・
・【03 七月十九日】
・
視界に入る色は全てくすんで見える世界。
あぁ、ここは……。
「一昨日ぶりだね」
私の目の前にはヨネコが立っていて、私は茶色に染まり切ったパジャマを着ていて、靴も前回と同じ感じだ。
ヨネコは少し咎めるように、
「勝手に休んだりしているのがバレると非国民扱いされちゃうよっ」
と言ってきたんだけども、そんなことよりこの世界に来てしまったことに絶望した。
するとヨネコが、
「そんな顔しないで。今日は高等女学校は休みで、まずは千人針をする日だよっ、他にやることがいっぱいあって大変!」
「千人針?」
「何でリエってばそんな知らないの? 千人針は重要なわたしたちの責務だよ!」
「ど、どうするんだっけ?」
「これからお国のために戦う兵隊さんのために、白い木綿に赤い糸の玉を作るんだ。針で縫ってね!」
私は小首を傾げながら、
「なにそれ、おまじない?」
「おまじない? というか鼓舞するんだよ! 絶対日本は勝つからね!」
これ、言ったほうがいいのかな……でも言ったところで信じてもらえないだろうし、最悪非国民だとのたうち回れて、私は投獄されて処刑?
いやいや絶対言わないほうがいいな、これは言わないほうがいい、日本が戦争で負けるだなんて。
とにかく私はこのヨネコの後ろをついていって、見様見真似でやるしかなかった。
いつの間にか目の前にはこれから出兵するのだろう、坊主刈りの少年がいて、その子が渡してきた既に赤い玉が縫われている木綿にヨネコも私も一個縫い付けた。
裁縫は授業が中学生の時にあったので、普通にできた。
でも本当に、一体これの何になるのだろうか、それも女子の役割らしい。千人針は。
今の時代ならジェンダー差別というか、そういうことになるだろうなぁ、女子のほうが気合いが入るとか男子的な発想だもんなぁ。
千人針が終わると、また映画のカットのように別の場面にいった。
気付いたら防災頭巾のようなモノをかぶって、バケツリレーのようなことをしていた。
誰かが激しく動くたびに砂埃が舞うので、正直マスクがほしいけども、この炎天下でマスクもキツイか、と思う。
というかこんな一杯の、貧弱なバケツを使ったリレーで、爆撃というモノをどうにかできるのだろうか。
そもそも爆撃、爆弾だよね? 爆弾って爆発するわけだから、こんなバケツリレーで何をするんだろうか、それとも爆弾じゃないのかな。
もうちょっとちゃんと調べたほうがいいのかもしれない。
それにしても水の入ったバケツは本当に重い。
擦れて皮が剥けた手のひらをまるで引っ掻くようにバケツの取っ手の部分が皮を削っていく。
どんどん荒れていく感じが痛みを通して分かる。つらい、きつい、どうしようもない。
どうせ負けるのに。というか私、爆弾のシーンの時にはさすがにいないよね、どうしよう、いたらマジでどうしよう。
この世界で死んでしまったらどうするんだろうか、手のひらの皮は三割程度になっていたけども、死んだらまあ死ぬだろうなぁ、背筋がゾッとした。
ヨネコは健気にバケツリレーをする。
「よいしょ! よいしょ!」
としっかり声掛けをしている。
私が無言でやっていると、
「よいしょって! リエ!」
と励ますように声を掛けてくる。
でも私は不安ばかりでどうしようもなかった。
私はふとヨネコに小声で、
「これって意味あるの?」
と言ってしまうと、ヨネコは少しキッと目尻を尖らせて、
「そういうこと言っちゃダメ……わたしたちはできることをやるだけだよ!」
と最初の台詞は私に合わせて小さめに、後半の台詞は大きな声で言うと、周りもそれに呼応するように「おー!」と叫んだ。
その声はみんな女性だった。
男性は一体どこに、そもそもバケツリレーのような力仕事は……ってこれもジェンダー的にアウトか。
でも実際問題、何でこんな女性ばかりなのだろうか。いやほんの少しだけ老人の男性も……みんな、出兵してしまったということ? ここまで?
いや十四歳くらいの男の子がいたって別にいいのに、もしかするとそんなに低年齢化していたということ? 戦争へ行く人たちが。
そんな状態で、勝てるはずないじゃん、気付かないのかな、気付かないんだろうな、きっと。
そうこうしている間にまた記憶が一瞬飛ぶと、別の場面になっていた。
相変わらずくすんでいる色はそのままに、でも何か、それでも、というかそれなりに街っぽい場所にいる。
大きな建物の前にヨネコと一緒に立っていて、その周りにあるお店屋さんみたいな建物の柱に何か紐を結び付けている。
その紐は道路に大きく伸びていて、一体何をしているのかサッパリ分からなかった。
でも理論は分かる。
多分この紐をここにいる大勢で引っ張ったら、あの建物の柱は倒れて、すると建物自体が崩れて、って。
だからって何で爆弾で既に破損しているわけでもないのに、この立派で綺麗な建物を崩そうとしているのかが全く理解できなかった。
私はヨネコへ、
「これ、今から何するの? やっぱり紐引っ張って柱を倒すの?」
「そうだよ」
「えっ、お祭り?」
「まあもはやお祭りみたいなもんだよねぇ」
「そういう精神的な話じゃなくて、実際はどうなの?」
「あぁそうか、これもリエは知らないかぁ、でもうん、これは難しいところだからねっ、教えてあげる! これは建物疎開だよ!」
私は全く聴き慣れない言葉で、アホみたいに、
「建物、疎開……?」
とオウム返ししてしまうと、ヨネコはうんうん頷きながら、
「そう! 建物疎開! ほら、扉とか開いてるから分かると思うけども、家財道具はもう無いわけじゃない?」
「そうだね、空き家みたいに家具は無いね」
「家財道具は既に疎開させているんだ」
「じゃあ引っ越しということ?」
「まあそれに近いかな。実際は建物を疎開させて、爆弾が来た時に町の延焼を防ぐんだ」
町の延焼を防ぐために先に木造の建物を移動させておくということ?
そんなことしていたんだ、空襲が起きる前から建物を移動させるおくだなんて、聞いたことが無かった。
ん? でも、
「ヨネコ、柱を引っ張って倒すって私言ったでしょ?」
「うん、その通りだよ」
「建物を疎開させるなら、運び出さなきゃダメじゃん。柱を倒したら家屋が倒壊しちゃうよ」
「そうだよ、建物疎開って要は建物を壊すことなんだよ」
「壊すの? 移動させるんじゃなくて!」
「だってそんなことできないじゃん」
いや今の技術では建物をそのまま移築する的な、観光地で言うところのロックハート城的な……いや、今の時代に、それも庶民レベルにそんなものがあるわけないのか。
ヨネコは指を差しながら、
「この大きな建物が警察署で、この警察署への延焼を防ぐために雑貨屋さんは今、取り壊すの」
雑貨屋さんを取り壊すだなんて、このお店屋さんは一体どんな気持ちなんだろうか。
まだ爆弾で壊されるなら諦めもつくか、否、それでも諦めがつくはずないじゃん。
戦争関連で何かが奪われて、諦めがつくことなんてないよね、こんなこと、庶民レベルではしたいはずがないんだから。
ヨネコが私へ、
「そろそろ準備できたっぽい、わたしたちも引っ張るよ!」
と快活に言うんだけども、私はそんな壊す気になんてならなくて。
もし自分の家がこんなことしないといけなくなったら、まず警察署を恨むと思う。
コイツは残して、何で私の家はって思う。
ヨネコに促されるまま、紐を掴んだわけだけども、握力が手に乗らない。
それは手のひらがバケツリレーの時にさらに荒れたせいか、それとも心持ちのせいなのかは分からなかった。
一応引っ張ているフリをするわけだけども、もう紐を握るだけで手が痛い。
掛け声と共に柱を倒すため、引っ張っていく。何この地獄。誰得?
柱が倒れると大きく建物が傾き、歓声があがる。
何を楽しんでいるの? 本当にこれが楽しいの? そんなに娯楽が無いの? 壊れて何がそんな声を出せるの?
私がおかしいのか、いやいや戦時中というものがおかしいに違いない。みんなおかしくしてしまうんだ、と悟った。
柱という柱を引っ張って倒したら、みんなでゴミを取り除いていく。
そうゴミ。
さっきまでは立派な雑貨屋さんだったのに、もう全てがゴミになってしまった。
みんな必死で運ぶなか、一人だけ呆然とその建物を見ている人がいた。
あの人がこのお店屋さんの店主だったのか、はたまたこのお店屋さんに思い入れがあった人なのかは分からないけども、大粒の涙をこぼしていた。
紐を引っ張っている時、そして壊れた瞬間は、あんなに熱気があったのに、よく周りを見渡すと今はみんな、辛い顔をしていた。
『みんなそうなんだ、仕方ない』という声が聞こえてきそうだ、誰も何も喋っていないけども。
町総出で多分やっていると思うんだけども、男性が本当に少ない。
いや警察署の人っぽい人は男性だけども、やっぱりそのほとんどが女性だ。
本当に、本当に戦争しているんだ、ということが身を染みて感じた。
空はこんなにも晴天なので、と思ったところでサイレンが鳴った。
私はビクついてしまったが、みんな当たり前のような面持ちでたいしてリアクションもしていない。
これが当たり前なんて考えたくない、これが当たり前になる未来なんて絶対嫌だと思った。
そのタイミングで私は目を覚まして、気付いたら朝になっていた。
勿論机に突っ伏して寝ていた。
寝る気なんて無かったのに、まるで強制的に落ちるように眠っていた。
机で寝ていたので、腰がバキバキに痛いし、手のひらを見ればよりボロボロになっていて。
パジャマも昨日よりは茶色くなっているような気がする。
もうどうしたらいいんだ、何をどうすればいいのか一切分からない。思考停止。それが最善手だとまるで脳が言うように。戦時中と一緒なんじゃないか?
・【03 七月十九日】
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視界に入る色は全てくすんで見える世界。
あぁ、ここは……。
「一昨日ぶりだね」
私の目の前にはヨネコが立っていて、私は茶色に染まり切ったパジャマを着ていて、靴も前回と同じ感じだ。
ヨネコは少し咎めるように、
「勝手に休んだりしているのがバレると非国民扱いされちゃうよっ」
と言ってきたんだけども、そんなことよりこの世界に来てしまったことに絶望した。
するとヨネコが、
「そんな顔しないで。今日は高等女学校は休みで、まずは千人針をする日だよっ、他にやることがいっぱいあって大変!」
「千人針?」
「何でリエってばそんな知らないの? 千人針は重要なわたしたちの責務だよ!」
「ど、どうするんだっけ?」
「これからお国のために戦う兵隊さんのために、白い木綿に赤い糸の玉を作るんだ。針で縫ってね!」
私は小首を傾げながら、
「なにそれ、おまじない?」
「おまじない? というか鼓舞するんだよ! 絶対日本は勝つからね!」
これ、言ったほうがいいのかな……でも言ったところで信じてもらえないだろうし、最悪非国民だとのたうち回れて、私は投獄されて処刑?
いやいや絶対言わないほうがいいな、これは言わないほうがいい、日本が戦争で負けるだなんて。
とにかく私はこのヨネコの後ろをついていって、見様見真似でやるしかなかった。
いつの間にか目の前にはこれから出兵するのだろう、坊主刈りの少年がいて、その子が渡してきた既に赤い玉が縫われている木綿にヨネコも私も一個縫い付けた。
裁縫は授業が中学生の時にあったので、普通にできた。
でも本当に、一体これの何になるのだろうか、それも女子の役割らしい。千人針は。
今の時代ならジェンダー差別というか、そういうことになるだろうなぁ、女子のほうが気合いが入るとか男子的な発想だもんなぁ。
千人針が終わると、また映画のカットのように別の場面にいった。
気付いたら防災頭巾のようなモノをかぶって、バケツリレーのようなことをしていた。
誰かが激しく動くたびに砂埃が舞うので、正直マスクがほしいけども、この炎天下でマスクもキツイか、と思う。
というかこんな一杯の、貧弱なバケツを使ったリレーで、爆撃というモノをどうにかできるのだろうか。
そもそも爆撃、爆弾だよね? 爆弾って爆発するわけだから、こんなバケツリレーで何をするんだろうか、それとも爆弾じゃないのかな。
もうちょっとちゃんと調べたほうがいいのかもしれない。
それにしても水の入ったバケツは本当に重い。
擦れて皮が剥けた手のひらをまるで引っ掻くようにバケツの取っ手の部分が皮を削っていく。
どんどん荒れていく感じが痛みを通して分かる。つらい、きつい、どうしようもない。
どうせ負けるのに。というか私、爆弾のシーンの時にはさすがにいないよね、どうしよう、いたらマジでどうしよう。
この世界で死んでしまったらどうするんだろうか、手のひらの皮は三割程度になっていたけども、死んだらまあ死ぬだろうなぁ、背筋がゾッとした。
ヨネコは健気にバケツリレーをする。
「よいしょ! よいしょ!」
としっかり声掛けをしている。
私が無言でやっていると、
「よいしょって! リエ!」
と励ますように声を掛けてくる。
でも私は不安ばかりでどうしようもなかった。
私はふとヨネコに小声で、
「これって意味あるの?」
と言ってしまうと、ヨネコは少しキッと目尻を尖らせて、
「そういうこと言っちゃダメ……わたしたちはできることをやるだけだよ!」
と最初の台詞は私に合わせて小さめに、後半の台詞は大きな声で言うと、周りもそれに呼応するように「おー!」と叫んだ。
その声はみんな女性だった。
男性は一体どこに、そもそもバケツリレーのような力仕事は……ってこれもジェンダー的にアウトか。
でも実際問題、何でこんな女性ばかりなのだろうか。いやほんの少しだけ老人の男性も……みんな、出兵してしまったということ? ここまで?
いや十四歳くらいの男の子がいたって別にいいのに、もしかするとそんなに低年齢化していたということ? 戦争へ行く人たちが。
そんな状態で、勝てるはずないじゃん、気付かないのかな、気付かないんだろうな、きっと。
そうこうしている間にまた記憶が一瞬飛ぶと、別の場面になっていた。
相変わらずくすんでいる色はそのままに、でも何か、それでも、というかそれなりに街っぽい場所にいる。
大きな建物の前にヨネコと一緒に立っていて、その周りにあるお店屋さんみたいな建物の柱に何か紐を結び付けている。
その紐は道路に大きく伸びていて、一体何をしているのかサッパリ分からなかった。
でも理論は分かる。
多分この紐をここにいる大勢で引っ張ったら、あの建物の柱は倒れて、すると建物自体が崩れて、って。
だからって何で爆弾で既に破損しているわけでもないのに、この立派で綺麗な建物を崩そうとしているのかが全く理解できなかった。
私はヨネコへ、
「これ、今から何するの? やっぱり紐引っ張って柱を倒すの?」
「そうだよ」
「えっ、お祭り?」
「まあもはやお祭りみたいなもんだよねぇ」
「そういう精神的な話じゃなくて、実際はどうなの?」
「あぁそうか、これもリエは知らないかぁ、でもうん、これは難しいところだからねっ、教えてあげる! これは建物疎開だよ!」
私は全く聴き慣れない言葉で、アホみたいに、
「建物、疎開……?」
とオウム返ししてしまうと、ヨネコはうんうん頷きながら、
「そう! 建物疎開! ほら、扉とか開いてるから分かると思うけども、家財道具はもう無いわけじゃない?」
「そうだね、空き家みたいに家具は無いね」
「家財道具は既に疎開させているんだ」
「じゃあ引っ越しということ?」
「まあそれに近いかな。実際は建物を疎開させて、爆弾が来た時に町の延焼を防ぐんだ」
町の延焼を防ぐために先に木造の建物を移動させておくということ?
そんなことしていたんだ、空襲が起きる前から建物を移動させるおくだなんて、聞いたことが無かった。
ん? でも、
「ヨネコ、柱を引っ張って倒すって私言ったでしょ?」
「うん、その通りだよ」
「建物を疎開させるなら、運び出さなきゃダメじゃん。柱を倒したら家屋が倒壊しちゃうよ」
「そうだよ、建物疎開って要は建物を壊すことなんだよ」
「壊すの? 移動させるんじゃなくて!」
「だってそんなことできないじゃん」
いや今の技術では建物をそのまま移築する的な、観光地で言うところのロックハート城的な……いや、今の時代に、それも庶民レベルにそんなものがあるわけないのか。
ヨネコは指を差しながら、
「この大きな建物が警察署で、この警察署への延焼を防ぐために雑貨屋さんは今、取り壊すの」
雑貨屋さんを取り壊すだなんて、このお店屋さんは一体どんな気持ちなんだろうか。
まだ爆弾で壊されるなら諦めもつくか、否、それでも諦めがつくはずないじゃん。
戦争関連で何かが奪われて、諦めがつくことなんてないよね、こんなこと、庶民レベルではしたいはずがないんだから。
ヨネコが私へ、
「そろそろ準備できたっぽい、わたしたちも引っ張るよ!」
と快活に言うんだけども、私はそんな壊す気になんてならなくて。
もし自分の家がこんなことしないといけなくなったら、まず警察署を恨むと思う。
コイツは残して、何で私の家はって思う。
ヨネコに促されるまま、紐を掴んだわけだけども、握力が手に乗らない。
それは手のひらがバケツリレーの時にさらに荒れたせいか、それとも心持ちのせいなのかは分からなかった。
一応引っ張ているフリをするわけだけども、もう紐を握るだけで手が痛い。
掛け声と共に柱を倒すため、引っ張っていく。何この地獄。誰得?
柱が倒れると大きく建物が傾き、歓声があがる。
何を楽しんでいるの? 本当にこれが楽しいの? そんなに娯楽が無いの? 壊れて何がそんな声を出せるの?
私がおかしいのか、いやいや戦時中というものがおかしいに違いない。みんなおかしくしてしまうんだ、と悟った。
柱という柱を引っ張って倒したら、みんなでゴミを取り除いていく。
そうゴミ。
さっきまでは立派な雑貨屋さんだったのに、もう全てがゴミになってしまった。
みんな必死で運ぶなか、一人だけ呆然とその建物を見ている人がいた。
あの人がこのお店屋さんの店主だったのか、はたまたこのお店屋さんに思い入れがあった人なのかは分からないけども、大粒の涙をこぼしていた。
紐を引っ張っている時、そして壊れた瞬間は、あんなに熱気があったのに、よく周りを見渡すと今はみんな、辛い顔をしていた。
『みんなそうなんだ、仕方ない』という声が聞こえてきそうだ、誰も何も喋っていないけども。
町総出で多分やっていると思うんだけども、男性が本当に少ない。
いや警察署の人っぽい人は男性だけども、やっぱりそのほとんどが女性だ。
本当に、本当に戦争しているんだ、ということが身を染みて感じた。
空はこんなにも晴天なので、と思ったところでサイレンが鳴った。
私はビクついてしまったが、みんな当たり前のような面持ちでたいしてリアクションもしていない。
これが当たり前なんて考えたくない、これが当たり前になる未来なんて絶対嫌だと思った。
そのタイミングで私は目を覚まして、気付いたら朝になっていた。
勿論机に突っ伏して寝ていた。
寝る気なんて無かったのに、まるで強制的に落ちるように眠っていた。
机で寝ていたので、腰がバキバキに痛いし、手のひらを見ればよりボロボロになっていて。
パジャマも昨日よりは茶色くなっているような気がする。
もうどうしたらいいんだ、何をどうすればいいのか一切分からない。思考停止。それが最善手だとまるで脳が言うように。戦時中と一緒なんじゃないか?



