無理もない。

橘彩葉は16歳でデビューした当時から有名な人気女優で、数々のドラマや映画の主演も務めている。

知らない人の方が少ないくらいだ。


「質問があるなら後にしろー。ホームルーム終わらせるから、橘はとりあえず窓際の芹沢(せりざわ)の隣の空いてる席座ってくれ」


びくっと大袈裟に反応してしまい、橘彩音と目が合う。

せっかく最近行われた席替えで隣が誰もいない神席に当たったと思っていたのに、一瞬で天国から地獄に突き落とされた気分だった。


「もしかして、澄(すみ)…？芹沢澄でしょ！？」


最悪だ。気づかないでと願った私の微かな期待は、橘彩音が目を輝かせて私の名前を呼んできたことにより一瞬にして消え去った。


「ん？橘、芹沢と知り合いなのか？」

「はい！」


不思議そうに尋ねた塚田先生に橘彩音は笑顔で頷いたが、こっちとしては迷惑でしかなかった。

周りからの好奇心の視線に耐えながら、ぎゅっと拳を握りしめて深く俯く。

二度と会いたくなかったのに。

大嫌いなあの笑顔をもう見ることはないと、そう思っていたのに…。