――――翌朝
いつものように蓮葉と登校し、途中の道で快と合流する。
校内に入ると昨日までとはまるで違う空気を感じ身構えるが、話題の中心は卯月のようだ。
「なあ聞いた?アイツ、昨日茶道部の部室に乗り込んで備品壊したって」
「はあ?バカじゃん。あの部室ってここの卒業生が後輩のために高校に寄付して作ったって聞いたけど」
「コンクールで受賞してるからって調子に乗ってんじゃん?」
周囲の生徒たちに噂をされてとぼとぼと俯いて歩く卯月を見る。
「……卯月」
快もどう声をかけていいか分からないんだよな。しかし幼馴染みへの情もあるから完全には見放せないんだ。こんな時、蓮葉なら何てフォローするだろうか……。
あれ、蓮葉がいないんだが。また友だちを見付けて先に行ったのか……?
「だいたいアイツって家が金持ちなんだっけ?女の格好してるけど……男じゃん」
その時更なる誹謗中傷が飛ぶ。
「だよな?だから体育の授業も特別に見学になってんだろ?女の格好してずるしてるくせに」
今までは家の威光もあってか封殺されていた悪口が溢れる。少し憐れにも思えてしまうが。多分卯月だけなら、根は悪いやつじゃないんだろう。
「……っその、卯月」
快が卯月に手を伸ばしかけるが、卯月はふいと視線を外し走り去ってしまう。
「……爽。俺はどうしたら……」
「……快」
快も迷っているようだ。俺も……どう声をかけていいか分からない。そっとしておいてやるがいいのだろうか。蓮葉ならどうするだろうか。そればかりが頭をよぎってしまう。
――――いつものように授業を受け昼休みを過ごしても、何だかパッとせず悶々とする。
そんな時間を過ごし……いつの間にか放課後になっていた。
「蓮葉……先に行ったのか?」
今日は空手の日ではないはずなのだが。
「爽、行こうか」
「……うん、快」
快や卯月のことを心配に思いながらも、未だ悩み続けている。うう……俺はどうすればいい?
「準備、しようか」
「ああ」
いつも通り、平常心。茶室に来れば少しは気持ちが落ち着いた。昨日のように素直に会話ができるだろうか?しかしながら卯月のことをどうフォローすればいい……?
「うん。でも……蓮葉が来ないな?」
スマホにも何も連絡ないし。
「そう言えばそうだね。一度見に行こうか……」
快がそう言って立ち上がろうとした時、部室のドアが開く。
「お待たせー!」
「蓮葉、やっと来たのか?もう準備始めて……」
蓮葉の姿を見て、俺も快もピタリと固まった。
「新入部員だよー!」
いやいや、新入部員ってそいつ……。
「卯月!?何故卯月を……」
そう、蓮葉の隣にいたのは卯月だったのだ。しかし昨日までのような勢いはなくずーんと俯いている。
「華道部、退部させられちゃって今は帰宅部なんだって!なら誘わない手はないじゃん!」
平然とニカッと告げる蓮葉。いやいや、だから誘うって流れになるか!?
「でも……退部?」
処分が重すぎないだろうか。
「ぼくは……その、こんなだから。噂がもとで一気に居場所がなくなったし、コンクールも……迫ってたから。ぼくがいると、先輩たちが受賞できないんだって……」
それは女子の制服を着ていることか?それだけでヘイトを広めるのもどうかと思うが。コンクールが近ければ評判も気にしたくなるのだろうか。さらには自分たちが受賞するために優秀な一年を蹴落とすなんて意味が分からない。それで賞が自たちのものになるわけではないだろうに。
「ぼくは……嫉妬されたのかも」
なるほど、できる子ほど都合のよいよい醜聞が出てきた時に叩かれるってことか。
「まあまあ、それでも高校生活をエンジョイしちゃいけない理由はないよー!茶道部でエンジョイしちゃえばいいじゃん!」
うちの幼馴染みは相変わらず底抜けに明るい。だからこそみんなに好かれるんだろうけどな。
「でも卯月は……」
快はまだ戸惑っているようだ。
「昨日の敵は今日の仲間だよ。それに、卯月ちゃんも謝りたいんだもんね!」
「……その」
蓮葉の言葉にゆっくりと口を開いた卯月に快は警戒を崩さない。
「快。昨日のこと……ごめんなさい」
「……卯月」
昨日とは違いしゅんとする卯月に快ももう怒る気はないようだが、何だか2人ともこれからどうすれば分からないようだ。
「謝ったなら今日から友だちだよ!」
「いや……その」
快が蓮葉の言葉にたじたじな様子にふっと吹き出す。
「諦めろ、快。コイツは昔からこう言うヤツなんだよ。誰とでも仲良くなっちゃうから」
「……それは」
お前だってそうだろ?それに……俺だって。
「そう言うことなら、新たな部員として歓迎するぞ」
「部長!」
蓮葉たちの後ろから来た部長がハッハッハと笑う。
「俺も構わないよ。みんな和解したようだし」
と、竜兄も告げてくれる。これも蓮葉のお陰かな。
「それに君は皐月の弟だろう?」
竜兄の言葉にビクンとなる。
「兄貴を知っているんですか?」
卯月は意外そうに竜兄に問う。やはりその苗字は単に同じと言うわけではなかったのだ。
「大学時代の友人だからね。爽も勉強を教えてもらったろ?」
「う……うん、まあ」
突然のことで上手く反応できたか分からない。
「……そうか……だから」
卯月が何か呟きつつも次の瞬間には表情を元に戻していた。
「ま、そんな縁もあるしさ」
竜兄がカッカと笑う。竜兄はあの事を知らない。俺も隠したし皐月さんも無理に言うことはなかったのだろう。けど……やはり複雑な心境ではある。
「ほら、そーちゃん」
「蓮葉?」
「卯月ちゃんは卯月ちゃんだよ」
そうだな。蓮葉の笑顔を見ているとそうだと納得できてしまう。むしろ見透かされてないか?
「それなら、早速入部だな」
「いいのか?」
「茶道と華道は近しいんだ。茶道の場にも花を活けるだろう?」
「それは……まぁ」
「だが快の華道のセンスは壊滅的だ」
「ぼくは好きだけど……快のセンスは茶室では壊滅的かも」
「それはその……受け入れよう」
快ったらやけに悔しげなのは何でだよ。
「だから卯月の特技を活かせる。ただし茶道も真面目にやること。それが条件」
「……もちろん。拾ってもらった恩は……返す」
案外義理がたいたちなのかもしれないなあ。
『昨日の敵は今日の仲間』……か。とんでも理論だが、蓮葉の格言も悪くはないな。
快もそう思っているのか俺の笑みに笑みを返してきた。

