――――もうすぐ夏休み。
しかし学生たちにはその前の試練がある。

「うへぇ……やっと全部終わったぁ……」
力尽きるとはまさにこう言うこと。

「お疲れ、爽」
「お前は何でそんなに元気なんだ」

「だってやっとテストが終わったんだしな」
「普通その前に力尽きてるだろ」
運動部でもないのに元気すぎるんだよな。でもやっぱり運動は苦手なのか体育の球技ではボールが明後日の方向に飛ぶのだ。

「テストが終わったらデートだろ?」
「ぶふっ、何言ってんだお前はっ!」
デートって言ったらその……まるで俺たちが……って何を考えてんだ俺はっ!

「わぁ、そーちゃんたちも?私も卯月ちゃんとデート行くんだあ~~」
呑気に告げる蓮葉だが……女子同士で遊びに行くと言う意味の『デート』発言とは違うんだぞ!?そりゃぁ卯月は身体は……だが一応女子枠だからな?

「因みにそーちゃんと行くなら和風茶房がオススメだよ~~」
「こら、蓮葉!勝手に俺の個人情報を……それに快の好みだって……」

「俺も和菓子は好きだから、ちょうどよかった。街、案内してくれるんだろ?」
うう~~っ。

「爽のおすすめのお店に行きたいな」
「わ……分かったから」

「お、そーちゃんがデレたーっ!」
叫ぶな蓮葉!恥ずかしくなるだろうがっ!しかもいつの間にかうちのクラスを覗きに来た卯月の元へ行ってるし。

「明日土曜だし、明日にする?」
「まあ、そうだな」
俺もテスト明け用に空けておいたから。快とのデ……いやお出かけ、楽しみだなあ。

しかし……こう言うのって何か準備した方がいいんだろうか?家に帰ってからもあれこれ考えたのだが……。うう、何も思い浮かばないし蓮葉に聞こ……いやこれは男子同士のただのお出掛けなんだからっ!

――――そう悶々と悩みすぎて、気が付いたら朝になっていた。

「服……」
何にしよう。うぐ……今まで適当に着ていたはずの服に悩むなんて何なんだこれはっ!

かくなる上は。

「今日のラッキーカラー!」
占いは都合のいいことだけ信じる。蓮葉からのためになる格言である。

「ええと……若草色」
そんな色の現代服あるぅっ!?そりゃぁ着物なら持ってるけど!

「竜兄ー!」
「うぉっ!?どうしたこんなに朝早く」
困った時は竜兄に限る。

「なあ若草色の服持ってない?」
「……はぁ?何言ってんだ。着物なら何かあるだろ」
「違う!和装じゃなくてTシャツとかズボンとか!」

「そんなマニアックな……。てかどっか行くのか?まさか……蓮葉ちゃんとデート?」
「バカ!蓮葉とはそんなんじゃないし、蓮葉は卯月と女子同士の言うおデートだ!」

「……っ、ああ、皐月の」
一発ぶん殴ったとはいえ、友だちだった相手だ。竜兄もまだ気になる……かな。

「悪い。嫌なこと思い出させた」
「別に。もう気にしてない」
あれは結局皐月さんの一方的な恋慕であり俺の秘めた告白は明かされなかった。皐月さんにも最後の良心くらいはあったのだろうか。

「それならいいが……今度から何かあったら兄ちゃんに言うんだぞ」
「けど……」
「けどじゃない。何のための兄ちゃんだと思ってんだ。何かあれば頼れ。な?」
「……うん」
何だかんだで結局は頼ることになってしまうのだから。

「それにしても、デートじゃないならお前はどこ行くつもりなんだ?」
いいえデートです……何て言えるか!
だいたい俺たち付き合ってないし、快も冗談で言っただけだろ?

「快と、遊びに行くだけ」
「何だ、友だちと遊びに行くだけか」
そうです、男友だちと遊びに行くだけです!

「それで……服が」
「いつもそんなに悩んでるか?道場遊びに来る時みたいな感じでいいだろ」
んな適当なっ!あれは単に隣の家に空手の稽古に行ってる竜兄に弁当届けに行ってるだけだから!

うう……しかし悩みすぎたら約束の時間が……。

仕方がない。よそいき用の引き出しから適当に手に取った服を着ていく!よし、もう悔いはない!