澪がその力を開花させた噂は、瞬く間に宮廷中へと広がった。人々は口々に「やはり神の加護は澪に宿っていた」と囁き、雪蓮の存在感は急速に色あせていった。かつては姫君として持ち上げられていた雪蓮も、今では侍女たちの陰口の的にすぎない。
「……許せない。」
雪蓮は鏡に映る自分の顔を見つめ、爪を食い込ませた。白粉の下に浮かぶ憎悪の色は、もはや姉妹の情愛など微塵も残さぬものだった。
その夜、雪蓮は密かに神殿へと向かった。月明かりすら届かぬ地下の禁忌の間。そこに封じられているのは、母胎に宿る命を蝕む『呪胎の術』だった。古より禁じられてきた、穢れと血にまみれた術法。
「澪の子を…消してしまえばいい。そうすれば蒼嵐様は私に戻るはず。」
雪蓮の手が石板に刻まれた古代文字をなぞると、赤黒い霧がじわりと溢れ出した。耳の奥で呻き声が響き、骨を軋ませるような冷気が彼女を包む。
「……ああ…これが、力……!」
その身に宿る悪しき気配に酔いしれながら、雪蓮は狂気じみた笑みを浮かべた。
一方その頃、澪は寝所で不穏な夢にうなされていた。腹を抱え、息苦しさに顔を歪めると、胎内から助けを求めるような鼓動が伝わってきた。冷たい影が覆いかぶさる感覚。
「澪!」
駆け寄った蒼嵐がその手を握りしめた瞬間、澪の身体から淡い光あふれ、影を振り払った。だが完全に退けたわけではない。光と影が拮抗し、澪の力は試されているかのようだった。澪は蒼嵐の胸にすがりながら、掠れた声で呟く。
「…この子を……守らなきゃ…。」
蒼嵐はその額に口づけ、決意を込めた瞳で囁いた。
「必ず守る。お前も、この子も。俺が……何があっても。」
澪の覚醒した力と、蒼嵐の誓い。その二つが重なった瞬間、影は一時的に後退した。だが、雪蓮の呪いは確かに胎へと忍び寄っていた。
「……許せない。」
雪蓮は鏡に映る自分の顔を見つめ、爪を食い込ませた。白粉の下に浮かぶ憎悪の色は、もはや姉妹の情愛など微塵も残さぬものだった。
その夜、雪蓮は密かに神殿へと向かった。月明かりすら届かぬ地下の禁忌の間。そこに封じられているのは、母胎に宿る命を蝕む『呪胎の術』だった。古より禁じられてきた、穢れと血にまみれた術法。
「澪の子を…消してしまえばいい。そうすれば蒼嵐様は私に戻るはず。」
雪蓮の手が石板に刻まれた古代文字をなぞると、赤黒い霧がじわりと溢れ出した。耳の奥で呻き声が響き、骨を軋ませるような冷気が彼女を包む。
「……ああ…これが、力……!」
その身に宿る悪しき気配に酔いしれながら、雪蓮は狂気じみた笑みを浮かべた。
一方その頃、澪は寝所で不穏な夢にうなされていた。腹を抱え、息苦しさに顔を歪めると、胎内から助けを求めるような鼓動が伝わってきた。冷たい影が覆いかぶさる感覚。
「澪!」
駆け寄った蒼嵐がその手を握りしめた瞬間、澪の身体から淡い光あふれ、影を振り払った。だが完全に退けたわけではない。光と影が拮抗し、澪の力は試されているかのようだった。澪は蒼嵐の胸にすがりながら、掠れた声で呟く。
「…この子を……守らなきゃ…。」
蒼嵐はその額に口づけ、決意を込めた瞳で囁いた。
「必ず守る。お前も、この子も。俺が……何があっても。」
澪の覚醒した力と、蒼嵐の誓い。その二つが重なった瞬間、影は一時的に後退した。だが、雪蓮の呪いは確かに胎へと忍び寄っていた。



