――――翌日、俺は学校で卯月に呼び出されていた。
「昨日のことだけど……あの後お父さまが緊急帰国したんだ。ぼくのこともあったし、兄貴のこともあったから」
卯月は申し訳なさそうに告げる。
「兄貴はお父さまが外国に留学させることにした。その後は海外の支社を任せられるから滅多に日本に戻っては来ないし戻ってきた時もちゃんとうちが監視する」
「そう……なのか」
もう皐月さんとは会う機会もほぼなくなるだろう。淡い初恋も1000年の恋は冷めてしまった。
「うち、性の多様性には柔軟だけど、さすがに今回のは厳粛に受け止めてるから」
だからこそ卯月も自分に合った格好を咎められないわけだ。皐月さんのことは残念だが卯月の素がいいやつなのはその影響かな。
「何から何まで済まないな……卯月」
「それはこちらだ。兄弟揃って……情けない。お父さまにも揃って怒られて……」
「でも卯月は違うだろ。卯月は友だちだ」
「……っ、けどぼくは爽にひどいことをしたのに」
「そこまでのことじゃないだろ」
睨まれたり嫉妬されたり。でも俺だって嫉妬することもある。俺も卯月に嫉妬していた。
「お互い様だろ?」
「……爽」
卯月が何とも言えない表情を浮かべる。
「昨日……快たちと戻って良かった」
「うん、卯月の機転のお陰だ。けど、そう言えばどうして……?」
卯月はそう機転を回してくれたのだろうか?
「……兄貴の部屋で爽の写真を見たことがある」
「え……っ」
思えば卯月の言葉を思い起こせば奇妙な点があった。卯月はまるで俺を以前から知っていたように。
卯月はそれを奇妙に思い覚えていた。
「何でか分からなかった。ぼく、こう言う事情もあって中学の時は尖ってたから兄貴ともまともに会話しなかった」
卯月がそっとつまんだのは自身が穿く女子のスカートである。
「そして高校に進学して顔を見た時、別人かもとも思ったけど。快のこともあって感情的になってしまった」
「もういいよ」
今は仲良くなれたのだ。俺がそう言うと卯月は一瞬ホッとしたような表情を浮かべるが、すぐに表情を戻す。
「でも昨日は何か嫌な予感がした。だって一昨日……兄貴に怒られた時やけに爽に肩入れしている気がしたんだ。ぼくがいくら反抗しても怒らなかったのに……様子が違ったから」
皐月さんは俺になんて興味を持たないと思っていたが実際は真逆だったんだ。その身に帯びた感情は褒められたものではなかったが。
「それでも……良かった。卯月が機転を効かせてくれたお陰だよ」
「これがぼくにできる償いだから」
「償いなんて言うなよ。友だちだろ?」
「……うん」
卯月がはにかむ。
教室に戻れば蓮葉と快が待っていた。
「話は無事終わったんだな」
「ああ、快」
卯月は蓮葉と楽しそうに話している。
「……卯月のこと、ありがとうな」
「礼なら蓮葉に言ってくれ」
アイツが言い出さなければ俺も的確なフォローができたか怪しいところだ。
「けど、爽にも言いたい。幼馴染みとして、俺がしてやれなかったことだ」
「バカ。これからお前もしていくんだよ。見本にならいつでもなってやるから」
何だか心もとない仔犬のようにしょぼくれる快を放っておけなくて、安心させてあげたくて。ついつい快の頭に手が伸びてしまった。
「……その、爽っ」
「わ、ごめ……っ、嫌だった?」
「嫌じゃないよ。嬉しい」
よ……良かった。それに快も元気が出たみたいだ。やっぱり俺は快が元気に笑っている顔が好き……何だと思う。

