ラストシーンは君の笑顔で

だけどそこでふと、小学生の頃の記憶を思い出す。

小学五年生の時の親子参観で親の前で将来の夢を発表するという授業で、橘彩音はいつも通り堂々と答えたのだ。

『私の将来の夢は、お母さんみたいな見ている人たちを惹き込める演技ができる人になることです。私の作品をお母さんとお父さん、たくさんの人たちに見てもらいたいです』


「映画部を作って三ヶ月後にある文化祭で作った映画を流したいの!そのために澄に協力してもらいたいんだ」

「協力…?どうして、私なの?」

「小説を書いて培われてきた澄の文章力で、この映画の脚本を書いてほしいから!澄の書いた脚本で私が主演を務めるの!私たちならきっと最高の映画が作れる!」


一体その自信はどこからくるのだろう。

橘彩音が突拍子もないことを言い出すのは珍しいことではないが、いつも彼女はどんなことでもやり遂げてしまう力がある。

だけどそれは、“橘彩音”だからだ。


「…映画なんて作って、何になるの?そもそも私には無理だよ。小説だって趣味で続けてるだけで、才能があるわけじゃないんだから。橘さんならきっといい映画が作れると思うよ。だけどそれに、私を巻き込まないで」


だんだんと小さくなっていく声は最後まで橘彩音に聞こえたかはわからない。

言いたいことを言い切り、気まずくて目も合わせずに橘彩音に背を向けて走り去る。

彼女はもう私を追いかけては来なかった。