――――待ち合わせ場所に急ぐと、既に快が待っていた。

「ごめん、待った?」
「いいや、今来たところだよ」
良かったぁ。服選びで待たせたなんて言えないからな。

「だけど……爽」
「ん……?何?何か変?」
快もラフなシャツとズボン。俺もそんなに浮いてないと思うんだけど。

「その、セクシーだなって」
「はいっ!?男にセクシーとかある!?」
「あるよ、モデルとか」
「モデルとかの話だろ?俺は一般人」

「確かにそうだけど……」
「うう……やっぱり失敗だったか」
「そんなことないって!蓮葉さんが爽のよそいきは大胆だから期待してって言ってたよ」
いつの間にそんなことを!?

「いつも道場行く時のよれTシャツにすれば良かった。あ……でも快も嫌だよな?」
「そんなこと……。爽なら何を着ていても似合うよ。それも似合ってる」
たとえ社交辞令だとしても、嬉しいのはどうしてだろうか。

「なら、い……行こうか」
「ああ!デートだな!」
「だからデートとか大声で言うなって」
「でも最近の日本は同性同士のお出掛けもデートって言うんだろ?蓮葉さんが教えてくれたよ」
蓮葉に騙されていると言うか乗せられてるーっ!アイツ帰国子女に何つーこと教えてんだ。

「それは女子だけだって」
「え……っ、そうなの!?」
「そうそ。だからデートとか……」
その時、快の手が俺の手を握ってくる。

「ちょ……快!?」
「それじゃ、爽も意識してくれてたってこと?」
な、何をだ~~っ!

「その、手」
「ナンパされたらかなわないからね」
「誰がナンパすんだよ……」
むしろお前の方が逆ナンされないか!?そんな疑念を抱きつつも、快は楽しそうだ。

「最初はどこに行く?」
「その、外は暑いし地下街巡りが無難かなと思うんだけど」
「そうだね。駅もだいぶ様変わりしたみたいだし、教えて!」
「うん」
その間も手を放さないのは……ナンパ警戒?俺、ナンパされるような見た目でもないんだけどなぁ。

むしろそれは快の……いやいや、何を考えてるんだか。

「さ、最近は食べ物屋とかカフェも増えたよ。昔からある雑貨屋もあそこら辺に」
「へぇ……何となく覚えてるかも。うっすらと……だけど」

「じゃぁ言ってみるか?和風茶房に行くにしてもまだちょっと早いし」
「うん、爽のオススメを教えて」
「じゃぁ、こっちの見てみる?」
選んだのは和風雑貨を多く取り扱っているショップだ。

「なかなかいい雰囲気だな」
「だろ?」

「爽は普段どんなのを買ってるんだ?」
「そうだな……手拭いとか……蓮葉と来る時は蓮葉が女性向けの小物を買ってるけど」
男子だからなあ。女性向けの小物入れとか手鏡とか言うわけにもいかない。

「こう言うの、快は好きか?」
手拭い売場でいくつか手に取ってみる。

「そうだね。家にもいくつかあるけど……意識して買うことってあまりなかったから」
さらには3年くらい海外にいたわけだからな。その前なんて小学生だろう?

「なあ、爽。お揃いで買わない?」
「お揃い?まあいいけど……」
「爽はどんな柄が好きなんだ?」
「花柄は好きだよ。牡丹とか椿とか。あ……お前花はダメだったり……」
その昔、華道で悲劇を生んだのでは……?

「花自体は大丈夫だよ。ただ……時代が俺のセンスに追い付いてないだけだから」
なるほど……?そう言う考え方もできるわけか。

「爽の好きな花なら俺も活けられるかもしれない……!」
「そこは卯月と要相談で頼むわ」
少なくともあちらは長年の経験者である。

「あ、快。いいもの見付けた」
手拭い売場を見ていれば目に止まったものがある。二組あるし、快とお揃いになるな。

快に手拭いを手渡せば快も気に入ったようだ。

「今の季節に合ってるな。向日葵!俺も母さんの影響で好きなんだ。昔は父さんが良く活けてた」
「う、うん?」
じゃぁ華道は親父さんの影響なのかな。そして向日葵が好きなのはお母さんの影響か。

しかし……俺としては快のイメージで選んでしまったのだが。その、気付いてない?それなら……内緒にしておこうかな。

「爽、そんなに嬉しい?」
「へっ!?」
「笑顔がかわいいなって思ってさ」
「……っ」
お前は俺をキュン死にさせる気かあ~~っ!

「いいから、お会計!」
何だかニマニマしている快を引っ張ってレジに向かう。

「あら、爽くんったらデート?若いわねえ」
そうするとレジのお姉さんがふふふと笑いながら会計をして商品を包んでくれる。
「ふぐっ」
これは否定すべきか肯定すべきかすごく悩む。

「知り合いなの?」
「その、よくお茶席で一緒になるから。梓先輩だよ。梓先輩、彼は茶道部員で……」
「あら……そうだったのね。私もOGで茶道仲間なのよ~~。卒業してからも、当時の講師の先生に習っていてお茶席を手伝いに行ってるんだけど爽くんはよくご両親のお手伝いで来てるから」

「そうだったんですか。あと、因みにデートです」
「あら……っ」
オイやめろ。言いふらすな。

「また来てね~~」
「はい、また」
「また来ますね」
梓先輩に手を振りつつ、手拭いを大切に鞄にしまう。

快も快で嬉しそうに俺の手を握っているのだが、無理に振りほどく気にはなれないのも事実である。