の着信が入った。
「にーちゃ!」
「優唯〜大丈夫だったか?」
「う、ゆい、にーちゃいないのさみしい………」
優唯は眉を八の字にして顔でも寂しさを訴えてくる。
「お、弟くんじゃんこんばんは」
後ろから見ていたまーくんが通話に顔を出してくる。
でもやっぱり優唯はまーくんを警戒しているようでいきなり通話を切られてしまった。
「えっ」
「俺、弟くんから嫌われてるのかな?」
「はは………多分警戒してるんだと思う」
「そっか………」
僕はスマホを隣の小さな机の上に置き、瞼を閉じ始める。
「ん、電気消そうか?俺邪魔にならないように梶んとこ行くし」
「うん、ありがと…………おやすみ…………」
そして僕はまーくんが部屋を出たのを見て今度こそ深い眠りについたのであった。
うちの学校では早めの時期に修学旅行があるからまーくんが転校してきてまだ2ヶ月も経っていない。
グループ決めで盛り上がるクラス……の中で僕は一人で机に突っ伏す。
僕なんかと一緒に回りたい人なんていないだろうし余ったところに入れてもらおう……
「やっほ、はるくん」
「………ん」
顔を上げるとそこには俺を見つめるまーくんが立っていた。
「グループ決まった?」
「……まだだけど」
まーくんは転校してきたばかりだけどもう一軍に入れるくらい人気だしきっともうグループは決まってるだろうな……
「よかった〜!じゃあ俺のグループに入ってよ!」
「………え?」
まーくんからは想像していたものとは違った言葉が出てきた。
「でも……僕なんか入っても……」
「この前のカラオケのメンツだし、みんなはるくんも入って欲しい〜って言ってるよ」
「そうなの?」
チラッとまーくんの後ろを見るとこの前の陽キャ達が笑顔で手を振ってきた。どう反応したらいいかわからなかったからとりあえずちっちゃく手を振り返した。
「えー!マジでかわいい!!」
「はるぴもおいでよ〜!」
(は、はるぴ……)
もうあだ名つけられちゃった……まだ1回くらいしか話してないのに……
「ほら、狸塚達も呼んでるよ」
「………」
僕は慌ててまた顔を机に伏す。
まーくんは僕の顔を覗き込もうとしゃがみこむ。
「俺らじゃ嫌だった?」
「……その………違くて……う、嬉しくて………小中でも誘われたことなかったから………」
「……ずるいな」
「え?」
「いや、なんでもない。オッケーってことでいい?」
「うん」
「じゃあ狸塚達にも言っとくね」
「うん」
僕は顔を伏せたまま一人、楽しみにしながらどんなことをしようかと妄想している。
(あ、でも優唯大丈夫かな……)
この学校、修学旅行は四泊五日とちょっと長い。
五日目には帰れるとして、四日間も会えないとなると多分身体中の水分が無くなるまで泣き出しそうだ。
スマホの持ち込みはOKだからビデオ通話とかするか?でもみんなに迷惑かもしれない……というか都合が合わない場合だってある。
でも籬先生ならなんとか許してくれるかな………
籬先生も小さい子供がいるからきっと大丈夫。最悪早退でもしたらいいし………流石にブラコンすぎかな………
「はるぴよろ〜!」
「あ、えっと……」
「ウチ狸塚光希ね」
「私は相葉瑠奈」
「俺梶勇輝〜」
「えっ、あの……エレ〇とかの?」
「ただの同姓同名だよ、修学旅行に心臓は捧げないかな〜」
「ご、ごめん」
「謝んなくていいよ〜ウチらも最初思ったし〜」
「なんならコイツノリいいからエレ〇の真似して〜とか言ったらしてくれるよ」
「お前は間違ってない、やりたきゃやれ」
「ってそれリヴ◯イじゃ〜ん」
みんな思ってたよりずっと優しいんだな、最初こそは警戒してたけどなんだか自然と馴染めてきた……かも?
だからといって陽キャにはまだ程遠すぎるが……
「おまたせ〜、何話してんの?」
「遅かったじゃん、今はるぴのために色々自己紹介とかしてあげてたの〜真人もしたら?」
「えっ、俺も?」
「ウチらも知りたいしいいでしょ?」
まーくんは少し考えながら「まぁいっか」と手に持っていた修学旅行関係らしきプリントを置いて、席に座った。
「名前は知ってるだろうから省くけど他何いえばいいのかわかんねぇ」
「はーいじゃあ好きな食べ物なんですかー」
「小学生かよ」
梶くんがそう言うと狸塚さんは「仕方ないじゃん」と梶くんの背中を軽く叩いた。
「んー、オムライス?」
オムライス……確かによくまーくん家で食べてたな……なんて、そんな昔話僕が覚えててもまーくんは覚えてないだろうな
「オムライス好きとかかわいい〜!」
「オムライスってかわいいの?」
「さ、さぁ?僕に聞かれても………」
かわいいかかっこいいかで聞かれればかわいい方に入るんだろうけど女子たちのかわいいの基準がわからない……僕にだってかわいいって言ってくるし………
「みんなは何好きなん?」
「ウチはピザ〜」
「私ドーナツ!」
「俺肉〜」
みんながどんどん話していき、残った僕にみんなの視線が来る。
「はるぴは〜?」
「教えて教えて〜」
「え、えーっと……」
すぐ答えたくはあるがこんなに注目されるとなんか……恥ずかしい……
「はるぴ顔赤いじゃ〜ん、かわいい〜」
狸塚さんはそう言って僕の頭をわしゃわしゃと撫でだした。
「私も撫でていい?」
「う、うん……?」
僕がそう答えると相葉さんは嬉しそうに僕の頭を狸塚さんみたいにわしゃわしゃと撫でた。
「なんかはるぴくん見てると俺の弟みたい」
梶くんも便乗したのかポンポンと撫でてきた。
「ウチもはるぴみたいな弟欲しい〜」
「わかる〜」
僕の頭を撫でると運気でも上がるのかってくらいみんなが撫でるから気づけば僕の頭はボサボサになっていた。
「その辺にしとけよ〜、はるくん髪ボサボサじゃん」
「あ、ごめんね〜」
「ついやりすぎちゃった、マジごめん」
「俺も……」
「い、いや大丈夫……です……」
僕が自分で髪をほぐそうと手を使っているとまた頭を撫でてくる感覚が乗っかった。
「俺にもさせてよ、なでなで」
「っ………!」
見るとまーくんが僕の頭に手を置いて優しく撫でていた。心臓の音が頭からも伝わるんじゃないかというくらいうるさくてなんだかいたたまれない………
「よし、綺麗になった」
「……あ、ありがと………」
どうやら撫でているついでに髪も直してくれたみたい。
「それよりOKもらってきたから駄弁ってていいよ〜ってさ」
「じゃあさ、今日放課後ゲーセン行こ!」
「いいね〜行こ行こ!」
ゲームセンターか……ぬいぐるみ欲しくて4000円無駄にした記憶が……
「はるぴも行こーよ!」
「いいの…?俺ゲーム苦手だし……」
「いいの!ウチらもう友達じゃん!」
(友達……そっか……狸塚さん達も友達って思ってくれてたんだ………)
今まで友達なんてほとんどいなかったから嬉しいな……
「うん、じゃあ行きたい」
「らじゃ!財布持ってんなら直で行くけどどう?」
「大丈夫、ちゃんと持ってる」
「決まりね!じゃ、また放課後〜!」
放課後にゲーセンに行くことを約束したと同時にチャイムが鳴り狸塚さんたちは残念そうに自分の席へと戻って行った。
そして放課後
僕達はゲーセンに遊びに来た。
「何やる〜?」
「私これやりたい」
相葉さんが指さしたのはマスターバニーという最近流行りのウサギのぬいぐるみだった。
「でもクレーンゲームってアーム弱いからマスターバニーなんてもっと弱いでしょ」
「はー?別に欲しいならいいでしょ」
「まぁ俺らはメリカしようぜ」
「お前17になってもゲーセンのメリカしてんのかよ」
「いーだろ、やる分には」
「じゃあ私がクレーンゲームやんのに文句言うなし」
相葉さんと梶くんが喧嘩してるのを横目にある景品に釘付けになっていた。
「はるくんそれ欲しい?」
そう声をかけてきたのはまーくんだった。
「ちびかわじゃん、好きなん?」
「うん、好き」
ちびかわはヒットする前から見ていた作品で泣き虫なところとか昔の僕に似ていてなんだか思い入れがある。
推しはムササビで今丁度見ていたのが大きなムササビのぬいぐるみだった。
「やってみる?」
「うん、頑張る」
まーくんに見守られながら僕は百円を投入する。
レバーを倒しぬいぐるみの方へとアームを動かす。これだけだから意外と簡単かと思いきやそうでもない。
アームの強さもあるが取り出し口に引っかかって取れないなんてこともよくあるからそこも考慮しないといけない。
そして丁度よさそうな所までアームを運べたので僕はパッとボタンを押した。
クレーンゲームから流れる「どうだ〜!」という音声と共に下がるアーム、そしてムササビを掴んだと思いきや上まで持ち上がったところで落ちてしまった。
「あっ……」
でも1回で取れることなんて滅多にない。僕はもう一度百円を投入してレバーに手をかける。
だが、二千円近く投入したが相変わらず途中で落ちてなかなかゲットできない。
「もっかい………」
次で最後にしようと百円を入れる。
レバーに手をかけるとまーくんが僕の手の上に手をかぶせてきた。
「俺も一緒にやっていい?」
「えっ………!?」
まーくんはそのまま否応なしに僕の手ごとレバーを動かす。
(まーくんの手、おっきい……)
昔は同じくらいだったのにな、会ってない間にこんなに成長するなんて……身長の低いままの僕からしたら羨ましい………
なんてボーッとしていたら急に「おめでとーございまーす!」という声がして我に返った。
「どうぞ」
「えっ…あ、ありがとう……」
凄いな……一発で取っちゃうなんて………
「ねね!はるぴ〜!見てこれ〜!」
後ろから声がしてムササビを抱きながら振り向くと大きなチョコ菓子の箱を持った狸塚さんがいた。
「え!それムササビ?かわいい〜!」
「うん、まー……真人くんが取ってくれた」
「いいな〜、ウチもちびかわ好きなんだ!はるぴはムササビ推し?」
「うん、かまちょなとことかさ、かわいいから」
ムササビは口調は荒いが「褒めろ!」とか時折見せるうるうるした目とかめちゃくちゃかわいい。
「わかる〜!『偉いか?』って聞いて『偉いよ〜』って言われたら『キャハハ♡』って喜ぶとことか最高だよね〜!」
「うん!そこいいよね!」
(………あっ)
しまった、つい興奮しておっきい声出しちゃった………
恐る恐る狸塚さんの方を見るがキョトンとした顔で固まっていた。普段喋らないようなやつが大声出したらそりゃあびっくりするよな………
「はるぴってホントかわいいね!」
「………えっ?」
てっきり「うわぁ…………」みたいなリアクションだと思っていたがいつも通り(?)なようでこっちがびっくりした。
「はるぴってなんかウチらのこと怖がってるな〜って思ってたけど意外とそんなことないんだなって」
「え?そんなことないけど………」
まぁでも確かに僕にもこうして接してくれるコミュ力は怖いけど…………
「なぁお前らみんなでプリ撮ろうぜ」
そう声をかけてきたのは梶くんだった。
プリって言ったら………プリクラのことだよな…………
「撮る撮る〜!はるぴも撮ろ〜!」
「え、でも………」
「いいじゃん、撮ろうぜ」
そう言ってまーくんまで僕の手を取る。
プリクラなんて撮ったことないけど大丈夫かな…………
(うっ……狭い)
やっぱり五人もいるとプリクラの機械の中は窮屈かもしれない。
一応五人でも撮れるらしいが………
ここのゲームセンターって大きいプリクラないのかな?それともこのサイズの機械しかないとか………
「俺の方寄っていいよ?」
「え?」
隣で一緒にプリクラを撮っていたまーくんはそう言って僕の方を抱き寄せる。
「じゃ、行くよ〜!」
最近思うのだがまーくんの距離がおかしい気がする。
幼馴染だからならいいのだが僕のこと嫌ってる………んだよな?
でも最近昔みたいに「はるくん」って呼んでくれるし………分からなくなってきた
でも狸塚さんも「はるぴ」って呼んでくれてるしおかしくなかったりするのかな?
そんなことを考えているとまーくんが僕の耳元で囁きだた。
「後でちょっといい?」
「………?うん」
なんだろう?話すことなんて特にないと思うけど………
「ねね、はるぴも落書きする?」
「……え、落書き?」
どうやらプリクラは仕上げに落書きをしてかわいくするのが醍醐味らしい。
「あ、僕はいいよ」
「そう?じゃあウチら落書き終わったし印刷しちゃうね」
「うん」
狸塚さんが画面をいじると取り出し口の方から印刷された写真が出てくる。プリクラなんて初めてだからてっきり画面の上の方からレシートみたいに流れてくるのかと思ったけど外に専用の取り出し口があったんだ………
「じゃあ解散するか〜」
相葉さんがスマホを見ながらそう言い出した。ふと自分もスマホを見ればいつの間にか7時を過ぎていた。
「え〜もう?」
「だって田辺ってこの辺見回ってるんでしょ?見つかったらダルいじゃん」
ここで言う田辺は生徒指導の田辺先生のことだろう。確かにあの人はうちの学校で一番厳しくて遅刻した人には反省文を五枚書かせるとも言われてる。実際被害者がいることも有名で僕も正直反省文を書くのは嫌だ。
「あ〜確かに、田辺ってなんでこの辺来るんだろうね」
「近くのブックオンでエロ本でも見てんじゃね?」
「それだったらウケる!」
「田辺って?」
「あ、そっか真人って転校してきたばっかだから知らないんだっけ」
梶くんはまーくん向けに田辺先生のことを伝えるが「あいつを怒らせたら地獄の果てまで追いかけてくる」とか盛りに盛りまくっていた。
「ふーん……じゃあちゃっちゃと帰るか」
「おう、行こうぜ」
「あー、俺らちょっと用事あるから先帰っていいよ」
まーくんがそう言うと狸塚さんを筆頭に三人がそそくさとゲームセンターを後にした。
「あの……用事って?」
「ん?ああ、プリ撮ろ」
「え?さっき撮ったんじゃ………?」
狸塚さんから貰った写真だってあるしみんな分行き渡ってるんじゃ?
「そうじゃなくて……………二人で撮ろってこと」
「………えっ」
二人でって………そういうことだよね………なんでそんなこと………だって嫌ってるんじゃ………
でも好きなまーくんと二人でプリクラを撮れるのは嬉しいし………ここは気にせず撮っちゃおう
「お願い……します」
僕がそう答えるとまーくんは僕の手を引いて機械の中へと入っていった。
「どうだった?」
「………何が?」
「今日、楽しかった?」
「うん、ぬいぐるみとか色々ありがと……大事にする」
「………そ、よかった」
まーくんからの返事はなんだか素っ気ない………やっぱり嫌われてるのかな…………
「……修学旅行楽しみだね」
「…………え?ああそうだな」
なんとかこの気まずい空間をなんとかしようと話題を振ってみたけどダメみたい………
「……………あのさ、まーくんは……なんで僕にこんなに構ってくれるの?」
「っ………!それは………」
まーくんが何か話し出しそうなところで突然前の方から走ってくる小さな人影が見えた。
「にーちゃ!」
「えっ、優唯?」
優唯はまーくんなどお構い無しに僕の足へ抱きついてくる。奥からはお母さんも歩いてくる。
「も〜、優唯ったら急に走ったら危ないでしょ?お菓子あげないわよ」
「にーちゃおかーり!」
「う、うんただいま?」
「……弟いたんだ?はるくん」
「あ、うん」
「へぇ〜、何歳?」
まーくんはそう言って優唯の目線に合うようにしゃがみこんだ。
優唯は今まーくんがいることに気づいたのか僕の足の裏へと隠れ込む。
「ほら、優唯何歳なんだっけ?」
「……よんしゃい」
そういう優唯の手はピースの形で二歳と言っているようにも見える。
実際は四歳でも二歳でもなく三歳なんだけどな…………
「ほら、帰るよ……ってあら、もしかして真人くん!?」
お母さんも今気づいたようで持っていたエコバッグを落とす。
優唯はバッグの中からブドウのグミを引っ張り出し一緒に食べようと言わんばかりに見せてきた。
「お久しぶりです、大体10年ぶりくらいですかね」
「そうね!いやー、こんな大きくなって〜!」
「…………え?まーくん知ってるの?」
だって………僕のことすら…………
「ん?もちろん、昔よくご馳走になったし」
「え、だって僕のこと……覚えてないんじゃ?」
「そんなことないじゃーん!俺がはるくんのこと忘れるなんて絶対」
その言葉に僕は唖然としてしまった。必死に今までの事何とか処理しようと頭を働かせるが処理しきる前にお母さんが先に話し出した。
「懐かしいわね〜、そうだ!今日良かったら泊まってく?オムライス作ってあげるわよ〜!」
「……えっ、お母さん?」
それには僕も突っ込む。さすがに泊まりは困る、部屋もごちゃごちゃしてるしまだ処理が追いついてない。
「んー、お気持ちだけ受け取っておきます。今日はこの後家でやらなきゃいけないことあるので」
「あら〜………残念ねぇ」
僕は正直ホッとした。でもちょっと寂しい気もしたけど………
「にちゃ!ぶろーのぐみ、いっしょたえよ!」
「あ、こら優唯!勝手に取っちゃダメでしょ!」
「優唯、夜ご飯もまだだろ?ご飯の前に食べちゃったらご飯食べれなくなっちゃうぞ」
そう言って僕が優唯の頭を撫でグミを取り上げるとそれを見ていたまーくんがいきなりフフッと笑いかけてきた。
「かわいいね」
「でしょ?しかも優唯って意外と偉いんだよ、注射でも泣いたことないし好き嫌いも少ないし」
「………そうなんだ、優唯くん偉いな」
(?なんだろう、今の間………何か言いたげだったような)
気にしすぎだろうな、僕だって言葉に詰まることあるしそんなところだろう。
まーくんがお隣ということはまーくんのお母さんが挨拶に来ていたから既に知っていたらしい。
帰り道、お母さんはまーくんとペラペラと昔話なんかをして、まーくんもそれにうんうんと懐かしんでるみたいだった。お母さんと陽キャのコミュ力は凄い。優唯はまーくんを警戒してるみたいだけど………
「そうだ!そういえばあなた達今度修学旅行なのよね!」
「はい、そうですね〜」
「アレあるからちょっとだけうち寄ってかない?」
(アレ………?何かあったっけ?)
アレが何なのか分からないまま家に着いた。そのままお母さんはリビングの引き出しから小さな包装紙に包まれた何かを持ってきた。
「これ、遥輝が修学旅行で買ってきたキーホルダー、真人くんのために〜って自慢してきたのよ〜!」
「え!?」
そんなのまだ持っていたのか………アレというのは小学校の頃に彦根城へ行った時に買ったひいこにゃんのキーホルダーだったようだ。
僕も言われて思い出したくらい前のものだったから無くなってるものかと思ってた。
そんなのもう捨てといてくれよ…………なんか恥ずかしいから…………
「ありがと、はるくん」
「えっ……あ、うん」
「……やっぱり泊まってかない?お隣なんだし!取りに行きたいものあったら行っといで!」
「ちょ、お母さん…………」
「いいですよ、気持ちだけで」
(よかった………)
僕がその言葉にホっとしているとまーくんは僕の方を見てニヤリと笑った。
「お隣なんですからいつでもお泊まりできるでしょう?」
「えっ…………」
「それもそうね!いつでもウェルカムよ!」
そう来たか………お隣ならお泊まりする必要もほぼないんじゃないのか?ベランダ行けばいいだけだし………
「じゃあまたね、はるくん」
「う、うん………ばいばい」
僕は小さく手を振りまーくんを見送った。
「にーちゃ」
「ん?どうした?優唯」
「こえ……」
優唯が差し出してきたのは見覚えのない革の手帳だった。
「ねぇ、これお母さんの?それともお父さん?」
「知らないわよ〜、パパのじゃないと思うし真人くんじゃない?」
まぁ、お母さんも知らないなら多分まーくんのだろう、明日学校で渡そう。
「お隣なんだし届けてあげたら?」
「え」
そうか、隣となるとこういうこともあるんだ。
学校で渡せばいいやと思ったけど隣に住んでいる相手にならお裾分けみたいにすぐ渡しに行けるから時間がかかるとか気にしなくていいのか………
「う?」
とりあえず優唯から手帳を預かろうと下の方を見ると優唯が勝手にまーくんの手帳を開いて一枚の紙のような何かを眺めていた。
「ちょ、優唯ダメだろ」
僕は慌ててその紙と手帳を取り上げた。その時、つい紙のような物が目に入る。それには昔二人で撮った写真が入っていた。
僕は昔写真が嫌いだったからこの時のことはよく覚えてる。
でも、なんでそんな写真を………まぁ狸塚さん達がプリクラを持ち歩くみたいなのと一緒か。
「じゃあ届けてくる」
「はーい」
「にーちゃ……」
「すぐ戻るから大丈夫だぞ、優唯」
僕は優唯の頭を優しく撫でドアを開けた。
(ああは言ったものの…………)
もう外は真っ暗、今はもう夜ご飯の時間だろう。
こんな時間にインターホン押したら迷惑かな………やっぱり学校で渡した方が………
そんなことを考えながらドアの前で突っ立っていると急に鍵が開く音がし、ドアが開いた。
「えっ、はるくん?」
「!?」
インターホンも押してないのに急に開いたからお互い固まってしまった。
二人で見つめあっていると奥から誰かが来る気配がしたと思えばリビングの扉が開いた。
「どしたん真人〜、あれ?その子もしかして遥輝くん?」
「はっ、お前出てくんなよ」
「えーと………?」
確か………あの人は
「裕真さん?」
「そうそう、裕真だよ〜」
まーくんのお兄さんだ、裕真さんはまーくんとは違ってかわいがられてた記憶がある。
童顔で身長も僕と対して変わらない、けど社会人。
「どうしたの〜?」
「………あ、落とし物を………」
そう言って僕は手帳を手渡し家へ戻ろうと後退りしたが…………
「ちょうどいいや、うちでご飯食べていこーよ」
「えっ」
「なんなら泊まってけよ!」
裕真さんはキラキラした目でこちらを見つめてくる。本気で言っているんだろう、どうしようかと困っていると焦るまーくんが間に入ってきた。
「あ、ありがと今日はもう帰りな、優唯くんのとこ行ってあげな」
「あ、おい〜!せっかくお前がだい………」
「し、修学旅行楽しみだな!また学校で会おうぜ!」
そのままドアを閉められ鍵のかかる音がした。
(やっぱり嫌われてるのかな………)
裕真さんも「だい」って言いかけてたし……もしや「大嫌いな奴」だったり…………いや、それはないだろう。そう信じたい。
そして修学旅行当日。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけてね〜」
「……やっぱり行かない方がいいかな」
優唯は多分修学旅行とか分からないと思うけど僕が帰ってこないとなるとギャン泣きするだろうな。籬先生には伝えて特別にビデオ通話ができるよう許可は貰ったけど………
「優唯なら大丈夫よ〜、アンパンウーマンでも見せとくから」
「ほんとに…?」
「大丈夫だって、ほら遅刻しちゃうわよ〜朝早いんだから」
「……うん、じゃあ今度こそ行ってきます」
「はーい」
僕は優唯のことが心配になりながらも何とか家を出た。
「おはよ、はるくん」
「………え?」
ドアを開けるとそこにはキャリーバッグを片手に持ったまーくんが立っていた。
「一緒に行こ」
「う、うん…………」
「持とうか?荷物」
「大丈夫」
「そ、じゃあ早く行こうぜ遅刻しちゃうし」
まーくんはキャリーバッグを引いて先に進んでく。その後ろ姿をただボーッと眺めているとキャリーバッグにはキラリと何かが光った。目を凝らし見てみるとお母さんがあげていたひいこにゃんのキーホルダーだった。
(なんであんなの………)
「遅刻したら置いてかれるよ」
「あ、うん待って」
僕は大きなリュックを背負ってまーくんの後を追う。
「はるぴ〜!こっちこっち!」
学校に着くと早速狸塚さん達が出迎えるようにぴょんぴょん跳ねながら手招きしてくる。
狸塚さんの隣には眠そうな梶くんとメロンパンを頬張りながら手を振る相葉さんがいた。
「はるぴのリュックでけー!」
「それな〜」
「そうかな………」
「写真撮ろ!ウェーイ!」
「う、うぇーい?」
意味はよく分からないが多分いえーいみたいな感じだと思う。
「………ねぇ」
狸塚さん達と写真を撮っていると突然後ろからまーくんが声をかけてきた。
「どうしたの……?」
「…………あのさ」
僕何か変だったかな……それともポーズのレパートリーが少ないから呆れられたとか………
「狸塚さ、近すぎだろ」
「………え」
どうやら僕に対してではなく狸塚さんに対して言っていたみたいだった。
「えー、普通じゃんこれくらい」
「どう考えても普通じゃないだろ、もうちょい離れろ」
「離れたら入んないじゃん」
ぶーぶーと狸塚さんはちょっとした文句みたいなことを言うがまーくんは「ダメなもんはダメ」と狸塚さんから僕を引き剥がす。
「はるくんと撮るなら俺間に入れろ」
「えー、最近はるぴかわいいってフォロワーにも人気なんだよ?」
「知るか、俺も混ざった方が伸びるだろ」
「なにそれー」
「はーい、集合。点呼取りまーす」
いつの間にかもうすぐ出発の時間になっていて先生が生徒たちに呼びかけた。
狸塚さんは残念そうにしながらまーくんに「あんたのせいではるぴと写真全然撮れなかった」と言いながら自分のスマホをいじる。
点呼も終わり、長い話も終わり遂にバスへと乗り込んだ。
「あー、バスの座席どうする?」
「ウチはるぴの隣〜」
梶くんが席をどうするのか聞くと狸塚さんはすぐにそう答えた。
「はるぴもいいよね?」
「えっ?あ、う……」
正直誰でもいいから頷こうとしたがそれはまーくんによって阻まれた。
「俺がはるくんの隣で」
「いやいやウチが!」
「はーいそこ、なんでもいいから早く座って〜バス出発するぞ〜!」
先生にそう言われ二人は静かになったが僕は梶くんに手を引かれ窓側の席に押し込まれた。
そして隣に梶くんが座り二人を睨んだ。
「これで文句ないだろ」
「「大ありだよ!」」
「はーい発車しまーす、座ってくださーい」
狸塚さんもまーくんも梶くんの方を見つめながら渋々席に着いた。
「………お前ってあの二人に好かれすぎだよな」
「え、そんなことないよ。多分………」
少なくともまーくんはちょっと距離がある気がする。
「ふーん、北川はどっちの方が好きなの?」
「えっ……それは………」
「俺にだけ言えばいいよ、誰にも言わんし」
梶くんは嘘をついているようには見えなかった。梶くんになら………と小さい声で耳元で囁いた。
「その……狸塚さんも好きだけど………どっちかと言われたら………まーくん…………」
「それはそういう意味で?狸塚はそういう目では見てないんだろ?」
「…………」
僕は黙って小さく頷く。というかこれって恋バナだよな、普通ホテルでやるんじゃないのか。
「やっぱり」
「し、知ってたの?」
「うん、めちゃくちゃわかりやすい」
まさかバレていたなんて…………穴があったら入りたい…………
「まぁ、応援してるよ」
「え……引かないの?」
男の僕が男のまーくんをそういう意味で好きだって知ったら変だから何か言われたりするのかと思ったが、返ってきた言葉は全く違った。
「俺もゲイだよ」
「えっ」
「ああ、もう彼氏いるから北川に手は出さんよ」
「そうなんだ………」
「二人だけの秘密な」
なんか凄いカミングアウトな気がするけど悪いことは絶対してこなさそうで安心。
「二人で何話してんの?」
「梶も近いから離れろ」
二人でヒソヒソ話していると後ろから狸塚さんとまーくんが顔を出してきた。
「別に?修学旅行楽しみだねーって話してただけ、あと近くねえし嫉妬やめなよ」
「ホントならウチがはるぴの隣だったのにー」
「いや、俺が隣のはずだった」
また言い合いが始まってしまった。梶くんもまるで二人の声を聞きたくないのかイヤホンつけてスマホのゲームをしだすし相葉さんも他の女子と話しててこっちには気づいてないし………僕がなんとかするしかないのか
「じゃあ新幹線なら三人席のはずだし僕が真ん中座れば………」
「「それだ!!」」
二人は息を合わせ声を弾ませた。
納得したのか二人は嬉しそうにしながら席へと座る。梶くんはいつの間にかゲームをやめており、果実グミを食べていた。
「ん、北川も食う?」
「いや、大丈夫」
「そう」
うちの学校は校則が緩いからバスの中でも基本自由だ。騒ぎすぎないならいつお菓子を食べてもいいしゲームやトランプなんかもしている人が多い。
僕も目的地に着くまでお菓子食べてよう。
そしてちょうどお菓子を食べ終わったと同時にバスが停車し、先生から降りる合図が出た。
「はるぴ!早く新幹線乗ろ!」
「乗り遅れる前に行こ」
狸塚さんとまーくんはまだかまだかと待ちきれない様子だった。
「そ、そうだね………」
「はしゃぎすぎだろ、新幹線初めてかよ」
「「だってー」」
「なにこれどしたん」
事情を知らない相葉さんは戸惑っている様子だった。
「それが………」
僕がこれまでのことを話すと相葉さんは呆れた顔で二人を見る。
話も終わり、先生が新幹線に乗ろうと生徒たちを移動させ始める。狸塚さんは自分のクラスはまだかとソワソワしていた。まーくんはというとパッと見ではよく分からないがなんだか嬉しそう。一応幼馴染だしなんとなく勘でわかる。
そしてついに僕たちのクラスが新幹線に乗り込む。
自分たちの席に着くと早速真ん中の席に座らされ両端にまーくんと狸塚さんが座ってくる。
「やっと隣だ〜!」
「近い、はるくん嫌がるだろ」
さらに近づいて来ようとする狸塚さんを手で押さえ、まーくんは荷物を置く。
「お前らってなんでそんなに北川にこだわるわけ?」
向かいの席に座った梶くんがそう尋ねてくる。
「だってはるぴかわいいじゃん!」
「ふーん、真人は?」
まるでまーくんの意見が大事だと言わんばかりに狸塚さんの意見を軽く流し梶くんはまーくんを見つめる。
「えー………まぁ、大切な幼馴染だから?」
「え、お前ら幼馴染なの?」
「マジ?」
「えーそうなんだ!」
そういえば三人には言ってなかったな、まーくんが言ってるもんかと思ってたけどみんな知らなかったみたい。
僕が静かに頷くと三人は思っていた以上に驚いてくれた。
「え、中学とかも一緒?」
「いや中学は別、小学校の頃引っ越して離れ離れになった」
まーくんは狸塚さん達の質問攻めにもパッと答えられるが僕は陰キャなのもあってなかなか答えられない。
「二人は再会してどう思ったの」
「え?どうって、嬉しかったよ?小学校の頃のお友達に会えて嬉しくない奴なんていないよ」
(お友達…………)
まぁそうだよな、別に付き合ってる訳じゃないんだし………
「……北川は?」
「えっ……あ、僕も嬉しかった。と、友達……だもんね」
僕はまーくんとは違ってぎこちなく答える。勝手に好きになって、忘れてると勘違いもして………付き合うなんて夢のまた夢。僕なんかは似合わない、友達なら友達としちゃった方が楽だよね。
「……そう、仲良いんだ」
「うん、よく家にも遊びに行ったしね」
「………そうだね」
上手く言葉も出てこないな、本当に友達としか思われてないのかな…………なんてことを考えていると相葉さんが自分の鞄をガサガサと漁り、トランプを取り出した。
「みんなで大富豪しよ!」
「いいね〜」
「どう?ルール知ってる?」
相葉さんは心配そうな目でチラチラ見てくる。まーくんは快くOKし、僕もそれに続くように頷いた。
「ほらほら〜、大貧民の勇輝くんはもう勝てないんじゃない?」
「狸塚は強いカードいっぱいでずるいなー……なんて」
そう言って梶くんは手札から4枚のカードを場に出した。
「えっ、これって………」
「革命。残念でした〜、大富豪……いや、元大富豪の狸塚さ〜ん」
「ちょ、そこの革命は俺にも刺さる………」
そこから梶くんの大逆転劇が始まり最終的に狸塚さんが大貧民、まーくんが貧民、相葉さんが平民、僕が富豪で大富豪は終了した。
「もっかい!」
「やだ、弁当もらってくる」
「自分が買ったからって逃げやがって〜、ダサいぞ!」
「負け惜しみしてる方がダセえよ狸塚」
「もー!はるぴも何か言ってやってよ!」
「僕富豪だし…………」
「じゃー真人!」
「俺別に大貧民じゃないならなんでもいい」
「言っとくけど私も一緒だからね」
なんだか狸塚さんが少し可哀想な気も…………もう一回くらいならしてもいいかも?
なんて考えていると両手に弁当を抱えて梶くんが戻ってきた。
「ほら、弁当」
「ありがと………」
「どういたしまして、あといくら北川の頼みでも大富豪はやんねーからな絶対、飽きたし」
「えっ」
梶くんって心でも読めるのか………?
でないと何も言ってないのに僕がもう一回やってもいいかも?って考えてるとかそんなこと分からないんじゃ…………
とりあえずお弁当でも食べて気を紛らわせようと蓋を開ける。
中には大きなハンバーグが入っていて開けた瞬間、お肉の美味しそうな匂いが鼻を通った。
「朝からハンバーグかよ」
「もう12時半だぞ」
「「え!?マジ!?」」
思わず狸塚さんと声を合わせてしまった。まだ9時くらいかな?と思っていたからもうそんな時間になっていたなんて思ってもいなかった。そしたら優唯は今頃保育園で泣きながらご飯でも食べてるんだろうか…………
「おん、まぁ大富豪めちゃくちゃやってたけどな。先生に弁当貰いに来るの遅いって怒られたわ」
「そうなんだ………」
全然気づかなかった、確かになんかみんな後ろの方に行くな〜とは思ってたけどお弁当貰いに行ってたのか…………
「はるくん、ここ」
黙々とお弁当を食べていると急にまーくんが自分のほっぺを指さしてきた。キスでもしろってことだろうか?
「何が?」
「だから………」
そう言いながらまーくんは僕の頬に指を置いた。
「い、いきなりは…………」
「ほっぺにご飯粒ついてたよ」
「えっ…………」
そしてまーくんは自分の指につけたご飯粒をヒョイと口に入れた。
そこで勘違いしていた恥ずかしさからか顔が赤くなる。
「あー!はるぴのご飯粒ウチも欲しかったー!」
「キモ、俺か相葉と席交換しよ、北川に何されるかわからん」
梶くん辛辣だなぁ………って思ったけど流石にそう思われても仕方ないかも…………
「ごめんねはるぴ〜ウチキモくて」
「いや、全然………」
「ありがと!お詫びにウインナーあげる!」
「ありがとう………」
狸塚さんがウインナーを僕のお弁当に移したと同時に先生の声がかかる。
「もうすぐ到着なので、ゴミがある人は持ってきてくださーい!今食べてる人は喉に詰まらせない程度に急いで食べちゃってくださーい」
僕ら以外はみんな食べ終わっているみたいでほぼ名指しだ。目立つのもあれだしみんな急いでかきこみ、一瞬でお弁当が空になる。
ゴミを捨てに行くと「意外と早いのね、最後に取りに来たのに」とちょっと皮肉交じりに注意されてしまった。
みんなも先生にブツブツ文句を言いながら席へと戻った。
そして遂に目的地へと到着し、荷物を持って外へと降りた。
駅には平日の昼でも人が多く、ベンチには学生の僕らを見て優しく笑いかけて手を振ってくるおばあちゃんも座っていた。
「やっと観光だよ」
「疲れたー」
「でもあっちよりかは涼しくていいね」
「それな〜」
夏場だから暑いのを覚悟していたが流石は北海道、暑くはあるがまだあっちに比べればマシだ。
「あんたら修学旅行生だっぺか!元気じゃのぉ!ほれ、孫がいらんちゅうからよいとまけやるっちゃ!」
時計台の前で話していると急におじいさんから声をかけられロールケーキのようなお菓子を手渡される。
「あのこれって…………」
「よいとまけっつーなまらうめぇ菓子だっペよ!黒実鶯神楽っちゅー果物使っとうんよ!」
「やば!じいちゃんめっちゃ方言すげーじゃん!」
「ハッハッハ!お嬢ちゃん達はどっから来たんばい?東京か!」
「惜しい!千葉なんよね!」
「千葉か!なんだったか、孫から聞いた話じゃ東京水着ーランド?みたいなのあるとこか!」
「あはは!水着ランドはやべー!ネズミーランドだよ!」
陽キャ達は地元の饒舌なおじいさんにもすぐ心を開けるんだから凄い。僕なんてついて行くのがやっとだ。
「ねね!オススメの観光スポットとかない?」
「観光スポットつったら富良野だべ!」
おじいさんは富良野はラベンダーが綺麗だとかあまりにも長々と話だそうもするもんだから慌てて狸塚さんが話を遮る。
「富良野は別の日行くから〜この辺で!」
「この辺つったら狸小路行ったらいいさ!あそこのパチンコよく当たんだ!」
パチンコの話………高校生だから打てないしわかんないけど狸小路ってところがいいらしい。
「ごめん、ウチら高校生だからパチ打てねぇ!でもありがと!」
「おう!けっぱれよ!」
「けっ…………って何?」
「ん?ああ!まぁ頑張れっちゅー意味らしいな!」
「へぇ、ありがとなじいさん」
僕たちはおじいさんに手を振って狸小路へ向かった。
狸小路は色々なお店がある商店街でゲームセンターも何件か入っている。
修学旅行で商店街なんて行く生徒は少なく周りに同級生は見当たらない。
「人多いね〜」
「はぐれんなよ」
「わかってるよ〜」
「じ、じゃあどこ行く?」
飲食店からドラッグストア、コンビニ、ゲームセンターなど色々なお店があるからどこから行くべきか迷う。
みんなの行きたいところから行き楽しめればそれでいい。
相葉さんは何かいい所を見つけたようでスマホの画面を僕たちに向ける。
「じゃあ朝夕ってカフェあるみたいだからそこ行こ!パンケーキ美味そう!」
「いいね、はるくんも食べよ」
「うん」
そしてそのままみんなで朝夕に向かった。
「ちょうど並んでなかったね!ラッキー!」
「何頼むー?ウチはケーキとオレンジジュース!」
「俺もケーキ、とそば茶」
「私ケーキとコーラで」
残るは僕とまーくんだけ…………お弁当食べた後だからそこまで多くは食べれないし…………僕もケーキでいいかな。
「じゃあケーキとコーラで」
「じゃあ俺もこの子と一緒で」
そう言ってまーくんは僕の方に手を向けた。
「えっ」
「ご注文ありがとうございます、本日のケーキは3種類ございましてチョコテリーヌ、キャラメルクリームのバナナケーキ、ピンクグレープフルーツとカスタードのタルトがございます」
「チョ…チョコ?」
「ウチらチョコテリーヌで」
「俺はバナナケーキ」
三人はあっという間に決め終わり残るは俺とまーくん待ち、まーくんは僕と一緒って言ってたし………僕が決めないとだよな。
「じゃあピンクグレープフルーツのやつで………」
「そちらの方もピンクグレープフルーツでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「はい、ご注文承りました!出来上がるまで少々お待ちください!」
そう言って店員さんはキッチンの方へと戻って行った。
「ウチもはるぴと一緒にすればよかった〜」
「ダメ、俺だけの特権」
「ブーブー!真人のケチ!」
まーくんと狸塚さんがそう話していると隣で相葉さんが僕に声をかけてきた。
「真人くんって重いね」
「え?そうかな………昔からあんな感じだよ?」
「そうなの?どんな感じ?」
「例えば………」
小一の頃、あの時は給食の時間だった。
「今日はるくんの好きなイチゴだね!」
「うん!」
給食は自分で運ぶタイプで配膳カートの前はよく混んでいた。
そして全て貰い終え、席に戻ろうとした時だった。
「待て待て〜!」
「わっ!」
後ろではしゃいでいたクラスの子がぶつかって僕は盛大に転んでしまった。
「大丈夫!?北川くん!!」
「僕の………ご飯………」
「ほら!あなたもごめんなさいって謝りなさい!」
「ごめんなさい………」
床にぶちまけられたご飯を先生が片付けみんなの視線が僕に集まった。
「他のクラスから分けてもらいましょうか!」
「うん………」
「そんなことしなくていいよ!俺のあげる!」
そう言ってくれたのはまーくんだった。
「え、でもそれじゃあ畑中くんのが」
「一緒に食べよ!イチゴもはるくんにあげる!」
「ほんと?ありがとう」
あまりにも本気すぎるのを察したのか先生は自分の分をまーくんのお皿に少し盛って「仲良くね」と言ってくれた。
「はい、あーん」
「んぐ……」
「おいしー?」
「うん!」
僕が元気に答えるとまーくんは嬉しそうに自分もとスープを飲む。
そして遂にデザートのイチゴが残った。ありがたいことに先生がイチゴまで分けてくれたのでしっかり二人分お皿に盛られていた。
「はるくんイチゴ好きだもんね、俺のあげるー」
「えっ、まーくんのだからまーくん食べなよ」
「いいの!はるくんが嬉しいなら俺も嬉しい!」
ここまで来て貰わない方が失礼かもと思い僕は恐る恐るイチゴに手を伸ばす。
「俺もイチゴ食う!」
そう言って隣に現れたのは同じクラスの男子だった。
「ダメ!これははるくんの!」
「でも真人くんいらないんでしょ!」
「違うの!はるくんにしかあげないの!俺の特権!」
そしてまーくんはフォークでイチゴを刺し、僕の口の前まで持ってきた。
「はい、あーん」
「ありがと」
そのままパクリと口の中へ運んだことでその時の男子は先生に注意されたのもあって諦めて自分の席に戻っていった。
「………って感じ?」
「その頃から重かったんだね〜」
「何の話〜?」
僕と相葉さんが話している間にまーくんが覗き込んで来た。
「別に〜北っちから昔話聞いただけ」
「北っち……?」
また新しいあだ名が………まぁ、いいんだけど
「お待たせ致しました〜ご注文の本日のケーキとお飲み物になります〜!」
話に夢中になっている間に注文していたケーキが到着した。どれも美味しそう。
「写真撮ろ!ウェーイ!」
「「「ウェーイ!」」」
「う、うぇい」
「カシャ」とシャッター音が鳴ったのを確認するとみんなは一斉にフォークを手に取りケーキを食べ始める。
「ここのケーキ美味いね」
「ね〜、流石は北海道?牛乳とか強いんだよ」
「そうなんだ?」
そして僕は最後の一口を食べ終えみんなの方を見るが、どうやら一番最後だったようで僕がフォークを置いた途端にみんなが一斉に席を立ち、梶くんが先に口を開いた。
「じゃあ俺払っとくから先出といて」
「り〜」
「おけ」
「ほい」
それに対して三人は二文字で返事をする。LIMEでも見たがみんな色々な返事を略すことが多い気がする。おかげで僕もなんとなくは覚えることができた。
「ありがと………ちょっと待ってね」
僕はそう言って自分の財布から自分の食べた分の代金を出そうと財布を漁る。
「あーいいよ、金は後でもらう、観光の時間短くなるし」
「そ、そう?なら先行ってるね」
「うん、外で待っとき」
梶くんに促され僕はまーくんたちに続くように店を出た。
会計も終え、残り時間も刻一刻と迫ってきている。
「次どこ行く?」
「んー、テレビ塔とか?行ってないよねあそこ」
「あそこ有料らしいよ」
「じゃあ大通公園でいいや」
「おっけー!」
なんて話をしていると気づけばもうあと1時間もない。僕たちは走って大通り公園へと向かうのであった。
「北海道ってご飯美味しいけどここっていう観光スポットとかそこまでないのかな〜?」
「まぁ広すぎるだけじゃね?富良野とかもあるし、札幌限定ってなったら意外とないんじゃないの?」
「それはある」
ベンチに座って残りの少ない時間を潰していると一件の電話がかかってきた。
名前を見た瞬間なんとなく要件はわかったのだが出てもいいのだろうか………
「あ、これ出てもいいのかな」
「いいんじゃない?先生見てないし」
「じゃあ………ちょっと電話出てくる」
「はーい、行ってらっしゃい」
そして僕はみんなと少し離れた場所で通話を始めた。
「にーぢゃ…………」
やっぱり………さっきまで泣いていたんだろう、いつもより声がガラガラで目も真っ赤に腫れている。
「兄ちゃん早めに帰るからな、また夜に電話していいよって先生も言ってくれたし元気だして」
優唯は目をうるうるさせながらも激しく頷く。
だが、勢いが強すぎたのかおでこで通話終了ボタンを押してしまいそこで通話は終わってしまった。
「終わった?もう時間だから行かないと」
「あ、うんじゃあ行こ」
まーくんに呼ばれ、僕はみんなの元へ戻っていく。LIMEには「時間だからまた後で」と送信し、スマホをカバンにしまった。
そして、一日目も終わりが近づきバスはホテルへと到着した。
「はーい、じゃあ一旦ホールの方に向かいまーす、礼儀を重んじて失礼のないよう静かに移動しなさい」
「まだ部屋行けないのかー」
「ね〜、早くるなっち達とUMOしたかったのに〜」
そう言って狸塚さんは自分のカバンからUMOを取り出す。
「はるくんは何か持ってきたの?ゲームとか」
「いや、家にそういうのなくて………でかいおもちゃならあったんだけどさすがに持って来れない」
「そっか〜、弟くんと遊んでるの?それ」
「うん、優唯人生ゲームとか好きだよ」
「えっ、あの子四歳だよね?」
「いや、三歳だよ…………お母さんとお父さんも人生ゲーム好きだからよく一緒に遊んでるんだ、とは言ってもルーレット回すのが好きなだけだと思うけど」
家で人生ゲームをやると優唯が毎回ルーレットを回してくれる。あのパチパチ音が好きなんだろう、って伝えると「確かに」と納得した様子だった。
「昔はるくんも回すの好きだったもんね」
「えっ、そうだった?」
まずい、全然覚えてない。けどまーくんが嘘つくとは思えないし…………多分、いやきっとそうだったんだろう。
ホールでの話も終わり、夕食も食べ終え遂に部屋移動。
夕食中、写真ばっかり撮って先生に注意されたのが効いたのか狸塚さんは少しションボリとしていた。
僕の部屋のグループはまーくんと梶くんの他に烏野くんが入ることになっている。
どうせならと四人で部屋に行こうと鍵を貰いに行くと先生が申し訳なさそうに駆け寄ってきた。
「ごめんね、部屋手違いで二人部屋だったみたいで誰か二人は他の部屋行ってくれる?ホテルの方にも事情説明して布団は届けて貰ってるから」
「あーじゃあ烏野と俺別の部屋行くから北川と畑中で同じ部屋泊まりなよ」
そう即答したのは梶くんだった。烏野くんも「いんじゃね」と適当だし…………
ふとまーくんの方を見ると目が合ってしまった。
「あっ」
「はるくんはどう?俺は別にいいけど」
「え、いや別にまーくんがいいなら…………」
………ってなんでそんなこと言っちゃったんだ。絶対気まずくなっちゃいそうな気がする。
でも、先生にも感謝されて鍵渡されちゃったしもう引くに引けない…………
渡された鍵の部屋に入ると一番最初に目に入ったのは窓から映る綺麗な景色…………ではなく大きなダブルベッドだった。
「……………」
「……あ、ここのホテルテレビあるじゃん!」
「あ、うんそうだね」
「はるくんも見る?」
「後で見ようかな、今は休みたい」
観光で疲れたのもあって僕はダブルベッドなこともすぐ忘れベッドに倒れ込む。
「そっか、じゃあ風呂の時間になったら起こすね〜って言ってもすぐ時間になると思うけど」
「別に………眠くは…………な…………」
眠くはないと言いたいが瞼は限界に近い。今日は色々あったからもう甘えて起こしてもらった方がいいかもしれない。
「おやすみ、はるくん」
「ん……………」
そのまま、僕は眠りについてしまった。
けれどやはりすぐ時間は来たようで
「はるくーん、起きてー」
「もう時間………?」
「いや、まだ五分ある」
「じゃああと五分…………」
漫画でしか聞かないようなセリフ、初めて使った。
僕はまた寝ようと目を閉じる。
「まだお風呂の準備してないでしょ」
「…………確かに」
まーくんに正論パンチをされ重い体を何とか起こす。
「おはよ」
「うん、おはよ」
「俺準備終わらせたからはるくん待ってるね」
「ありがと…………」
これがイケメンか………準備してないからってギリギリまで寝かしてくれて五分前に起こしてくれるし、待ってくれるし、ほんと優しいな。
(友達としか思われてないのが残念…………)
「準備終わったから行こ」
「おっけ、なんなら持とうか?」
「それは大丈夫」
「へーい」
部屋を出るとちょうど梶くん達もお風呂に向かうみたいでばったり出会った。
「よっ、北川と畑中一緒に行こうぜ」
「おう、いいけどあっちは?」
まーくんは恐らく梶くんと同じ部屋と思われる男子たちを指さす。
「いいのいいの、アイツらも同じ班みたいだし畑中達と行くつったらOKしてくれた」
「ふーん」
「あ、畑中くん!畑中くん今からお風呂?」
突然前から来た女子に声をかけられる。恐らく別のクラスの人だろう。
「誰?」
「私二組の石崎円香っていうの、よかったらピンスタ交換しない?」
そのまま石崎さんは前に立ち塞がりまるではいを押さないと進めない選択肢みたいに避けようとしても動きを合わせてくる。
「はぁ………俺ピンスタやってない」
「じゃあBeeRealでもいいよ!」
「やってない、風呂行けんからどいてくれん?」
「そっか………ごめんね、邪魔しちゃって」
さっきまで必死だった石崎さんは無理だと察したのか残念そうに去っていった。
「別に教えてやりゃよかったんじゃね」
「いや、無理。狸塚とか相葉ならまだしも知らねえやつとは交換しない」
「まぁわからんくもないけど〜、お前重いし尚更」
「あのさ、この後ピンスタとかのこと教えてほしくて…………ダメ?」
僕はそういうSNSに触れたことがないからついていけない。そうするとまた距離が開いてしまうのではないかと心配になってしまった。
「いいよ、はるくんにならなんでも教えてあげる」
「ありがと」
そんな話をしていれば大浴場へと到着し僕たちは着替え始めた。
「じゃあお先に」
先に着替え終わった僕は体が冷える前にとお風呂場へ向かった。
「……はるくんって細くない?」
「えっ………」
「確かに、何キロあるの?」
「普通に47だけど?」
僕がそう答えると二人はありえないと言わんばかりの目で見つめてくる。
確かに昔から細いと言われたことはあったがそこまでやばいのかな…………
「身長は?」
「164だけど」
「ちゃんと食べなよ、北川」
「食べてるよ」
僕はそのまま梶くんとまーくんの心配をよそにお風呂場へと入っていった。
(そんなに細いかな…………)
あんなに言われたんだから気になってしまう。
浴槽につかりながら自分の腰に手を当てる。
周りの男子たちと見比べると確かに括れすぎているかもしれない。
「これから太れるだろうし、気にしすぎなくてもいいんじゃない?」
そう言いながら隣に座ってきたのはまーくんだった。
「でも………細いと男っぽくないじゃん」
こんなんじゃまーくんに振り向いてもらうなんて…………
「俺はどんなはるくんでも大好きだよ?細いだの関係なく」
「………えっ」
「なんなら俺は細い方がタイプだな、いざと言う時に運びやすいし」
「運びやすい??」
僕は荷物か何かなのか、一瞬「大好き」に反応していた僕が恥ずかしい。
海外でも「I love you」は友達にも使うって英語の先生も言ってたし。
「まぁガタイのいい北川とか想像できないしな」
そう言いながら今度は梶くんが隣に座ってきた。
「確かに梶くんってよく見たらムキムキだね」
「あ?これくらい部活やってりゃ普通だよ、筋トレさせられるもん」
確かに運動部だと普通なのか………僕は家庭科部だから筋トレとか縁がないけど梶くんは野球部だから筋トレしないとまず残れないよな。
「はるくんって何部なの?」
「え、家庭科部だけど」
「へぇ〜、家庭科部って何するの?」
「お菓子とか作るよ、この前梶くんにも差し入れあげたし」
「そうだなクッキー美味かったわ、ありがとう」
梶くんはそう言って僕の方を見て微笑んだ。
「どういたしまして」
梶くんが笑うなんて珍しいな、部活中なんて仏頂面だけどそこがいいって女子から有名なもんだから笑った顔なんて中々見れない。
「俺もはるくんのお菓子食べたい」
その話にまーくんは興味津々なようだ、実際部活をやってることは伝えていたが何部なのかは伝えてなかったからなぁ。
「うん、じゃあ今度作ったの持って………」
「俺も家庭科部入っていいかな?」
「えっ」
いきなりそこに来るのか………部長達は構わなそうだけど僕が落ち着いてられるか心配だ…………でもダメとも言えないし…………僕は小さく頷くとまーくんは嬉しそうに「よろしくな」と言ってくれた。
「じゃあ、先上がるね売店のとこで待ってる」
「はーい」
「気をつけてね」
僕は二人を後にし先にお風呂場を出てホテル内の売店へと向かった。
「あー!はるぴじゃん!やっほー!」
「あ、狸塚さん………やっほー」
売店に寄ると片手にレジ袋を提げた狸塚さんとばったり遭遇した。
「光希でいいよ〜、なんならみっちゃんとか!」
「じ、じゃあみっ……ちゃん?」
「やーん!はるぴマジでかわいい〜!」
「じゃあね、まーくん達待ってるから」
「うん、ウチもるなっち先に部屋行ってるみたいだから戻るわ〜またね!」
僕は手を振りながら部屋へ戻る狸塚さんに手を振り返し売店の方に戻った。
「あ、これ美味しそう」
ふと目に入ったじゃがポックルを手に取るとまーくん達もお風呂から上がったようでちょうど売店へと到着した。
「北川それ買うの?」
「うん、美味しそうだから」
「俺もお土産買お」
まーくんはそう言って片っ端からお菓子の箱を取ってレジへと持って行った。
「お会計4万3280円になります」
「カードで」
「はい、一括でよろしかったでしょうか?」
「お願いします」
「えっ、カード!?」
「畑中っておぼっちゃまだったんだな」
知らなかった、僕の住んでるマンションは別にそこまで高くもないしお隣ってことで失礼かもしれないが別にそこまでお金持ちだなんて思ってもなかった。
「お次のお客様どうぞ!」
「あ、お願いします」
僕もチャチャッと会計を終わらせ、二人と一緒に部屋へと戻って行った。
「じゃ、二人部屋だからって変なことすんなよ」
「しねーよ、じゃあ戻ろっかはるくん」
「うん」
そして僕たちは梶くんが隣の部屋に入っていったのを見て自分たちの部屋へ戻って行った。
正直、疲れと中途半端に寝たのと夕食が組み合わさってすごく眠い。
僕は荷物を置くとそのままベッドの上に寝転んだ。
「ん、もう寝る?」
「いや、もうちょっと起きてようかな、もうすぐ電話も………」
噂をすれば突然僕のスマホに一件の着信が入った。
「にーちゃ!」
「優唯〜大丈夫だったか?」
「う、ゆい、にーちゃいないのさみしい………」
優唯は眉を八の字にして顔でも寂しさを訴えてくる。
「お、弟くんじゃんこんばんは」
後ろから見ていたまーくんが通話に顔を出してくる。
でもやっぱり優唯はまーくんを警戒しているようでいきなり通話を切られてしまった。
「えっ」
「俺、弟くんから嫌われてるのかな?」
「はは………多分警戒してるんだと思う」
「そっか………」
僕はスマホを隣の小さな机の上に置き、瞼を閉じ始める。
「ん、電気消そうか?俺邪魔にならないように梶んとこ行くし」
「うん、ありがと…………おやすみ…………」
そして僕はまーくんが部屋を出たのを見て今度こそ深い眠りについたのであった。


