雪蓮の偽装妊娠が白日の下に晒された後も、宮中にはざわめきが絶えなかった。だが、その騒ぎをよそに、澪の腹の中で確かに育まれている命は日ごとに力強さを増し、彼女自身にも変化をもたらしていった。
ある夜の月明かりの下、澪は突然腹の奥からあふれるような温かさに包まれた。
「…これは…?」
掌をお腹に当てると、じんわりと光が滲む。柔らかな光は彼女の指先から広がり、周囲の空気さえ震わせた。澪がもともと持っていた『癒し』の力が、懐妊を機に飛躍的に強まっていたのだ。翌朝、その力を目の当たりにしたのは蒼嵐だった。彼は政務の合間に澪のもとを訪れた。澪は庭にいた。その足元には小鳥が倒れていた。蒼嵐が小鳥を拾い上げると、羽は折れており、もはや助からぬように見えたその小さな命に、澪がそっと手をかざすと、淡い光が鳥を包み、ひときわ強く輝いた瞬間、折れていたはずの翼は元通りになった。小鳥は澪の肩にとまり、澄んだ声でさえずると、大空へ飛び立っていった。
「……これは」
蒼嵐は言葉を失った。彼は戦で数多の奇跡を見てきたが、今目にしたのはそれらを凌ぐ神秘だった。澪は少し怯えたように彼を見上げた。
「ごめんなさい、驚かせてしまって。でも、この子がいると……自然に力が湧いてきて。」
蒼嵐は無言で彼女の肩に手を置いた。強く、けれども優しい手だった。
「…謝るな。むしろ誇れ。それらは我らの子が授けてくれた力だ。」
その声には、もはや義務だけではない温もりが宿っていた。
一方、雪蓮はその噂を耳にし、嫉妬で顔を歪めていた。澪が懐妊しただけでなく、その力まで強まったという。宮廷の誰もが「正妃に相応しいのは澪」と口にし始め、雪蓮に向けられる目は失笑と軽蔑に変わりつつあった。
「そんなはずはない!……私こそが蒼嵐様にふさわしいのに……!」
怒りと焦りに駆られた雪蓮は、ついに禁忌に手を伸ばそうとした。神殿の奥深くに封じられた『呪胎の術』。それは母の胎に宿る命を穢し、死へと導く呪法だった。
「澪を…その子を……消し去ってやる。」
その狂気は、やがて大きな悲劇を呼び寄せることになるのだった。だが、このとき澪はまだ知らない。母となる自覚とともに開花し始めたその力が、悪意をも跳ね返す『守護』の力へと育っていくことを。
ある夜の月明かりの下、澪は突然腹の奥からあふれるような温かさに包まれた。
「…これは…?」
掌をお腹に当てると、じんわりと光が滲む。柔らかな光は彼女の指先から広がり、周囲の空気さえ震わせた。澪がもともと持っていた『癒し』の力が、懐妊を機に飛躍的に強まっていたのだ。翌朝、その力を目の当たりにしたのは蒼嵐だった。彼は政務の合間に澪のもとを訪れた。澪は庭にいた。その足元には小鳥が倒れていた。蒼嵐が小鳥を拾い上げると、羽は折れており、もはや助からぬように見えたその小さな命に、澪がそっと手をかざすと、淡い光が鳥を包み、ひときわ強く輝いた瞬間、折れていたはずの翼は元通りになった。小鳥は澪の肩にとまり、澄んだ声でさえずると、大空へ飛び立っていった。
「……これは」
蒼嵐は言葉を失った。彼は戦で数多の奇跡を見てきたが、今目にしたのはそれらを凌ぐ神秘だった。澪は少し怯えたように彼を見上げた。
「ごめんなさい、驚かせてしまって。でも、この子がいると……自然に力が湧いてきて。」
蒼嵐は無言で彼女の肩に手を置いた。強く、けれども優しい手だった。
「…謝るな。むしろ誇れ。それらは我らの子が授けてくれた力だ。」
その声には、もはや義務だけではない温もりが宿っていた。
一方、雪蓮はその噂を耳にし、嫉妬で顔を歪めていた。澪が懐妊しただけでなく、その力まで強まったという。宮廷の誰もが「正妃に相応しいのは澪」と口にし始め、雪蓮に向けられる目は失笑と軽蔑に変わりつつあった。
「そんなはずはない!……私こそが蒼嵐様にふさわしいのに……!」
怒りと焦りに駆られた雪蓮は、ついに禁忌に手を伸ばそうとした。神殿の奥深くに封じられた『呪胎の術』。それは母の胎に宿る命を穢し、死へと導く呪法だった。
「澪を…その子を……消し去ってやる。」
その狂気は、やがて大きな悲劇を呼び寄せることになるのだった。だが、このとき澪はまだ知らない。母となる自覚とともに開花し始めたその力が、悪意をも跳ね返す『守護』の力へと育っていくことを。



