学校で喋ったことがあるのはきっと数えられる程度だ。

だからこそ私のことは放っておいてほしいのに。


「橘ー。お母さん、迎えにきてくれてるぞ」

「え、お母さん！？」


塚田先生と一緒に教室に入ってきた美人な女の人に橘彩音は驚いたように目を見開いていた。

まだ教室に残っていたクラスメイトたちも、本物の橘彩葉の登場に一瞬にして騒がしくなる。


「仕事が早く終わったから、ついでに彩音を迎えに行こうと思ってきちゃったわ。お父さんも下で待ってるから、一緒に帰りましょ」

「え、本当！？やったあ」


嬉しそうにお母さんに抱きつく橘彩音の笑顔が眩しくて、足早に教室を出る。

橘彩音を見ていると、嫌でも惨めな気持ちを思い出してしまう。

だから、会いたくなかったのに…。

＊

「…ただいま」


小さく呟く声に返してくれる人は誰もいない。