雷鳴が裂け、大広間を揺るがす。光と闇の衝突は限界に達し、今や一歩でも誤ればすべてを呑み込む渦と化していた。
「蒼嵐様は…私のものよ！」
雪蓮は血走った目で叫び、呪符を幾重にも放つ。黒い蛇のように澪の腹へ伸びるそれを、蒼嵐の剣が斬り払う。しかし斬っても斬っても尽きることなく、雪蓮の呪気は狂気じみて溢れ続けた。
「澪、下がれ！」
「いいえ……！」
澪は痛みに耐え、腹に手を添えた。
「この子は……私と一緒に戦ってる。私だけ逃げるわけにはいかない！」
再び澪の身体から光が溢れ、今度は母子の祈りが結晶のように輝いた。蒼嵐は光に背を預け、剣を構え直す。
「澪、共に終わらせよう。雪蓮の呪縛を。」
二人の力がひとつに重なる。刹那、雪蓮の珠から迸る黒炎に呑まれ、反転して彼女自身に襲いかかった。
「やめて！いや、……いやあああ！」
雪蓮の身体が黒い霧に絡め取られ、苦悶の声が大広間に響き渡る。その顔はかつての美貌を失い、歪んだ嫉妬と憎悪の化身と化していた。
「あなたが……選ばれたのは、なぜ……？私ではなく…！」
雪蓮の叫びは、澪に突き刺さる。しかし澪は、腹を守るように抱きしめて答えた。
「私が選ばれたのではない。この子が……あなたの呪いにも屈しない命が、選ばれたの。」
雪蓮の目から絶望が溢れ、そのまま呪気に呑まれて消え去った。黒い霧はやがて晴れ、大広間に静寂が訪れる。残されたのは、澪と蒼嵐、そして澪の腹に宿る強い鼓動だけだった。澪は蒼嵐に支えられ、肩で息をしながら微笑む。
「……終わったの？」
「いや、これからだ。」
蒼嵐は澪の腹にそっと手を置き、目を細めた。
「お前が産む子こそ、我らの未来を照らす光。その存在を、誰も否定できぬ。」
澪の胸に、温かな涙が溢れる。選ばれたのは自分ではなく、共に生きる命。嫉妬に狂った雪蓮との違いを示す答えが、そこにあった。こうして血戦は終わり、澪の勝利と「ざまぁ」が、永遠と刻まれることとなった。