これは恋じゃない!断じて!



――――文化祭が終了して某日。

茶道部員たちは茶室に集まっていた。

「畳の部屋でもあるし普段はあまりできないのだが、文化祭後は特別。パーティーだ」
部長が告げた通り茶室にはレジャーシートを敷きその上にジュースやお菓子を並べていた。

「そうそう。だから今から文化祭のお疲れさま会と白羽部長の送迎会だね」
竜兄が告げる。

「ま、でも暇な時は来るし、そんなにしんみりしないで楽しんでくれ」
「けど、部長」

「爽くん、これからは君が部長なのだから」
「その、本当に俺で……」

「もちろんだ!爽は俺の憧れなんだから」
「私も賛成だよー」
「……ぼくも、爽が丁寧にたくさん教えてくれたから茶道も覚えられたんだ。だから」

「……みんな」
「ほら、だから言っただろう?」
「はい、部長」
「部長は君だぞ」
「……はい、小梅先輩」
「うむ、それでいい。みなもこれからはそう呼んでくれ」
一同が頷く。

「それじゃ、乾杯と行こうか。爽くん」

「はい、先輩!みんな、お疲れさまでした!乾杯!」
『お疲れさまでしたーっ!カンパーイ!』
ジュースとお菓子をつまみながら、暫しの歓談だ。

「そういや快、ご両親はどうだった?」
「それが、まともにお点前を披露できたことで両親が泣いて喜んでたよ。これからも部活を頑張るようにって」
「へえ、良かったじゃん」
しかし……泣いて喜ぶとは。

「それに今度、母さんに一緒にお茶席に行こうって誘われてさ」
「へえ、いいじゃん。どこの?」
「爽のところのお茶席。静先生も賛成してくれたんだ」
「けほっ。うちかよ」
「うん。だからその時、また爽を見に行く」
「俺目当てか?」
「ダメ?」
快がポテチを差し出してくる。

「あむっ。ダメじゃない」
賄賂ももらってしむったからなぁ。もごもご。
「ほら、爽」
今度はミニドーナツ。

「はむっ。旨い」
あれ、これ餌付け?

「そーちゃん、歌舞伎揚げが好きだよー」
「それじゃぁこれにする」
こら、蓮葉。また俺の個人情報を流して……。

「爽、あーん」
「はむっ」
まあ、食べるけど。ボリボリ。やっぱり歌舞伎揚げは旨い。

「もぐもぐする爽もかわいいな」
「いや、おい男子に向かって相変わらずだな……。そうだ……!お前にも菓子をあーんさせてかわいくしてやる」
「え?爽があーんしてくれるの?嬉しいな」
ドテッ。こやつ、ちっともダメージを受けてないじゃないか!

「それなら仕方ねぇっ!くらえ!形もかわいい星形煎餅だ!」

「むぐっ」
よし、効果は抜群のはず。

「ん……美味しい」
もぐもぐと食べる快は……何かキラキラしてない?

「わあイケメン!やっぱり快くん映えるねー」
ふぐっ。俺だって分かってるよ、蓮葉。コイツダメージを受けるどころか違うエネルギーに変換しやがった。

「もう終わりか?」
ふぐぅぅ。完全に誘われてるんだが、これ!

小梅先輩は小梅先輩で爆笑してるし……。

「負けてたまるかっ!」
これは新部長としての戦いだ!

「喉に詰まらせるなよー?」
心配するな、竜兄!

「おかきをくらえー!」
「もぐっ、ん、なかなか」

「涼しい顔して食べてるね、快」
「そーちゃんがんばー」
と卯月に蓮葉。
わあぁぁんっ!相変わらずのイケメンめ!

「ふ……っ、だが快。気が付いていないようだな」
俺はプチ最中を掲げた。

「ま……まさか」
「そう……俺はずっと機会を窺っていたのだよ。今お前の口の中は……カラカラだ!」
「しまった……っ」
今初めて快が悔しげな表情を浮かべる。

「さあ、俺のプチ最中が食べられないとは言わせんぞ!」
「ふぐっ」
プチ最中を口に含んだ快は悔しげに表情を滲ませながらジュースを手に取り喉に流し込む。

「よし、俺の勝利!」
「え、ジュース飲んだら敗けだったの?」
卯月が驚く。
「高校生ってたまにいつの間にか謎ルール発揮するな」
小梅先輩もまだ高校生っすけど。

「だがジュースがなくなってしまった」
「買ってきますよ。ジュース重たくなるし、竜兄はここにいた方がいいでしょ?」
顧問だしなあ。
「なら俺も。お菓子の追加も買ってきます」

「では任せたぞ、若人たち」
「これお金ね」
竜兄に小遣いをもらい、俺と快は近所のコンビニにジュースとお菓子を買いに向かった。

※※※

「快は何がいい?」
「うーん、緑茶以外?」
「それな。部活で飲みまくってるし、俺は家でもだから」
たまにジュースやサイダーが飲みたくなる。

「じゃあオレンジジュースやサイダーを適当に……」
「オレンジジュースってチョイスがかわいい」
「バカ、俺のじゃない!蓮葉たちのだよ。女子ってオレンジジュース好きそう!」
「どんなイメージ?あ、でも卯月は炭酸の方が好きかも」
「グレープサイダーにしとく?」
「それにしようか」

「しかし、快。お前も卯月のことさすがは詳しいな」
嫉妬とかじゃないんだ。むしろ微笑ましく思う。かごの中におやつを入れつつ告げれば、快が意味深に俺を見る。

「どうした?」
「それは爽と蓮葉さんもだよ。たまに羨ましく思う」
「それは……」
自ずと互いのことに詳しくて……それは快たちも同じだ。

「俺も爽のこともっと知りたい、喜ぶことをしてあげたいと思うけど、蓮葉さんにはなかなか及ばなさそうだ」
「何、嫉妬か?」
「そうだって言ったら?」
快の顔が近い。うう、相変わらず顔がきれいなんだよなあ、ほんと。

「俺だって……小学生のお前のことよく知ってる卯月は羨ましいさ」
嫉妬じゃないと言ったのは嘘だ。本当はちょっと羨ましい。

「お揃いか」
「そうだな」
「じゃあ小学生の頃の俺の写真見る?」
「え、スマホに入ってるの?」
「前に親に見せてもらった時にスマホで」
快が見せてくれた画面にはまさに小学生と言ったかたちの快が映っている。

「でも和服だな」
「華道やってた時のやつ。因みに作品がこれ」
続けて見せてくる。

「なかなか斬新な。確かにこれは時代が追い付いてないな」
「だろ?」
ハハハと快が笑う。

「なあ、爽の子どもの頃の写真も見たいな」
「ええ……?母さんに頼めば……でもすぐには来ないかもよ」
「来たら見せて」
「うん」
商品をレジに持っていく傍ら、快が歌舞伎揚げも追加してくれる。会計をする傍ら快がこっそり告げてくる。

「今度は勝つからな」
「ナメるな、俺は歌舞伎揚げならいくらでも食う!」
「気合い充分だな」
自然と笑いが漏れ出る。

会計を済ませた帰り道はまだ陽が高く秋の高い空が広がっている。

「お、母さんから返信が来た」
「えっ、見たい!見せて」
快にひょいっとスマホ画面を見せてやる。

「お手前してるところだ」
「母さんが記念に取っておいたんだろうな」
「俺も1枚もらおうかな」

「何言ってんだ、オイ。それに今は隣に等身大俺がいるじゃんか」
「確かに……!それじゃ、2人で自撮りしていい?」
「そりゃまあ」
断る理由もない。自撮りをするために肩を寄せれば、快がぐっと肩を合わせてくる。

「はい、ポーズ」
カシャリと撮った写真を快は満足げに見せてくる。
「爽にも送るよ」
「マジ?サンキュ」
「うん。因みに俺は待ち受けにする!」
「えぇっ!?」
待ち受って……そうだな。俺もこっそりしてみようかなと思ったのは……内緒である。