部室に戻れば、待っていた小梅先輩たちと再びの歓談である。
「そうそう、それと私からも慣例のこれをあげようと思ってな」
小梅先輩が取り出して見せてくれたのは。
『お茶碗!』
柄は通年で使えそうな縁起物の柄である。
「でもおひとりじゃ大変だったのでは」
部員がたくさんいた頃はお金を出し合っていたはずだ。
「そこは竜ちゃん先生が負担してくれた」
「まあそこはね」
竜兄がハハハと笑う。
「俺もOBであることには変わらないし」
「そう言うことだから遠慮なくもらってくれ」
「ありがとうございます、小梅先輩」
こうやって思い出が増えていくってことか。何だか嬉しいものだな。
「これからは一年生だけで大変だろうが、応援しているぞ」
「はい、みんなで頑張ります」
「来年の新入生の勧誘も頑張らないとー」
と蓮葉。
「そうだな……私の代は」
「先輩?」
「本当はもっとたくさんいたのだ。けれどな、喧嘩をしてしまってそれっきり。その次の代でも……残ったのは私だけだよ」
「どうして……喧嘩の原因は?」
「……私だ。私の取り合いでな。みんな止めていった。正確には収拾がつかなくなって、真面目に茶道をする気がなく私目当てなら辞めなさいと、先代の顧問が辞めさせたんだ」
小梅先輩の表情にあるのは悲しみではなく、一種の寂しさではある。
学校一のマドンナにもいろいろな葛藤があったのだ。
「今のニ、三年生もその騒動を知ってるから新たに入ろうとはしないよ。だから一年生が入ったとしても……私はずっと不安だった。また同じことが起こるのではと。むしろ私が辞めた方が平和に済むのではないかと」
「……先輩」
「けど、本当に茶道が好きならば続けなさいと言ってくれたのが静先生や私の先輩たちだ。一年生の爽くんと蓮葉ちゃんが入ってくれてからは部としても存続できた。それにとても仲良く過ごしてくれて私は幸せだよ」
痴話喧嘩っぽいものはあったが、それでも和解できたのは大きいな。先輩を悲しませることにならなくて本当に良かった。
「これからも仲良くな」
『はい!』
その言葉に自然と返事がぴったりと合ったことに4人で苦笑する。
――――帰り道
別方向の先輩とバイバイと手を振り別れ、俺たちは4人で夕陽の中を歩く。
「少し寂しくなるな」
「うん。でも、また遊びに来てくれるって言ってたし」
快が優しく笑んでくれる。
「その時も仲良しでいられるように」
「もちろんだよー、そーちゃん!私も最推しを愛でるために頑張らないとー」
蓮葉はむしろ一番の功労者ではと思う。
「最推し?」
「そーちゃんのことだよー!卯月ちゃんは?」
「……ぼくは、蓮葉さん」
「私?嬉しい!大好き!」
「え、はぇっ!?その……っ」
卯月は腕に抱き付いた蓮葉にたじたじになりながらも嬉しそうだ。
「じゃぁ俺は……」
「快?」
快がおもむろに俺の腕を抱き寄せてくる。
「ちょまっ」
「俺の最推しも爽だから、いいよな?」
「いやいや、俺たち男同士……周りの目が……っ」
「いいぞいいぞー!もっとやれー!」
「蓮葉!?」
「ぼくも……2人が仲がいいのが一番嬉しい」
「卯月」
卯月もいつの間にか認めてくれている。
「それぞれの幼馴染み公認なんだし、いいだろ?」
「いやまあ、そうだけど」
「それとも爽は俺とは嫌か?」
「……っ」
そんな、ストレートに!?いや……しかし。今は過度にツンケンする気も起きない。むしろ……。
頬に熱が帯びる。
「嫌じゃない」
俺がそう告げればぐいと快の顔が近付く。
……一瞬、キスされるかと思った。
「……っ!」
「なら、お揃いだ」
そうやってにこりと笑うのだ。
うう……無駄にドキドキさせる快を前にどうしたらいいか分からなくなる。
なすすべなく腕を組みつつ夕陽に視線を逃がせば、耳元でそっと快が囁く。
「しても良かったんだけど」
何をだ~~っ!
快は確実に確信犯である。そんな予感を覚えながらも優しい彼女らに見守られながら……ちょっとだけ素直になってもいい気がする。
「……気分による」
「それじゃぁ最高の気分の時に」
まるで絶対に見定めんとばかりの余裕に悔しいと言う感情と、楽しみにしている俺がいるのは……内緒だ。
【完】

