――――荷物の整理が終わり、昼食までは茶室でお点前の練習をすることになった。
2セットあるので、俺と母さんが講師につきながら快、卯月、蓮葉、部長が順番に練習していく。
「竜ちゃんも加わればいいのに」
と母さん。
「いやいや、俺は結構忘れて……」
「竜ちゃんも練習加わるー?」
「ぎくっ」
竜兄、顧問なんだから少しおさらいしておけって。
竜兄は半東ではなくお手本のお点前を披露する。
「ううー……せめてヒントをくれないか弟よ」
母さんの目が光っているからか、竜兄が俺に泣きべそをかきたそうに告げてくる。
「次はこっち、で次は……」
俺のアシストで竜兄が手本を見せる。しかし基礎はちゃんと備わっているから所作は滑らかなんだよな。
そして無事にお点前を終えた竜兄は……干からびていた。まああれはもう少し休ませてあげておこう。うん。
「そうそう、文化祭では浴衣を着る子もいるでしょう?お着物でのお点前、お手本に見せてあげてね。爽ちゃん」
「分かったよ、母さん」
まあ袂を押さえたり、和装なりの動き方もしないといけないからそれも必要か。逆に慣れると洋装の時にたまにやってしまうのだが。
「爽のお点前は所作が丁寧だからお手本にいいものねえ」
と母さん。まあ……そう褒められれば頑張らねばな。お手本となれるよう丁寧に手指を動かす。
シャカシャカとお茶を点て終えればそれを快に差し出す。快がお茶碗を回し、ゆっくりとお茶を飲む。
「ふふっ、爽の味だ。美味しいなあ」
お……俺の味ってお前な。市販の抹茶を点てただけなのに。
「あら……爽ったら」
いや、母さん。全てを見透かしたように微笑まないでくれ~~っ!
しかしながら細かくメモを取っている蓮葉たちを見ればいいお手本は見せられたかな?
洋装と違うところも母さんが手解きしてくれて、途中途中動きを止めつつポイントを教えてくれたからな。
「さて、他に特に気になっているところがあれば、爽ちゃんが再現するから何でも言ってね~~」
む……息子使いがあらいんだが。まあ別に苦ではないけれど。
「その、いいでしょうか」
「もちろんよ、快くん」
「柄杓を置く時の手の動きをもう一度見たいのですが」
「ああ、あれ地味に難しいからな。俺も母さんに何度か見せてもらったよ」
柄杓は茶釜に掛けて置くことがおおいのだが、その際の動きは独特なものだ。
「それじゃぁ一緒にやって見せてくれる?爽ちゃん」
母さんが柄杓をもうひとつくれたので、快と並んで実践する。
「俺に合わせて」
「ああ」
最初はたどたどしいながらも、何度かやるうちに少しずつ慣れてきたようだ。
「でもやっぱり爽の所作はきれいだな。ついつい魅入ってしまう」
「……柄杓を置くだけなのに?」
「もちろん。そのひとつひとつがきれいなんだ」
いつも通りのべた褒めについつい顔が赤くなりそうなのをぐっとこらえる。うう……快の場合おべっかではなく心から言っているのが分かってしまうから余計に照れてしまいそうになるんだよ。
その後も細かいポイントをおさらいしたり、特訓したり。合間合間に俺も快の点てたお茶をいただく。
最初の頃よりはだいぶまんべんなく混ぜられている。
「ん、美味しいよ」
「渋すぎはしないか?」
「問題ない。茶せんの使い方も上手くなった」
「……っ!嬉しい」
「……っ」
快の満面の笑みに思わず俺も頬がにやけかけてしまった。うう……周りに気付かれてないよな……?
「みんな、そろそろお昼だぞ」
「竜兄!」
いつの間に復活してたんだか。そうしてお昼はみんなで冷たいきつねうどんを食べた。
「爽はやっぱりうどんも好きなんだな。ふふっ、覚えた」
「わっ、お前だけずるいぞ。お前の好きなものも教えろ」
「ん……?粉ものかなあ。お好み焼きとかたこ焼きとか」
一気に二つも!?しかしながら……有益な情報だ。心のメモに残しておかなくては。
そうして午後も細かな所作のおさらいや通し稽古をしていれば、あっという間に夕飯の時間が来てしまった。
「合宿ってみっちりなのに、時間が経つのって早い」
「そうだねえ。空手もそうだよー」
と蓮葉。
いや、運動量が違いすぎるんだが……そうなんだろうか?
「蓮葉さんは空手もやってるんだよね。カッコいい」
「ありがとー、卯月ちゃん!今度見に来るー?」
「行きたい!」
あっちはあっちで相変わらず仲良しだ。
「私は学園祭が終われば引退だ。だから後輩たちが仲良くやってくれて私も嬉しいよ」
部長が蓮葉たちを見ながらしみじみと告げる。
「私が引退したら今は2年生もいないからね。1年生ではあるが、爽くんに部長の座を任せたいと思っている」
「……部長」
「経験もさることながら、教えるのも上手いし皆をよく纏めてくれていると思う」
「いえ、それはどちらかと言うと蓮葉の……」
快が茶道部に来てくれたのも蓮葉の後押しがあったからだ。卯月と和解できたのだって蓮葉が卯月を茶道部に連れてきてくれたからだろう。
「蓮葉ちゃんには空手もあるだろう?」
「それは確かに。空手部ではないけど、高体連では助っ人に入ってましたね」
個人戦は遠慮していたが団体戦は是非にと頼まれていた。
「部長になったらなかなかよその部の助っ人には入りづらいだろうし、蓮葉ちゃんが茶道部に入ったのも爽くんを見守るためだ。今は爽くんと快くんと……卯月ちゃんだな」
「いつの間に……」
部長は知ってたんだ。
「爽くんのことは中学の時から知ってるからね。それから爽くんによくくっついて遊びに来ていた蓮葉ちゃんも」
「よく見てますね」
「私も部長だし、お姉さんでもあるからな」
本当に頼もしすぎて、俺が部長を継いだらどこに進めばいいか分からなくなりそうだ。
「だから次は爽くんだ」
「俺にできるでしょうか」
「もちろん。この私が推薦してるんだ。そして爽くんにならみんなついてくるよ」
「……」
ちらり、と快を見る。
「もちろん俺もだよ。きっと卯月も。幼馴染みだからさ、懐く対象も何となく分かるんだ」
どちらかと言うと蓮葉な気もするけど……頼ってくれてるのは分かるんだ。
「だから、考えておいてくれ」
「はい、部長」
快たちがついていてくれるのが分かるから。俺も迷わずに部長のようになれるだろうか。

