――――昼が近付くと、梓先輩たちが協力してくれて俺たち部員も順番に休憩をもらう。
俺は快を連れて露店に簡単な昼ご飯を買いに向かった。
「秋だからちょっと寒いだろ?」
「うん、でも大丈夫。だけど蓮葉さんたちの方が……」
「あっちは部長が秋浴衣の最強装備を伝授してるから平気だよ」
「何だろう?それ」
「レギンスでも穿くんじゃないのか?」
「あ、確かタイツのくるぶしまでのやつかな」
「そんな感じのやつ」
まあ、詳しくは知らないが。
「だけど着物だとやっぱり目立つな」
「お前がイケメンすぎるんだよ、諦めな。俺じゃない。断じて」
「いや、イケメンに仕上げたのは爽では?」
「あ、確かに」
「そうそう。でも無自覚ってのも考えものだな」
「無自覚って何?」
「いや……だって」
快が俺の顔をじっと見る。
「爽は自分がきれいな顔立ちしてるの自覚ない?」
「自覚も何も俺は平凡だって」
「うう……本当に無自覚。その上、和装美人」
いや、自覚も何も普通だってば。
「ほーら、昼休憩も限られてるんだから。何食べたい?」
「そうだな……たこ焼きとかどう?昔から好きだし」
「そう言ってたな。たこ焼きは……」
たこ焼きの屋台を見付ける。
「……へい、らっしゃい!」
そこには生徒ではなくTシャツ短パンの厳つい親父たちと……作務衣の父さんがいた。
「え……と、ここって」
快が戸惑っている。
「親父部だ」
父さんがニッと笑う。
「そうだ、そうだった。快、ここは親父部って言って、生徒の親父たちが有志でたこ焼きとか焼いてくれてるんだよ」
俺も父さんがやるって言うから聞いた。
「その存在は竜兄も知ってるし、竜兄の代よりも前から代々続いている伝統なんだ」
「ここにも伝統が……」
快が感心している。
「その通り。たこ焼きは結構ムズいんだこれが」
てなわけで有志の親父たちが焼いてくれているわけである。
「それにしても……爽」
「何?父さん。そんなことよりもたこ焼き一船ちょうだい」
「おうよ、爽。だがな、爽」
「何だ?」
「その若造が陽向んとこの倅か」
「父さんまで知ってんの?どゆこと?」
「陽向のヤロウとは、高校時代華道と茶道でやりあったもんよ!」
「やりあうな日本の伝統芸能同士で。普通に茶室に花活けてもらえよ。和やかにやれよ」
因みに父さんもOBなので、快の親父さんもOBと言うことになる。
「まあそうなんだが。今はそのつもりだ。ほら、たこ焼き」
「俺が払うよ」
快が代金を払ってくれる。
「サンキュ、快」
「いいや」
快のスマートな笑顔に癒されるー。
「そうだ父さん。俺、午後も出るから、休憩中に来なよ。お茶点てるから」
「ああ、もちろんだ!だが……どこまで行ったんだ。合宿では一緒に寝たとかなんとか。お父さんが出張中にっ」
「……」
そう言えば母さんに合宿スケジュール相談したら父さんの出張期間だったな。何でかと思っていたら……。
「誤解招くような発言をするな。単なる合宿の男子部屋だろうが。あと、待ってる生徒いんだからたこ焼きを焼け」
「強烈なデジャヴだぞ、爽」
「……静先生似では?」
え?そうかな、快。
――――父さんの元を後にし、俺たちは早速たこ焼きを食べることにした。
手軽なベンチを見付けたので、早速2人でいただきますか。
「わあい、たこ焼きだぁ~~!」
「爽からどうぞ」
「え、いいの?ならふう……ふう……。……快、ほら」
快の口元にたこ焼きを持っていく。
「お金だしてくれたの快だろ?」
「それなら遠慮なく」
快がぱくりとたこ焼きにかぶり付く。今気付いたけど快って睫毛……長いな。たこ焼きにかぶり付く仕草すら優雅で、ついつい魅入ってしまった。
「それじゃ、次は」
快がたこ焼きをひとつとってふうふうとすれば、俺の口に近付けてくる。
「あーん」
……ん?
「お返し」
え?俺……さっき……快にあーんしてたぁっ!何でカップルみたいなことしてんだ、俺。分かった……文化祭と言うのは……テンションをおかしくさせるんだぁ~~っ!
「ほーら、爽」
「うう……うん」
でも恥ずかしさの反面、快からのあーんが嬉しい俺もいるんだよなあ。
「あーむっ」
意を決してたこ焼きにかぶり付く。
「ん……うまっ」
「だろう?でも……」
「どうした?お前マヨ抜き派だったとか?」
「いや……爽にあーんしてもらうと2倍美味しいから……またあーんして」
はいいぃっ!?その、さっきは無意識だったからとはいえ……改めて要求されると何だか恥ずかしいんだが……っ!?
でも……快があーんを楽しみに待ちかまえているんだもの。これは……俺の煩悩ではない。快のリクエストなんだぁ~~っ!
「もう何とでもなれぇっ」
その後も俺たちは何のノリなのかたこ焼きをあーんしあってしまった。やはり文化祭のノリは……ひとをおかしくさせる何かがありそうだ。
たこ焼きを食べ終え部室に戻ろうとしていた時だった。
「あの、着物の写真撮っていいですか?」
女子たちから声をかけられた。
「快がいいんなら」
「いいよ」
それなら俺は傍らに避け……と思ったら。快が肩を引き寄せてきたんだが。ちょ……っ、目的は明らかに快だろっ!?しかし女子たちも『きゃ~~っ』とか言いながら俺ごとパシャパシャするなぁ~~っ!
「ふふっ。楽しいな、文化祭」
「いや……その、まあな?」
――――部室に戻れば、次は蓮葉と卯月の休憩だ。部長もこの後休憩で行くのだが、俺たちの休憩時に蓮葉たちの保護者も来てくれたそうで、部長もお菓子目当てに来てくれた妹さんを大満足で鑑賞したらしい。
お茶席では今度は俺のお点前の番。快が半東を務める中、父さんも休憩で見に来てくれた。
しかしさすがは師範。先ほどの調子はどこへやら。俺のお点前を真剣に観察してくれたようだ。
「お茶をどうぞ」
俺の点てたお茶を快は緊張しながらも父さんに運んでくれた。
「ああ」
父さんは真剣に味わう。多分……母さんの見張りがあるからだな。うん。
こうして俺たちは無事に保護者にもお点前を披露することができたし、快も文化祭の舞台を得て少しだけ成長したような……頼もしい表情になった。
快の成長を微笑ましく思いながらも、どんどんと心の距離が近くなるこの感覚に……どこか怖じ気づく俺とわくわくする俺がいるんだ。

