ラストシーンは君の笑顔で



ベッドに寝転がりながら小説を綴っていた手を止めて、ぼーっと壁の一点を見つめていたことに気づく。

帰ってきてからずっとこの調子だ。

大好きな小説すら書けないほど、今日の朝に橘彩音から言われた言葉がなぜか忘れられなかった。


–––「私たちならきっと最高の映画が作れる!」


才能も何もないこんな私に、どうして橘彩音は堂々とあんなにも言い切ることができたのだろう。

小説を書いていて映画の脚本も書いてみたいだなんて考えたことは今まで一度もなかったけど、少しだけやってみたいと思う気持ちもある。

だけど、あくまでそれは趣味範囲内で。

自分が作った脚本を誰かが実際に演じて、たくさんの人に見てもらうなんてそんな夢物語想像だってできない。

きっと私が作るよりも、橘彩音が一から考えて演じた方がずっといいものが作れるに決まっている。


「だからなんでいつもあなたはそうなの?こっちだって仕事から帰ってきて家事もやって、疲れてるの!」

「家事くらい澄にやらせればいいだろ。どうせ学校から帰ってきて家に引きこもってばかりなんだから」

「あなたに似て根暗でできない子になっちゃったんでしょ?何やらせたって失敗しかしないんだから」

「なんだよその言い方!」


飲み物を取りに行っただけなのに、リビングから聞こえてきた怒鳴り合いに階段の途中でうずくまって小さくなることしかできなかった。