虐げられた墨の華は、冷酷貴人の幸せな花嫁になりました

 火事から一週間が経った。宗近の意識はまだ戻らず、診療所で眠ったままである。
 ある朝、清花は軒先で洗い終えた衣を干していた。
 濡れた布が風に膨らみ、藍の影が縁側に映る。梅は隣で静かに襦袢を叩いて皺を伸ばしており、ふたりの作業は無言であってもどこか調和がとれていた。

 「皺がよく伸びてるな」

 背後から届いた声に、清花はびくりと振り向いた。明臣だった。
 日差しを受けてやわらかく浮かぶその瞳には、冷たさではない、淡い感情の揺れがあった。彼はふと一枚、干された着物の端を指でつまみ、少し目を細める。

 「地味な色だが、よく馴染んでいる。……この庭に」
 「え……ありがとうございます」

 清花の声は思わず少し高くなってしまい、すぐに梅の横顔を気にして伏せた。だが梅は口の端をわずかに持ち上げただけで、なにも言わなかった。
 それが静かな後押しのように感じられて、清花の指先は風のなかで布に触れながら軽く震えた。