橘彩音は、たったの三日でクラスに馴染んでいた。

まるで三ヶ月前から、最初からこのクラスにいたかのように。


「ねえねえ、澄」


さすがに三日も経てば私のことなんて忘れるだろうと油断して登校すると、教室で輪の中心にいた橘彩音があの眩しい笑顔を私に向けてきた。

何かと話しかけてこようとしてくる彼女のことをずっと避けていたから、目を合わせるのも三日ぶりだ。

突然のことに思わず足を止めて固まってしまう。


「今もまだ小説って書いてる!?」

「…は?」


橘彩音から尋ねられ思わず出た掠れた私の声は、周りにいたクラスメイトたちの驚いた声でかき消される。


「え!?小説…?」

「芹沢さんって小説家なの?」

「ち、ちが…」


否定する私の小さな声なんてかき消される一方で、みんなが私を見ていた。

誰にも言っていないのに、なんで橘彩音が私の小説のことを知ってるの…?

一気にたくさんの視線を浴びたことで呼吸がしづらくなり、もうすぐホームルームが始まるにも関わらず教室を飛び出す。