――――夏休み間際
俺は事前に竜兄や部長と話した合宿の件を、みんなを集めて蓮葉たちにも伝えていた。
「合宿!?楽しみ~~!お泊まりするんだよね」
「まあな。でも蓮葉は隣だから日帰りでも……」
「私だけ日帰りなんてやだよー!お泊まりするもん」
「はいはい」
まあ竜兄も昔隣なのに合宿がてら蓮葉のうちに泊まりに行ってたことあるしな。
「一応泊まる部屋も男女で部屋割りを……」
「でもその、ぼくはどうすれば」
と卯月。
そう言えば……なんだよな?
「卯月ちゃんも女子なんだから、女子部屋においでよー」
「うん、私も構わない。着替えや風呂は交替にすればいいだろう?」
と蓮葉と部長が答える。
「いいの?」
「もちろんー!」
蓮葉がこくこくと頷く。あっちはあっちで問題ないようだ。
「俺は自分の部屋があるから快は好きに部屋を……」
「爽は一緒じゃないの?」
快が驚いたように問うてくる。
「合宿なんだから、爽も客間に泊まんなよ」
「竜兄……」
「俺も引率として客間使うから……あ、でももちろん顧問だから部屋は生徒同士で使うといい」
いや兄弟だし今さらなんだけど、快にとっては気にしちゃうかな。
「それじゃ、部屋は快と一緒か」
「ああ!」
やけに嬉しそうだなあ。蓮葉たちがあちらで妙に意味深に苦笑しているのも気になるが。
俺たちは夏休みに入り、予定どおり合宿を行うことになった。
※※※
――――夏休み
「おじゃましまーす」
『お邪魔します』
いつもうちに来るテンションの蓮葉と礼儀正しい卯月と快、そして部長がやって来た。
「お、来たか」
出迎えたのは俺と竜兄だ。
「爽、今日は和服なんだ」
「あう……そうだな、快。せっかくうちでやるんだからって母さんが着せてきたんだ」
いやまあ、うちでお稽古やる時はいつもこれだけど。
「似合ってるよ。私服の爽も和装の爽も全部好きだ!」
「ぶはっ」
全部好きってお前な!?みんなはクスクスと笑っているが俺は知ってるんだからな!蓮葉だけは確実に分かっていて楽しんでるってこと!
「良かったじゃないか、爽」
「ううー……竜兄、他人事みたいに……。てか竜兄はなんで和装じゃないの?」
普段のシャツとズボンである。
「いや、お兄ちゃんはお点前やらないもん」
「え、じゃぁ半東」
「ええっ!?」
「こないだ都合のいい時はお兄ちゃんを頼るように~~とか言ってたじゃん」
「そう言うニュアンスだったかなぁ~~?」
「ふふっ。相変わらず仲がいい兄弟ですね、竜ちゃん先生」
「ほんと……誰に似たんだろう」
部長の言葉に竜兄が苦笑する。
「まあ、何はともあれお泊まり用の部屋も用意してあるから、こちらへどうぞ」
竜兄が告げ、俺も共に案内だ。
「去年までは爽くんも中学生だったが一緒にやったな」
「まあ去年は母さんが講師で教えに行ってましたからね」
「夏休みはこちらにお邪魔して合宿をやっていたんだよ」
「へぇ……以前からなんですね」
快が驚く。
「そうそう。その頃から私や卒業した先輩たちは、先生について来た爽くんを知っているわけだ」
「俺が赴任してからは母さんと交替したけど」
ちょうどそのタイミングで前の茶道部顧問が定年退職で、竜兄が顧問になったんだよな。
「指導は主に爽くんですけど」
「だって爽の方が上手いし」
そうへらへらする竜兄は全く……。
「……まあお稽古するとしてもみんなとは違う内容になっちゃうから、そこら辺は家でお稽古してたんだ。教えるのも苦じゃないからさ」
「そう言うこと!」
そう竜兄が告げた時だった。
「あら、あなたも初級なら見られるでしょうに。鍛え直そうかしら」
「ぎゃーっ!?母さん!?」
現れたのは母さんだった。
「お久しぶりです、静先生」
「まあ、小梅ちゃん久しぶりね。蓮葉ちゃんもいらっしゃい。ほかの部員のみなさまも初めましてね。竜一郎と爽二郎の母・静よ。寒薙は3人もいるから、気軽に静先生と呼んでね」
『よろしくお願いします!』
緊張しながら答える3人を今度は俺が紹介していく。
「あら……陽向……もしかして葵さんのところの?」
「母を知っているんですか?」
「もちろん!葵ちゃんとは大学が一緒だったから。葵ちゃんも茶道が好きでサークルも一緒だったのよ。だから卒業後も何度かお茶席に招いたりお呼ばれしたわ」
「それで……あ、俺が母さんにお茶席に連れていってもらったのって……」
「葵ちゃんが息子くんを連れてきてくれたのよ。それからその時は同じくらいの年頃だからって爽にお点前をさせたのよ~~」
そう言ういきさつだったのか!そしてだからこそ小学生の頃のお茶席で俺たちは邂逅したのだ。
「その後は葵ちゃんがひとりで出席することが増えたけど……まだ茶道に興味を持っていてくれたのね。嬉しい!」
「あはは……その、華道の方がダメダメだったので母が諦めたのかもしれません」
「そう言えばお父さんは華道を嗜んでらっしゃったものね」
そっか。親父さんの勧めで習った華道がダメダメだったから。
「でも大丈夫!爽ちゃんがみっちり教えてくれてるんだもんね」
「はい!お陰さまで」
めっちゃキラキラした目で答えるんだから、快は。しかし母さんと快のお母さんが知り合いだったとは初めて知る事実であった。
――――俺たちは一旦宿泊部屋に別れて持ち物の整理をする……とは言えここは俺の実家なので着替えを持ち寄っただけだが。
「それにしても中学生の頃の……爽か」
「どうした?快」
「いや、俺も見てみたかったなって」
「中学生の頃の俺なんて一番おバカな時期じゃんか。見ないでくれ」
皐月さんに憧れ、玉砕した未熟だった頃。
「中二病のこと言ってる?爽は聡明そうなのに」
「日本の中二男子はすべからくおバカになるって決まってんの。やっぱり海外は違うのか?」
「どうだろう?進学校だったからね」
「やっぱ快って頭もいいよな」
テストの結果も良さげだった。
「爽も頑張ったじゃないか」
「平均点だよ」
「それでも」
快がおもむろに頭をなでてくる。
「……っ!その、えと」
「あ、ごめん。つい」
「ついってもう……」
「でも知ってる。爽がまんざらでもない時の反応だ」
「い゛……」
いつの間に蓮葉なみの分析力を保持してるの何で!?

